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第二十一話 星降る夜

ごめんなさい今回も短いです!


でも楽しんでくれると嬉しいです!

 木の枝に立ち、王都を見つめる一人の魔人族がいた。


 彼女の名前はエルリ・カートン。魔位は子魔だ。


 彼女は今自身の任務を終えその結果を観察しようと待機している真っ最中なのだ。


「ふむふむ、どうやら順調のようダネ」


 土埃を上げてメルリアの王都、ヘルメーンに進んでいく魔物を見てエルリは満足げに頷く。


 エルリの任務は、バラドラムが用意した万を超える魔物をヘルメーンに向かうように誘導することだ。


「ふん。こんな事、下位の奴にやらせれば良いじゃないカ。なんでボクがこんな事をしなくちゃいけないんダ」


 ぶつくさと今回の任務に文句を垂れ流すエルリ。

 

 彼女は、今回の任務が少しどころかかなり不満であった。


 魔物の誘導ならば他の者でも簡単に出来るのだ。その簡単な仕事を、なぜ自分がやらなくてはいけないのか。彼女が不満に思うところはそこであった。


「まったくやってられないヨ。ボクはこれでも魔位持ちなんだヨ?子魔だよ子魔?結構位上なんだヨ?それなのにこんな新米がやるようなことやらせるなんテ…バラドラムの奴一体何考えてるんダ」


 エルリはぶつくさと文句を垂れながら、器用に木の枝の上を行ったり来たりしている。 


「そもそも、なんでボクがバラドラムを手伝わなくちゃいけないんダ!魔王様の指示がなかったら誰があんな奴の下で働くもんカ!」


 バラドラムはとある理由から同族に嫌われている。それは仕方のないことで、彼女自身にはどうしようも出来ないことなのだが、それでも彼女を嫌う者にはそんな事関係無く、彼女のことを嫌っている。無論、エルリもその例外ではない。


「そもそもボクは魔王様にすり寄るあいつが憎くて憎くてしょうがないってのニ!なんでそんな奴の功績を上げるための手伝いなんカ!」


 段々とヒートアップしていくエルリ。行ったり来たりする足踏みもヒートアップする気持ちと合わせて段々と強くなっていく。


「魔王様も魔王様ダ!なぜあんな奴を公魔なんかにしてしまったんダ!あんな半端者、魔位を得るにも相応しくないというのニ!」


 半端者。その言葉がどんな事を意味するのかは、想像に難くないだろう。今説明するのもやぶさかではないのだが、今はそれよりも気になることが一つある。


「公魔を与えるなら、クレドリック様やモリス様の方が数百倍も相応しいというのニ!」


 彼女が強く足踏みをする度に太めの木の枝がミシミシとイヤな音を立てる。だが、頭に血が上っている彼女はその事に気が付かない。  


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 闇夜に咆哮を上げるエルリ。


「クソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソッ!!」


 終いにはその場で地団駄を踏み出すエルリ。


 ミシミシという音を、ビキビキという音に変える木の枝。 


 そしてーー


「クソガッ!!」


 一際大きく地団駄を踏んだエルリ。


 バキッ!


 イヤな音を立ててとうとう木の枝が折れる。


「へ?」


 事ここにいたり漸く木の枝が折れたことに気づいたエルリ。


「うひゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 変な悲鳴を上げて木の上から落下する。


「グペッ!」


 エルリの背中に木の枝が当たる。


「ウゲッ!」


 今度は頭から落ちて頭に木の枝が当たる。


「ミケッ!」


 ひっくり返り、今度は腹に木の枝が当たる。


「ウギャッ!」


 くるんと回転し、尻に木の枝が当たる。


「ブベッ!」


 そうして最後に顔面から地面に落っこちる。遅れて体も地面にぶつかる。


 まるでアスファルトに打ち付けられたような格好になってしまったエルリ。


 プルプルと震えながら顔を上げるエルリ。その目は若干潤んでおり、泣くのを我慢しているといった様子であった。


 彼女は袖で目をゴシゴシと乱暴に拭う。


「……ううっ」


 だがそれでも涙は止まりそうにない。


 踏んだり蹴ったりだった。


 イヤな奴の手伝いをさせられ、しかもその手伝いが魔王軍に入ったばかりの新人がやるようなことであったり、その上木からも落ちてしまった。


 まさに踏んだり蹴ったり。


 そう思うと涙は止まりそうになかった。


 遂に彼女が泣き出すその瞬間。


 ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルーーーーー


「うっ…うわ…」


 ドッゴオオオオオオオオオオオンッ!!


