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第六話 蜘蛛

よっ!ほっ!はっ!と言いながら早くも出現した蚊を退治してます。

 太陽が真上に上る頃のとある街道を、とある商人が複数の護衛を引き連れ荷馬車を走らせていた。


 荷馬車を走らせる彼の名はケンダー。一介の商人だ。


 ケンダーは、真っ昼間の街道を安心しきった表情で馬車を走らせる。


 その理由は至極単純なものだ。


 ケンダーの荷馬車を囲うようにして馬を走らせる者達。彼らは、近くの街の冒険者ギルドのパーティーだ。


 ここで、冒険者について説明しておこう。


 まず、冒険者ギルドには二種類ある。依頼を受けて、こなすギルドが戦闘ギルド。依頼を冒険者に斡旋するギルドが、依頼斡旋ギルド。これら二つのギルドを総称して冒険者ギルドと呼ぶ。


 戦闘ギルドは自営業。以来を成功させて食を繋ぐ。


 依頼斡旋ギルドは国営企業。普通に国から給料が貰える。


 どちらが儲かるかと言えばどっちもどっちと言ったところだ。


 低ランクの仕事しかこなせない者は、斡旋ギルド職員の給料よりも少ないし、高ランクの仕事をこなす者は斡旋ギルド職員よりも多い収入を得ている。だが、それ相応のリスクは伴う。


 まあ、安定的に稼げるのは依頼斡旋ギルド職員であろうことは明白だ。そのため、依頼斡旋ギルド職員は結構人気の高い職業だったりする。


 次に、冒険者にはランクというものがある。


 ランクはS~Fまで。Sが最上位、Fが最下位のランクだ。これは個人や、パーティーで挙げた功績により、個人ランク、パーティーランク等、分けて付けられる。このランクというのは戦闘ギルドも同じで、ギルドが挙げた功績に基づきランクが付けられる、ギルドランクと言うのもある。勿論、依頼斡旋ギルドにはランクはつかない。


 とまあ、ギルドの簡単な説明これで良いだろう。


 今、ケンダーを護衛しているのは、ギルドランクA、パーティーランクB、個人ランクがA~Bで構成された熟練者パーティーだ。


 そんな彼らに守られながらの移動は実に安全なものであった。


 荷馬車を狙った盗賊共は即座にその首を跳ねられ。腹を空かせ襲いかかった魔物は命を絶たれ素材をはぎ取られる。


 流石手練れの冒険者と言ったところか、動きに無駄がなく、素早く敵を一掃する。


 剣など握ったことすらないケンダーですら、彼等は他の者とは一線をきす者達だと即座に理解できた。


 では、なぜ一介の商人であるはずのケンダーが、護衛料金の高いであろう彼等を護衛に出来たのかというと、彼の商人仲間であり兄貴分でもある人物が彼等を低賃金で斡旋してくれたのだ。


 ケンダーにとっては初めての商いなので、彼は安心して商いに行って欲しかったのだ。


 これが、ケンダーが彼等を護衛に出来た理由であった。


(アニキには感謝しなくちゃな。オレにこんなに良い護衛を安く斡旋してくれるだなんて)


 今は商いが終わった帰り。商品も全て売れてお金もたんまり手に入った。


 ホクホク顔のケンダーは心の中でアニキに感謝をしながら馬車を走らせる。


 そんな上機嫌な彼とは打って変わって、護衛を務めている彼らの機嫌はあまり良いものではなかった。


 馬車の後方で待機をしている護衛に一人の護衛が近付く。


「なあシャウバー。なんであたしらこんな金の少ない仕事しなくちゃいけないんだ?」


 シャウバーと呼ばれた青年は、彼女の言葉にうんざりしたような顔をする。彼女のこの質問はこれが一度目ではなかったからだ。


「ヘナ。その質問は何度目だ?来る前にも帰る前にも散々言っただろう?俺らを懇意にしてもらっている商人の方がどうしてもと言ってきたからだ。彼は羽振りが良いから、良い稼ぎ口を減らしたくなかったんだろうよ、ウチのギルマスは」

   

 シャウバーの言葉にヘナと呼ばれた少女は不満げな顔をする。


「でもよう、おかしいじゃん。いつものあたしらの四分の一もないんだぜこの仕事?せめて半分いってんならわかんだけどよぉ。ったく、やってらんねえよ」


 ヘナとてシャウバーの言いたいことは分かる。だが、分かってはいてもこんな安い賃金で働かなくてはいけないことが気に入らないのだ。その愚痴を言いたくてシャウバーに話しかけているのだ。


