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第一話 話します

はい、お待たせしました。


新章突入でございます!


これからもよろしくお願いします!



そしてそして、毎度評価、感想、ブックマーク登録ありがとうございます!




 バルバロッセ等の葬儀から一週間が経過した頃。魔物の襲撃やら、バルバロッセ等の訃報やらで騒がしくなっていた王城も、今は落ち着きを取り戻していた。


 フーバーは様々な書類に目を通し、研究所は魔物の部位の研究に勤しみ、宰相は被った損害をどのようにして修復しようかと頭を悩ませる。


 落ち着きを取り戻しても忙しいままの王城の中で、アリアは自室のベッドの上で上体を起こして本を読んでいた。


 物語は良くあるような英雄譚だ。英雄が魔王を倒す。それだけだ。


 ただ、この物語は良くあるフィクションなどではなく、実際の史実であるそうだ。所々脚色はあるもののほとんど事実に近いというのをロズウェルから聞いた。


 物語的には、初代メルリア王国の国王に命じられた、メルリア王国原産の勇者、クワロッド・アドリエが初代アリアと共に魔王を倒す。という感じだ。


 もう気づいたと思うが、クワロッド・アドリエはロズウェルのご先祖様だ。ロズウェルが勇者の子孫だったのだと分かった時はとても驚いた。


 それと、メルリア王国原産の勇者と言うのも、ここ最近では異世界から召喚される者が勇者と呼ばれるようになったので、メルリア王国原産と表したのだ。


 メルリアの勇者と異世界の勇者。違いはやはり地力か与えられたものかの違いであろうか。


 クワロッドは日々の鍛練を重ねて勇者と呼ばれるまでに至った。一方異世界の勇者は女神の加護をうけ勇者と呼ばれるようになった。


 どちらが真の勇者足るに相応しいかは一目瞭然であろう。


 アリアも転生者だ。今の自分の力を地力だとは言わないし、冗談でも言いたくはない。


 それは日々鍛錬を続けてきた者達への侮辱に他ならないからだ。勿論、鍛錬はアリアもしているが、この世界に来て四ヶ月と少し。ひよっこもいいところだ。


 四ヶ月足らずでここまで来れたのは、アリアの体が優秀だからに他ならないだろう。


 まあ、ともあれ。今はそんな事を気にしている場合ではない。アリアは少しでも強くならなくてはいけないのだ。おごるつもりは毛頭無いが、地力かどうかを気にしている余裕はアリアにはない。


