第二話 アリシラちゃんの青空魔法教室☆
キリが悪かったので、もう一話今日中には投稿します。
マシナリアへ行く計画が練り終わった次の日。出発は、昨日から一週間後の朝に決まった。と言うわけで、今日から準備期間に入る。
その間の鍛錬をロズウェルに頼んでみたが、旅に出る前に疲労を溜めるのは良くないと言われ断念した。
マシナリア行きが決まっていたのにずっとアリアに話さなかったのもそのためである。
さて、そうなってしまうとアリアは暇を持て余すことになる。
鍛錬も出来ない。旅の準備もメイドちゃんズが全て行っている。
なので、やることがなく暇を持て余したアリアは、何ともなしに城内をうろつく。
療養は終わりだと言われ、久しぶりに部屋から出られたのは良いのだがいかんせんやることがない。
読書は、ここ一週間でロズウェルが持ってきてくれた本を読んだので十分すぎるほどした。なので今度は体を動かしたかったのだが、騎士達の訓練で開いているところがない。
裏庭を使えばいいのかもしれないが、相手がいないので、一人で出来ることと言えば型の練習などしかない。
なので一人でいる今は暇なのだ。
誰か暇な人はいないのかと城内を練り歩いても皆忙しそうに職務をこなしている。
そのためアリアは目的もなくぶらつくくらいしかやることがないのだ。
もう諦めて図書館にでも行こうかなと考えていると、不意に声をかけられる。
「あら?アリアちゃんじゃないの~」
ここ一週間で何度か聞いたことのある声。
声の主を頭の中で思い浮かべながら声の方を向く。
「やっほ~」
案の定、声の主はアリアの思い浮かべた人物で相違なかった。
声の主は木の上に座りひらひらとアリアに向かって手を振っている。
何をしているんだろうなと思いながら声をかける。
「そんなところで何をしているんだ、アリシラ?」
王国最強の魔法師、アリシラ・シエスタは庭にある木の上に座りながら片手でスクロールを広げていた。
ちなみに、アリアは彼女がこの世界では珍しいダークエルフだと言うことは、彼女本人から聞き及んでいた。
アリアは彼女に対して、ダークエルフだから忌避するとか、嫌悪感を覚えるとかは全くない。
珍妙さで言えば、アリアも負けず劣らずなものなのだ。むしろ仲間意識が芽生えているほどである。
それに彼女は悪い人ではないし、お見舞いと称して暇を持て余していたアリアの所に遊びにも来てくれた。嫌う理由などどこにもなかった。
アリアは彼女の持っていたスクロールに目を向けた。
スクロールが風になびいた時にちらっと見えたが、彼女の持っていたスクロールにはびっしりと文字が書いてあった。だが、目の良いアリアでも、字が細かすぎて何が書いてあるのかまでは分からなかった。
スクロールを巻くとローブの裾に仕舞い、木の上から降りてアリアの所まで来るアリシラ。
「魔法の研究だよ。と言っても、昔の魔法師が残したスクロールに書かれた詰まらない字を眺めてるだけだけどね。見た目が古かったから掘り出し物だと思ったんだけどな~。既知の事実しか書いてなかったよ」
結構高かったのになと言って、たははと笑うアリシラ。
「それで、アリアちゃんはな~にしてんの?」
「やることがなくて暇だからぶらついてる」
「ははっ。そうなんだ~」
会った当初から思うのだが、彼女はいつもニコニコと笑っている。なので彼女が何を考えているのかいまいちよく分からない。これが彼女のポーカーフェイスなのかもしれない。
アリシラはあ、そうだと言って指を一本立て中腰になりアリアに言う。
「それじゃあさ、アリアちゃん、これからワタシが魔法について教えてあげようか?」
「え?本当か!?」
そのアリシラの提案はアリアにとって有り難いものであった。
暇も潰せるし、魔法のことも深く学べる。それに、王国最強の魔法師に直接教鞭をふるって貰える機会などそうそうあるものではない。
それに、魔法のことで聞きたいこともあったのだ。
「うん!教えて欲しい!」
元気良く二つ返事でお願いするアリア。
「りょうか~い。それじゃあ、教えてあげよう!」
そう言うとアリシラは踵を返し先程までいた庭に引き返していく。アリアはその後に続く。
アリシラは庭にあるベンチの一つに座ると自身の隣をポンポンと叩く。
「さあ、お座りお座り」
アリアは少しだけ隙間を空けてアリシラの隣に座る。