「ヘナ、声を抑えろ。雇い主に聞かれたらどうする」


「馬車がガラゴロうるさいんだ。聞こえやしねぇよ」


 ヘナの言うとおり、この街道はお世辞にもきれいに舗装されているとはいえ無い。所々凸凹していて、その上を馬車が走る度に車体が跳ねガタガタと音をならしている。


 その音に紛れて二人の話し声など、よほど耳が良くなければ聞こえはしないだろう。


 だが、シャウバーはヘナの物言いに渋い顔をしながら言葉を返す。


「万が一と言うのがあるだろう。もっと声を落とせ」


「これ以上落としたらあたしの声も聞こえなくなっちまうだろうが」  


「おいお前ら。くっちゃべってるな。仕事に集中しろ」


 言い合う二人に低い落ち着いた声が叱責を入れる。


 シャウバーはまずいと言った顔を、ヘナはウゲェと嫌そうな顔をする。


「すいませんクーゲルさん。ヘナ、自分の配置に戻れ」


「へーい」


 シャウバーの言葉に渋々ながらも従うヘナ。


 クーゲルと呼ばれたスキンヘッドの男は、ヘナが自分の配置に戻るのを確認すると視線を前に向け周囲を警戒し始めた。


 ヘナはクーゲルにべーっと舌を出す。それを見たシャウバーは馬を近付けてパシンとヘナの頭をはたく。


「イタッ」


 キッとシャウバーを睨むヘナ。それを柳に風と流して配置に戻る。


 暫くシャウバーの事を睨んでいたがとことん無視をするシャウバーにつまらなそうにチッと一つ舌打ちをすると、ヘナも周囲の警戒を始めた。


 それを見ていたこの隊の副リーダーであるコリンは苦笑を漏らした。


 コリンはクーゲルに馬を近付ける。


「クーゲル」


「なんだ?」


 チラリとコリンを一瞥するも警戒を続けるクーゲル。


「いや~、あの二人にも~ちっと二人の時間をあげて欲しいのよ~」


「なぜだ?」


 クーゲルのその言葉に、コリンはあからさまにため息を吐く。その仕草にクーゲルは少しだけ根眉を寄せる。


「なんだその態度は」


「いやあ、あんなにあからさまなヘナの態度に気付かないとは、やっぱりクーゲルに色恋の事は分からないんだなと思ってさ~あ」


「?何が言いたい?」


 本当に分からなそうにきょとんとした顔をするクーゲルにコリンはまたもやため息を吐く。


「本当に分からんのか?」


「だからなにがだ?」


「わーった。もーいい。とにかく、二人のことはもう少し大目に見てやってくれって事だ」


「了承しかねるな。仕事の最中だ。気を抜けばそれだけ死に近づく」


「あの二人だって警戒を怠ってた訳じゃない。話しながらも警戒は出来る。ここにいるのはそう言う連中だけだろ?」


 実際、コリンもクーゲルも会話はしているものの周囲の警戒は怠ってはいない。   


「だとしても、仕事中だ」


「かーっ!かったいね~クーゲルは!お前に嫁さん出来ない理由が分かったよ!」


「そう言うお前こそ嫁いないだろ」


「大丈夫!いざとなったらギルマスの娘さん貰うから」


「ギルマスがお義父さんってゾッとしないな…」


 微妙そうな顔をするクーゲルに、コリンは今までのふざけた表情とは打って変わって穏やかな笑顔になる。


「まあ、ぶっちゃけるとだ。ヘナには妹みたいにはなって欲しくないんだよ」


「サーシャか…」


「そ、サーシャ」


 コリンは物思いに耽るような顔になる。


 サーシャは、コリンやクーゲルと同じく、このギルドに所属していた。していた、と言うのも、彼女は二年前に仕事の最中に仲間を庇って命を落としたのだ。


「皮肉なもんだよな…庇った相手に恋い焦がれていたのに、向こうは気付いちゃくれねんだからよ…」


 コリンのその言葉に、鈍感なクーゲルも流石に気付いたようで納得の表情を見せる。


「ほう…そう言うことだったのだな。…なるほど、確かに思い返せばそんな節が見られるな」


「やっと分かったか?」


「ああ…ふっ…そうだな。俺も少し大目に見るとするよ」  


「ああ、頼むよ」


 コリンは、ヘナとサーシャを重ねて見ていた。年の頃も同じ。身長も同じくらい。性格は、真面目なサーシャとは似ても似つかないが、浮かべる笑顔だけは同じだった。そして、仲間の一人に恋い焦がれている所も同じだった。


 そんなどこか妹に似たヘナを、コリンは妹のように扱っていた。


 休日には服を買ってやったり、甘味どころに連れて行ってやったりした。生前のサーシャにしていたような事をしてやっていた。


 何も知らない人が見たのならば、二人は恋人に見えたのかもしれない。だが、知っている人が見れば、二人の姿は仲のいい兄妹に見えていた。


 だからこそ、恋いも叶えることの出来なかった真面目で不器用な妹のような末路をヘナにたどって欲しくなかったのだ。


 そのためにコリンはクーゲルに大目に見るよう頼んだのだ。


 クーゲルとはギルドの同期だ。勿論サーシャの事も知っている。そのため分かってくれたのだ。


 クーゲルに心の中で感謝をしていると、不意に馬車がゆっくりと速度を落とした。


 元々、ゆっくりとした走行ではあったものの、それよりもゆっくりと走る馬車。


「なんだ?」


 不思議に思い口から出た言葉に、クーゲルが答える。


「大方、進路に障害物でもあったのだろう」


「ああ、確かにな…」


 この街道はろくな整備もされていない。そのため、よく切り倒された木や、岩などが転がっていることがある。


 納得しかけたコリンだが、それは違うと考える。

 