「フワッ!?」


 打ち上げ花火のような音がしたかと思えば何かが勢い良く地面に衝突し、地面を大きく揺らす。


「な、なななななんダ!?」


 驚きのあまり涙も引っ込むエルリ。


 だが、彼女は今、そんな事を気にしている余裕はない。


 衝突音とともにまたしても地面が大きく揺れる。


 エルリは揺れる地面にヨロヨロとしながらも魔物の方を確認する。


「なッ?!」


 確認したエルリは絶句する。あれだけいた魔物の大群は、その数を大きく減らしていた。


「何がどうなっテ…」


 困惑するエルリの元に、またしてもあの異音が聞こえてくる。


 音の方を見ると、音の正体は赤熱した巨大な岩であった。


 巨大な岩が、空からエルリに向かって落下してくる。


「は?」   


 エルリは、そんな間抜けな一言しか出てこなかった。




 

 エルフ。ゲームや小説などで良く登場する皆に知られたメジャーな種族。

 

 耳が長く、森に住んでいて弓が得意。たまにダークエルフとか言う悪い奴もいる。多くの人の認識は、大体こんな所であろうか。


 まあ、間違ってはいないであろう。


 この世界のエルフも大体はそんな感じだ。ただ、この世界にはダークエルフがいない。いや、いないと言ったら語弊になるだろう。いると言えばいる。


 その一人だけ存在するダークエルフが彼女、アリシラ・シエスタだ。


 彼女は色白で緑色の髪と瞳を持つ他のエルフとは違い生まれつき褐色の肌と黒髪黒目を持つ。そのため、彼女は同族からはダークエルフと揶揄されている。


 エルフは他の種族と比べて取り分け仲間意識が強い。そのためか、皆と違う容姿を持つ彼女は同族からは爪弾きにされていた。父母も、村八分と言った状態だった。


 そして、紆余曲折あり、村を追放されたアリシラはメルリアにて王国最強の魔法師を名乗るまでになった。


 彼女は今、王都を囲む高い壁の上に立っている。


 黒いローブを羽織り、長めの杖をつき夏の夜風を一身に浴びながら、彼女は魔物の大群がいるであろう方角を見つめる。


 月明かりのみが光源の闇夜の中、蠢く魔物どもの影をアリシラはその目で確実に捉える。


 彼女は、指を空中に漂わせ、一体ずつ全て数える。数え終わった魔物の数は、一万と千五百一だ。


「なんだ。案外少ないじゃない」


 彼女は鼻歌交じりにそう呟く。


 実際、彼女にとっては一万の魔物など路傍の石ころの集まりと何ら変わらない。軽く蹴り飛ばせば飛んでいってしまう。彼女にとってはそんな程度だ。


「さて、帰ってゆっくりしたいし早く終わらせなくっちゃね~」


 そう言うと彼女は杖を前へ突き出す。その動作や言動には気を張った様子も、魔物の大群に恐怖した様子もない。ただただ自然体でそこにいる。   


 アリシラは一度深呼吸をすると詠唱を始める。


「キラキラ輝くお星様☆夜空さんから舞い降りて、悪い奴をやっつけてぇ~♪」


 甘ったるい声を出し、キャピキャピとした感じで詠唱?をするアリシラ。その顔は台詞を言う恥ずかしさを堪えるのに必死なのか、元の美貌が台無しになっていた。


「《流星群》!!」


 ふざけた詠唱から打って変わって、真面目に魔法名を叫ぶアリシラ。彼女は一体何がしたいのか。それは本人のみが知るところである。


 ただ、ふざけた詠唱?の割には、アリシラの放った魔法の威力は相当なものであった。


 夜空を裂き空気との摩擦熱を纏った星々が、魔物の大群がいる一帯に降り注ぐ。


 夜空に映る眩いばかりの流星群が、魔物どもを蹂躙していく。


 魔物どもはなす術無く、その命の花を散らしていく。


 星々が地面に落ちる度に、すさまじいほどの地鳴りが辺り一帯に起こる。


 地鳴りと衝突音だけが戦場を支配する。いや、もはや戦場ではなく殺戮場であろうか。それと、魔物どもの断末魔の叫びも本来ならば響いているのであろうが、地鳴りと衝突音にかき消されている。


 その光景を、アリシラは満足げに見ると腰に手を当てる。そうしてフスンと鼻から息を吐くと言った。


「やりすぎたわね!」


 そう、やりすぎた。圧倒的にオーバーキルだ。


 魔物どもは跡形もなく全滅している。だと言うのに、流星が降り止むことはなく、今もメルリアの大地を穿っていく。


「はあ…どうやら調整が必要なようね…」


 アリシラはそう呟くと指をパチンと鳴らす。すると、先程まで鬼のようにメルリアの大地に降り注いでいた流星は嘘のようにぱっと消えた。


 それを確認する前に、アリシラは踵を返し王城へと足を向けていた。


「ふうぅ~~つっかれた~~」


 さして疲れた様子も見せずにそう言葉に出すアリシラ。


「まあ良いわ。実験が出来たし。結果は良好だし」


 伸びをしながら王都の空を悠々と歩く(・・)。


 アリシラは欠伸をかみ殺しながら先ほど行った実験の事を考える。彼女にとってあれは戦闘でも、ましてや殺戮でもなく、ただの実験なのだ。


 ただの実験で一万を超える魔物はその命を散らした。


 それが実験だと言うことを自覚することもなく散らされた魔物に、これを聞いた者がいたならば少しばかりの同情の念を送っただろう。


 それと同時に、アリシラに畏敬の念を抱かずにいられなかっただろう。


 彼女は、満足げに鼻歌を歌いながら、王都の夜空を歩いた。



  

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