アリシラはその空いた隙間を詰めると逃げられないようにアリアの腰に手を回し、元気よく言った。
「それでは、第一回、アリシラちゃんの青空魔法教室を開催いたしま~す!」
いえ~いと一人盛り上がるアリシラ。
アリアは、こんなにくっつく必要はあるのだろうかと思いながらも、軽くいえ~いと言ってアリシラのノリに乗っかる。
乗ってくれたアリアに満足げな顔を向けると、アリシラは機嫌よく口を開いた。
「それじゃあ、何から説明しようか!」
「一通り、基礎はロズウェルに教わったよ」
「なるほど。それなら基礎の説明はいらないね。それじゃあ、基礎を少しふまえながら応用でも説明しようか」
アリシラはそう言うと、コホンと一つ咳払いをしてから、真面目くさった顔を作って説明を始めた。
「まず、魔法を使うのに必要なのはマナで、そのマナはワタシ達の体内にあるオド、つまり魂から作られる。それは良いね?」
アリアはコクリと頷く。
「魔法は魂の力と言っても過言ではないの。魂が強ければ強いほど魔法も強くなるわ。まあ、だからといって鍛錬を怠って良いわけではないけどね~。マナを受け入れる器が小さかったら最悪、下級魔法も出せなくなるしね」
「なるほどな。身体と魂は両者一対なんだな」
「そう。魔法を使う上で求められるのは強靭な肉体と、強靭な精神。使う魔法が上級になるにつれて要求される両者の強さも上がっていくのよ」
どちらか片方が弱ければ魔法は強くならない。両方を鍛えなくてはいけないみたいだ。
とすると、魔法師の人が着ているローブの下は、中肉ではなくムッキムキなのかもしれない。
前世の認識とはがらりとイメージが変わってきた。
「魔法師はムッキムキなのか」
「そういう人もいれば、そうじゃない人もいるわ。人によっては元から決まっている器の大きさが大きい人もいれば小さい人もいるの。それによって鍛えるか鍛えないかが変わってくるわ。まあ、大抵の魔法師は元の器が大きかったら鍛えたりはしないわね~。て言うか、まず体と魂の魔法に対する関連性を知らないから、鍛えるなんて発想自体が無いのかもね」
「ぅん?発想自体無いって言うのは?」
「だってワタシ、この事公表してないもの」
「なんだって公表しないんだ?」
「ワタシも人づてに聞いただけなのよ。まあ、聞いた相手は全幅の信頼を置ける相手だし、あの人の言うことならまず間違いないしね。とまあ、そんなわけで、公表しようにも、ワタシの成果じゃないからしたくないのよ」
「なるほどな~」
アリシラの言葉に頷きながら考える。
アリシラにこの事を教えた人物は一体誰なのだろうかと。
魔法に関しては第一線で研究をしているアリシラが、人づてに聞いただけ。アリシラの知らなかった事をその人は知っている。と言うことは、アリシラよりも多くの知識を有している。
一体、誰なのであろうか。
アリシラの話し方から思うに、その人は敵ではないのだろう。そして、アリシラが親しくしている相手。
考えてみたものの、アリシラと出会ってからまだ数日。彼女のことを良く知らないアリアには到底答えの出るような問題ではなかった。
「ん?どうかしたの?」
少しの間黙りこくっていたアリアを心配したのか、アリシラが優しく声をかける。
「んにゃ、なんでもない」
ふるふると首を振り、何でもないとつげるアリアに、アリシラは「そう」と返す。
「それで、さっきの続きだけどね。公表しない理由はまだあるのよ」
「え、そうなの?」
「うん。私としてはこっちの方が公表しない理由としては強いわね。仮説って言うか、想定の話だけどね。それでも、無きにしもあらずって感じなのよ」
言いながらうんうん頷くアリシラ。
だが、アリシラは頷いているが、アリアは彼女が何に頷いているのか皆目見当もつかない。
置いてけぼりをくらいポカンとした表情をしていると、アリシラはアリアの表情に気づき、申し訳無さそうに苦笑しながら話を始めた。
「ごめんごめん。一人で勝手に納得してたわ。…オホンっ。それで、もう一つの理由だけれど、これは少し考えれば見えてくる答えなのよ」
「少しも考えていないが答えを教えて欲しい」
「大丈夫よ、そんな意地悪しないから」
アリアの言葉にクスクスっと楽しげに笑う。
「強い魔法を使う条件として、強靭な肉体と強靭な精神が必要って言うのは覚えてるわよね?」
「ああ」