 そんなアリアが、一体なぜゆっくりと本を読んでいるのかと言えば、一つはロズウェルに止められたこと。なんでも、鍛錬の前に養生して欲しいそうだ。


 二つはメイドちゃんズに止められたこと。なんでも、無茶はして欲しくないんだとか。


 三つ目は…って、結局同じ事だから言うまでもないだろう。つまりは、皆に止められたからこうして悠々と本を読んでいるわけだ。


 アリア自身も焦っては危険だと分かってはいる。だが、休養するにしても一週間は長すぎる。もう体もばっちり整っている。だと言うのにロズウェルはまだダメだと言う。


 厳しく行くのではなかったのかと思わずにはいられないほど過保護なロズウェルにアリアは諦観を持って従うしかなかった。


 だが、結局の所この一週間の間に鍛錬を行うのは無理だったかもしれない。


 ロズウェルは優秀故に王城での仕事もこなしていた。そんな多忙なロズウェルを引っ張り出すのは少々気が引けた。


 そんな事もあってか、アリアは黙って本を読んでいるのであった。


 だが、そんな休暇ももう終わりだ。


『アリア様。ロズウェルでございます』


 と、タイミングよくロズウェルがやってきた。


「入ってくれ」


「失礼します」


 アリアはロズウェルが入ってくると、今読んでいる部分に栞を挟むと、ベッドの脇の机に本を置いた。  


「この本はなかなかに面白いな。少しの脚色が更に物語を面白くしているよ」


「お気に召したようで何よりです。…して、ご用とはなんでしょうか?」


 そう、今回アリアがロズウェルを呼んだのだ。


 用件は一つ。


 アリアは一つ息を吸って吐くと意を決したように話を始めた。


「用というのは、私の過去の事だ」


「過去…ですか?それは、天界での出来事をお話になると?」


「いや違う。そもそも私は天界になどいなかった」


 アリアの告白に、ロズウェルは驚愕の表情を浮かべる。


「それは…どう言うことなのでしょうか?」


「それを今から話そうと思う。それと、今から話すことは紛れもない事実だ。だが、到底信じられる物じゃない。それでも、最後まできちんと聞いて欲しい」


 アリアの真摯な表情と声に、ロズウェルは困惑を一旦頭の隅に押しやり、真剣な眼差しでアリアを見つめる。


「分かりました。お聞かせ願えますでしょうか、アリア様の過去を」


「ああ、聞いてくれ…少し長くなると思うから椅子にでも座ってくれ」


 ロズウェルは一瞬だけ渋ったような顔をするが、すぐにアリアの言葉に従い、椅子に座る。


 ちょっとしたロズウェルの変化をアリアは嬉しく思いながらも、ロズウェルが座ったのを確認すると話を始めた。


「そうだな。どこから話せばいいかな…ここに来る少し前からで良いか。…私はな、こことは違う、魔法がなく魔物なんていない世界から来たんだ」


「魔法がなく魔物がいない世界、ですか?」  


「ああ。そこで私は暮らしていた。最愛の従姉と学校に通いながら、毎日を安全に、平凡に過ごしていたんだ」


 話している最中に、学校と言って分かるのかとも思ったが、この世界には魔法学校があるのだと言うことを思い出して話を続ける。


「これが一番驚くかもしれないが、私は向こうの世界では男だったんだ。年齢は十七。ロズウェルよりも一つ年上だ」


「お、男ですか?!」


 珍しく、かなりの驚愕を見せるロズウェルにアリアはしてやったりと笑顔を見せる。


 一度で良いからロズウェルを目一杯驚かせてみたかったのだ。


 普段は余り表情を変えないロズウェルを驚かせることに成功したアリアは少し機嫌が良くなる。


「そうだぞ。男だったんだ…今は、ちゃんと女の子だがな」


 未だに信じられないといった顔をするロズウェル。まあ、無理もないだろう。アリアもロズウェルと同じ立場であれば混乱する。


「女の子、しかも、アリアの体になったのにも理由がある。実は私は、本当ならば勇者としてこの地に召喚されるはずだった。勇者として召喚される前に女神に止められてな。ある空間で話をされた。この国のこと、女神の加護のこと。私は、女神の説明を聞いて、勇者になる道を自ら捨てたんだ。そうして手に入れたのがこの体、と言うわけだ。本来はもっと紆余曲折あったんだが、まあ、それはおいおい話していくとしよう。ここまでは良いか?」


「え、ええ。なんとかついて来れています」


 本当になんとかといった感じで頷くロズウェル。


 ロズウェルがついて来れなくなったら質疑応答をして問題を解消してから先に進んだ方がいいだろう。


 だが、まだついて来れていそうなので話を続ける。


「それじゃあ続けるぞ。私は体をもらう直前まで女神と対話をしていた。その内容の中に、私がここに送られた理由、二年後の大戦の事、そして、勇者が召喚されるのが六年後と言うのを聞いた。正直、勇者が召喚される年月はどうでも良い」


 アリアは強がりで勇者が召喚されることをどうでも良いと思っているわけではない。本心から、その情報はどうでも良かった。


 過去に飛ばされるのは女神によって知らされていた。だから、結局はメルリアで生きていけば必然的に勇者に会えるのだ。ならば、その年月など実にどうでも良いことであった。


 問題は前の二つだ。


「だが、問題は私がここに送られた理由と二年後に起こる大戦の事だ。これは、直接ロズウェルにも関わってくる」


「私に…ですか?」


「ああ…ロズウェル。私は女神から聞いた。お前は…二年後の大戦で命を落とす」


 アリアの言葉にロズウェルの目が大きく見開かれる。


 それはそうであろう。自身の死を予告されれば誰でも驚く。アリアだって驚く。


「だが安心して欲しい。私は、その結末を変えるためにここに来たんだ。お前を死なせないためにも私は尽力しようと思っている。私の話はこれで終わりだ」


 そう締めくくるとアリアはロズウェルの反応を見るために口を閉じる。ロズウェルは考えるように顔を少しだけ俯かせる。


 二人の間に長い沈黙が流れる。


 その沈黙に耐えられなくなったアリアは思わず口を開いてしまう。


「ロズウェル、実に荒唐無稽な話だと言うことは重々承知している。でも信じて欲しい!私は嘘はついていないんだ!」


「そう、ですね…」


 重たい口を漸く開けたロズウェル。アリアは黙ってその言葉に耳を傾ける。


「そうですね。真実なのでしょうね。…分かりました。二年後の大戦に向けて事を急がねばなりませんね」


 ロズウェルのその発言に、今度はアリアが驚く。


「信じて…くれるのか?」


 実に。実に呆気なかった。

 

