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第二十話 王都襲撃

ブックマークや感想、評価ありがとうございます!


大変励みになっております!


今回少しだけ短いですが勘弁してください!

 アリア達が倒れる少し前、メルリア王国王都ヘルメーン。


 アリアの従者であり兄のような存在であるロズウェルは王城の長い廊下を早足で歩いていた。


 行き先は国王フーバーがいるであろう執務室だ。


 要件は、アリア達の帰還が遅すぎる事についてだ。


 今日の調査では日が傾く前には帰ってくる予定であった。事前の説明でもそう聞いていた。だが実際は夜の帳も落ち王都の空には星々が輝いている。


 今朝方から感じている胸騒ぎも合わさり、不安ばかりが募ってしまう。


 ロズウェルのこういう時の悪い予感は良く当たってしまう。


 いつも足音を極力立てずに歩くロズウェルだが今ははコツコツと盛大に音を立てている。らしくないロズウェルの所作に、通り過ぎる宰相やら大臣やら王城に勤めている者は皆怪訝な顔をしていた。


 だがそれも、未だアリア達が帰ってないことを思い出すと途端に納得の表情になるが、すぐに心配そうな顔になる。


 皆もアリア達の事が心配なのだろう。特にバルバロッセとシスタは部下や他の将軍にも信頼が厚い。故に心配するのも当然といった感じであろう。


 その後も様々な者とすれ違ったがロズウェルの表情を見ると声をかける者はいなかった。


 漸くのことで執務室にたどり着きドアを少々乱暴にノックする。 


「陛下、ロズウェルでございます」


『入れ』


 扉の向こうから聞こえる声に従い、ロズウェルは執務室に入る。


 室内にいたのはフーバーだけではなかった。応接用のソファーに一人座っていた。騎士団団長、セルゲイ・ラドクロフトだ。


 厳かな印象を与える外見にたくましい肉体。筋骨隆々セルゲイは向き合うだけでも圧迫感と威圧感を覚える。


 なぜ騎士団長であるセルゲイが執務室にいるのかは分からないが、なにやら話していたかこれから話すのであろうと言った様子だ。邪魔をしたかとも思ったが、それならばロズウェルを室内に入れないだろう。


「丁度良かった。今呼ぼうと思っていたんだロズウェル。お前も座って話を聞いてくれ」  


「…はい、分かりました」


 座ることを拒もうとも思ったが、主であるアリアがいるわけでも無し。それに座る座らないで問答する時間も惜しかった。


 ロズウェルは少しの逡巡を見せるだけでセルゲイの対面に座った。


「ようロズウェル、久し振りだな」


「セルゲイ団長、お久しぶりです」


「ああ、元気にやっているようで安心したよ」


「団長こそ、相変わらずの筋肉ですね」


「お前それは誉めてるのか?」


「ええ、敬意をこめております」


 実際、ロズウェルはセルゲイに敬意を持っている。騎士団に所属していた頃にセルゲイにはいろいろとお世話になったのだ。


 それに、セルゲイはロズウェルが騎士団に所属している頃と変わらない肉体を維持している。それどころか、心なしか前よりも筋肉の質が良くなったような気もする。なので、敬意を表して筋肉を誉めてみたのだ。


「お、おう。そうか」


 セルゲイはロズウェルが冗談や嘲りで言っているのではなく、本心で言っているのを理解している。


 これが冗談ならば、セルゲイも冗談で返す。嘲りであったならば皮肉の一つでも言ってやる。だが、その両方でもないのだ。そのためセルゲイは微妙そうな顔でそう返すのが精一杯であった。


 騎士団の者は何だかんだで皆気さくにセルゲイに接する。堅物な騎士であれ、貴族のお坊ちゃまであれだれでもだ。セルゲイの持つ人徳かはたまた軽く見られているのかは、あまりそう言うことを気にしない本人の預かり知らぬ所だ。


 まあ、気さくな応対をされているセルゲイにしたらロズウェルのような真面目な手合いは慣れていないのだ。


「挨拶も済んだみたいだし話を始めるぞ?」


 ロズウェルの言葉に若干苦笑をするフーバーの言葉で話が始まる。


「はい、よろしくお願いします」


「お願いします」


 二人の言葉を聞きフーバーは苦笑を引っ込め真面目な表情を見せる。普段の気楽そうな雰囲気とは違う真面目な雰囲気に、二人もつられ真面目な表情になる。ロズウェルに関しては元々真面目な表情であったのだが今はそれはいいだろう。