「そこで重要なのが、強靭な精神の方。肉体の方は、まあ、鍛えたり、戦闘を繰り返していく内に達成できる条件よね。でも、精神の方は違うの。精神の方は、何が強い魔法を使う要因になっているのか分からないのよ。大概が、本人が気付かない内に強い魔法が使えるようになっているから、本人も何が達成条件なのか分からないの。おおよその見当はつくけれど、それが答えかどうかは分からない。だから、強靭な精神はどう鍛えればいいかわからないのよ」
確かに、明確な達成条件が分からなくてはどう精神を鍛えるべきかは分からない。
もしかしたら、トラウマを克服する必要があるかもしれないし、一つの目標をクリアするだけでも良いのかもしれない。
アリアは、アリシラの説明に納得をするが、同時に疑問も覚える。
アリシラの説明を聞く限りだと、精神を鍛える方法は分かっておらず、自分で模索していくしかない。
確かに、難しい条件だ。だが、条件が難しいだけで、それが公表しない理由だと言われると、違和感を覚えざるを得ない。
そんなアリアの違和感に気付いたのか、アリシラは薄く微笑むと言葉を紡いだ。
「今アリアちゃんが思っているであろうことは大体予想がつくよ。達成条件が難しいってだけで公表をしないのか?だよね?」
アリシラの言葉に、アリアは思考を中断させてコクリと頷く。
「そうだね、ただ難しいだけだったら公表していたかもしれないわね。でもね、事はそう簡単に収まりそうにもないのよ」
彼女が何を言いたいのかアリアには見当もつかない。
アリアは小首を傾げて分からないとアピールをして続きを促した。
「強靭な精神って言うのは色々あるの。例えば、勇猛果敢に強力な魔物に挑む。例えば、小山をも越える絶壁を命綱無しで登っていく。例えば、女湯を覗く。うん、どれも並みの精神力じゃ出来ないよね」
最後のは違うんじゃないかなと思いながらも、話の腰を折らないためにアリアは若干躊躇しながらも頷く。
「どれも正解かもしれないし、どれも間違いかもしれない。答えは分からない」
アリシラはそこで一拍置くと話を続ける。
「ここからは例えばの話だよ?ある小国の王様が、この事を知ります。王様は、強靭な精神の達成条件を何とか知ろうとします。そこで王様は思い付きました。分からないのならば虱潰しに探せばいい。ただ、自分一人では時間がかかりすぎる。そこで王様は国民を強制的に徴収し、様々なことを行わせました。あるものには、一人で強力な魔物を倒させ。あるものには、家族を全員殺させ。またあるものには、様々な拷問を施しました」
アリシラの例えの話に、アリアは背筋に寒いものが走るのを感じた。
確かに、アリシラの言うとおりだ。
全てのことが可能性になりうるのなら、その全てを試すしかない。そして、その中には非人道的なものも含まれているのだ。
アリアは寒くもないのに身震いをする。
そんなアリアを見たアリシラは少しだけ悲しそうに微笑む。
「まあ、そんな可能性も考えられるから、ワタシは公表はしないの。ワタシのせいで誰かが不幸になるのは嫌だしね」
悲しげな顔でそう言ったアリシラに、もしかしたら彼女は一度このことを公表したのかもしれないと考えた。
結局は、アリシラが話してくれなければ事の真相は分からない。だが、分からないならそれで良いと思う。
過去に公表したのか。あるいは、別のことが起因しているのかは分からないが、どちらにせよ、彼女が今悲しげにしている顔の嘘はないのだ。それならば、ふれない方が良いのだろう。
アリアはそう考えると、話題を変えようと、今気になっていることを聞いてみることにした。
「なあアリシラ。気になることがあったんだが」
「ん?なぁに?」
「神罰魔法ってなんだ?」
そう、アリアが訊きたかった事は、先の一件でアリア自身が使った神罰魔法についてだ。
アリアはあの時、神罰魔法を無意識のうちに使っていた。
その無意識の内に使っていた魔法が何だったのかが気になったのだ。
アリアの疑問に、アリシラは事も無げに答えを言う。
「神罰魔法って言うのはね、この世界における最上位に位置する魔法よ」
「そ、そうなのか…」
自分はそんな魔法を知らず知らずの内に放っていたのか。
その事実に軽く戦慄を覚えるアリア。
だが、次のアリシラの一言で、戦慄は驚愕に変わる。
「今のアリアちゃんなら…そうねぇ…他に魔法を使った後でも少なくとも五発は余裕で撃てるはずよ。うん」
「え?」