 アリアとしてはもっと信じてもらうまでに紆余曲折があるものだと思っていた。だが、実際は、ロズウェルが信じてしまって終わりであった。


 実に呆気なく終わったことに思わずアリアは声を漏らしたのだ。


 アリアの漏らした言葉に、ロズウェルは淡々と答える。


「ええ、信じますよ。アリア様のお言葉をなぜ私が疑うことが出来ましょう」


「いや、その、自分のことなんだから、もっと考えるとかさ…」


 アリアの事を信じ切ったロズウェルの目を見て、アリアは若干呆れ気味にそう言ってしまう。   


「アリア様が私を騙すなど考えておりません。聡明なアリア様は私を騙しても得るものが無いことなどご存じのはず。ならば、私はあなた様を信じるのみにございます」


「そ、そうか…」


 ロズウェルに真っ直ぐな瞳を向けられ、少しだけ照れてしまう。ここまで信用してくれているとは思っていなかったので嬉しいのだ。


 ただ、嬉しいと思うのと同時に申し訳なくも思ってしまう。


 こんなに真摯にアリアの事を信じてくれていたのに、アリアはロズウェルがこの話を信じてくれないのではと疑っていた。それがロズウェルに対して申し訳なかった。


 ロズウェルはアリアの申し訳無さそうな表情を見て察したのか、フォローを入れる。


「アリア様。人を信じるということは難しいことです。ですが、今日アリア様は私を信じてくこの話をしてくださいました。私はその事をとても嬉しく思います」


「別にロズウェルの事を信じていなかった訳じゃないぞ?」


「分かっております。私を信じてくれる思いが強くなったのが嬉しいのです」


 ロズウェルの真っ直ぐな言葉と瞳に、アリアはまた更に照れてしまう。こういう直球の言葉には慣れていないのだ。


「ん、まあ、否定はしないけどね…」


 なので、少しだけ素っ気ない返事になってしまうのも仕方のないことだろう。


 ロズウェルもそれが分かっているのか微笑ましい者を見るように目を細める。


 それが更にアリアに居心地の悪い思いをさせる。


 アリアはその居心地の悪さを追いやるために話題を変える。


「そ、そう言えば!ロズウェル、私を鍛えてくれる話はどうなったんだ?ここ一週間なんも聞かされていないぞ?」


 アリアの言葉に、ロズウェルは思い出したと言わんばかりの表情をする。


「そうでした。その事で私からもご報告があるのでした」


「報告?」


「はい。今後の方針も含めたご報告です」


 報告の内容はなんだか分からないが、どうやらアリア達にとっては大切なことなのだろうと言うことは分かる。


 アリアは表情を引き締めてロズウェルの報告を聞く。


「分かった。報告を頼む」


「はい。まず、大まかな今後の方針といたしましては、これより一週間後に我々はメルリアに連盟を置く中小国の一つマシナリアと言う国の都市に赴きます」 

 

「マシナリア?」


 聞いたことのない国名に小首を傾げる。


「マシナリアは魔道具の生産が盛んな国です。そして腕の良い魔工技師が数多くおります」  

 

「腕の良い魔工技師がいることは分かった。それで、なんでマシナリアに行くんだ?」


 腕の良い魔工技師と自分達のこの先との関連性が見えないのでそう聞いてみた。


「魔道具とは、何も生活に必要な明かりや髪を乾かす物を造るだけではありません。体の一部を失った人の生活を補うための道具、そう言う物を造ったりもするのです」


 ここまで説明されればアリアもピンと来る物がある。


「そうか!つまり」


「はい。シスタ様の魔工義手を造りに行きます」


 こうして、次のやるべき事は決まった。


 マシナリアまで行き、シスタの義手を造ってもらう。


 確かに、シスタは戦力としても、仲間としてもかなり頼りがいのある存在だ。そのシスタの戦力を補うためにも魔工義手は必要であろう。


 ただ、懸念すべき事もいくつかある。


 いくら腕の良い魔工技師がいると言ってもシスタの元の左腕のように動くのかが問題だ。前とそっくり同じというのは無理かもしれないが、できるだけ前の状態に近付けたい。


 その事もあり、二人はシスタも呼んで今後の計画練っていった。


 結局、過去のことを話したもののロズウェルの様子に変わりはなかった。気丈に振る舞っているだけなのか、それとも、アリアが助けると言ったのを本当に信じているのかは分からない。ロズウェルの場合は比較的に後者の方があり得そうだ。


 ただ、ロズウェルもアリアも、話をすることで覚悟は決まった。


 ロズウェルは二年後に訪れる死の運命を覆すために、そして、アリアを守るために今までよりも強くなると心に決めた。


 アリアもロズウェルの死の運命を覆すために強くなることを決めた。ただ、アリアに関してはそれだけではない。その大戦には多くの人が参戦することになるだろう。その人達を一人でも多く生きて家族の元に帰すためにも力を付けなくてはいけない。


 二人の指針に多少の違いはあれど、方向は同じだ。 


 行き着く先は守ると言うことだ。


 新たに覚悟を決めたアリアは、熱心に今後の方針について話した。


 ただ、マシナリアの事も、その道のりについても情報のないアリアは終始聞き役に徹していた。




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