「いや、それはないだろう。ここは四日前にも通った。そうすぐに大きな障害物が道を塞ぐとも思えん」


「一理あるな…まあ、何にせよ見てみれば分かることだ」


 クーゲルの言葉にそれもそうかと頷くコリン。


 速度を落とし続けた馬車は完全に停車する。


「すまないが、道をあけてはくれないか?馬車が通れないんだ」


 馬車の前方を警護していた仲間の声が聞こえる。声をかけているという事は道を塞いでいたのは人間なのだろう。


「んん~?それは出来ない相談ね~」


 仲間の言葉に答えた声は年端もいかぬ少女の声であった。


「なぜだ?なにか通せない理由でもあるのか?」


「んっふっふっ~それはね~」


 少女が理由を告げるかと思った瞬間。


「えいっ」


「ぎゃあああああああああああああ!」


 少女に声をかけた仲間の悲鳴が街道に響き渡った。


「なっ!?」


 突然の仲間の悲鳴に驚愕するパーティーの面々。


「ふひひひひひひ!これで八人だよぉ!?皆で山分けぇ!!」


 場違いに嬉しそうな声を上げる少女の言葉をきっかけに、木々の間からフードのついた外套を纏った七人の人物が馬車を囲うようにして姿を現す。


 驚愕も一瞬。コリンはすぐさま得物を構え指示を出す。


「全員剣を構えろ!油断するな、コイツ等相当できるぞ!」


 副リーダーであるコリンが指示を出したのは、リーダーである男が先ほど殺されたから。


 リーダーの個人ランクはAだ。そのリーダーが不意打ちであれいとも容易く殺された事実に、コリンは冷や汗をかく。


「ひっ、ひいぃぃぃぃ!」


 目の前に現れた謎の人物達に恐怖を覚えたのか、ケンダーが馬車を走らせる。


 だが、走り出しで速度の出ていない馬車は即座に止められる。


「あれあれ?逃げちゃダメだよぉ!」


 少女が腕を振る。直後、馬車を引いていた馬が胴体から両断される。


 少しだけ速度の乗っていた馬車は、崩れた馬の死骸に乗っかりバランスを崩して横転してしまう。


「た、助けてぇ!」


 横転した馬車の御者台から放り出されたケンダーは、地面を這いながらコリン達の元へ戻ろうとした。だが、


「え~?うるさ~い。助けてあ~げない!」


 またもや少女が腕を一閃する。それだけで、あっさりとケンダーは首を落とされる。断末魔すら上げることの出来なかったケンダーの目は驚愕に見開かれたままだった。


 その顔を見た少女はケタケタと笑い出す。


「あっははっ!おかしな顔~!見て見て!変な顔してるぅ!」


 少女は一番近くにいた仲間にちょいちょいと手招きをしながらケンダーの首を指差す。


 手招きをされた男はそこから動くことなく答える。


「メリア。悪趣味だ。人の亡骸を笑うものではない」


 男は、静かな声でケンダーの首を指差して笑う少女を窘める。


 メリアと呼ばれた謎の少女は窘められたことが不満なのかう~~っと唸りながら言う。


「メリア悪趣味じゃないもん!悪趣味なのはフーカだもん!」


 メリアのその言葉に、今度は馬車の後方に立っている者が声を上げる。


「ちょっと!そこでワタクシを出さないでちょうだい!不愉快だわ!」


「だって本当の事じゃん!」


「事実でも口に出して良いこととそうでないことがありますわ!」


「事実なら良いじゃん!」


「良くありません!」


 場の雰囲気を考えずに言い争う二人を、今度は別の人物が窘める。


「よせよお前ら。彼らが困惑してるだろう?」


 その人声で言い争っていた二人は渋々ながらも引き下がる。


 それを確認した人物は、一歩前にでると言った。


「さて、突然の非礼を詫びよう。すまなかったな」


 その言葉を聞き、コリンは怒りがこみ上げてくる。


 人を二人も殺しておいて全くすまなそうにせずにそう言うのだ。誰だって怒りがこみ上げて来るものだ。


 だが、今はその怒りを抑える。


 怒りに身を任せて冷静さを欠いたらそれでおしまいだ。彼らは冷静さを欠いたまま戦えるほど甘くはない。   


「非礼だと思っているなら退散してくれないか?」


「それは出来ないね。なにせまだ目的を満たしていない」


「目的?」


「ああ、目的だ」


 フードに隠されていない口がニヤリと笑う。


 その笑顔にコリンはゾッと、背筋に寒いものを覚える。


 これの正体をコリンは知っている。良く理解している。戦場で何度も感じた事がある。


 そう、これは恐怖だ。


 彼の笑顔は熟練の冒険者であるコリンを恐怖させた。


 Aランクの自分が恐怖する相手。


「お前等は…一体何者なんだ…?」


 思わず口をついて出てきた言葉に男はニヤリと歪んだ口で答える。


「僕らは、蜘蛛だ」  


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