「今回二人を呼んだのは、察しが付いていると思うが調査隊の帰りが遅いことだ。何事もなければそれで良いのだが、どうにもそうは思えないんだ」


 神妙な顔つきでそう言いだしたフーバーにロズウェルが即座に肯定を表す。


「そうですね。バルバロッセ様とシスタ様を始め他にも優秀な騎士が同行しているというのに帰りが遅すぎます。何かあったと考えた方が良いでしょう」


「俺もそう思います」


 ロズウェルの言葉にセルゲイも同意する。


 二人の肯定を聞くと、フーバーは少しだけ安堵したような顔をした。


「二人と意見が一致してなによりだ。実は二人を呼ぶ前に偵察を何人か向かわせていてな、もう少ししたら帰ってくると思うんだ」


「では、なぜ我々をわざわざ呼んだのですか?」


「報告を受けたときにすぐに指示を出せるようにだ。それに、二人の考えを聞きたかったというのもある。俺の考えが思い過ごしで無いのが何よりだった」


 フーバーがそう言うと、なにやら外が慌ただしいことに気付く。


「来たか」


 恐らくは、向かわせていた偵察が帰ってきたのだろう。慌ただしいと言うことは何かあったという事なのだろうか。


 暫くすると慌てたような足音が執務室まで近付いてくる。その慌てた足音が近付いてくるに従い、ロズウェルは言いしれぬ不安にかられる。


 足音が執務室の前まで来るとノックも無しに扉が乱暴に開け放たれる。


「し、失礼します!!」


「おい、急いでるにしてもノックくらいはーー」


「良い、見るからに緊急事態だ。君、続けてくれ」


 窘めようとするセルゲイをフーバーが止めて先を促す。フーバーが良いと言ったのでセルゲイとしてはこれ以上続ける気もないので黙って伝令の言葉を待つ。


 伝令は、無礼をお許しいただき感謝しますと早口に前置きを入れると少し冷静になったのか少しだけ落ち着いた顔で報告を始めた。


「まずセリア大森林への偵察の報告です。セリア大森林入り口前にて調査隊一行を発見。隊の半数は死亡、及び負傷。アリア様、バルバロッセ様、シスタ様はその時点で未だ森の中でした。入り口前に待機していた者に聞いたことによりますと魔人族が出現した様子です」


「魔人族だと!?」


 伝令の言葉にセルゲイが驚愕の声を上げる。ロズウェルとフーバーは、先の一件である程度の予想はついていたのである程度の驚愕で済んだ。


「はい、バルバロッセ様とシスタ様は魔人族の迎撃のため残り、アリア様は一度隊を引き連れ撤退した後、森に引き返したようです」


「アリア様が…そうですか」


 アリアが引き返したと聞き不安げな表情になる。それ以上の情報は何か無いのかと問いただしたくなるが、今は報告を全て聞くのが先決だと考え問いただしたい気持ちを抑える。


「すみません、続けてください」


「はっ!一度、帰還しようと思い馬に跨がったところで強烈な熱風に襲われ落馬しました。受け身をとり起き上がり森を見ると、森が轟々と燃え盛っておりました。その後、雷雲が急に発生しましたが、途中で霧散しました。炎からも雷雲からも魔力が感じ取れましたので魔法であることには間違いがないです」


「そうか…続きはあるか?」  


「いえ、以上でございます」


「そうか。ではセルゲイ、援軍をーーー」


 突如としてフーバーの言葉を遮り警報が鳴り響く。警報の後、拡声魔法により伝令が響き渡る。


『で、伝令!魔物の大群が接近中!!その数およそ一万!!繰り返します!ーーーーー!』


「い、一万だと!?」


 本日二度目の驚愕の声を上げるセルゲイ。そして、フーバーもロズウェルも声こそ出さないが驚愕する。


 フーバーはすぐさま我に返り、セルゲイに指示を出す。


「セルゲイ!すぐに騎士団を出して迎撃体勢をとれ!!」


「了解!!」


 フーバーの指示を聞きすぐさま部屋を出ていくセルゲイ。


「伝令の君はここに残れ。私の方から指示を出したいときには君がいてくれてくれた方が助かる」


「りょ、了解しました!」


 フーバーは苦々しい表情をする。


 この事態は確実に魔人族が関わっている。そう断言できた。


 本来、殆どの魔物は群れをなす。その群れは数十~数百。小型の魔物で多くて数千だ。これらはどれも同族同士でしか群れを作らない。  


 よって、魔物が万を超えて群れをなすことなど有り得ない。


 そのためフーバーはこの事態が何者かによる手引き、つまり、魔人族の仕業であると確信しているのだ。   


 苦渋の顔を作るフーバーにロズウェルは淡々とした声で訊いてくる。


「陛下、私はどうすればよろしいですか?」   

     

「…お前には、ここにーー」


『その必要はないわよフーバー』


 残って貰う。そう言おうとしたがその言葉は突如発せられた声に遮られる。


 その場にいる全員が驚いたが、伝令の者以外の二人の驚きは発生した声にではなく、その声の主に対しての驚愕であった。


『こっちの群れは全部ワタシに任せなさい。ロズウェルはアリア様のお迎えに行ってあげて。白の守りは騎士団に任せればいいでしょ?』


「分かりました。それでは私はアリア様の元へ向かいます」


 言うが早いか、ロズウェルは颯爽と部屋から出ていく。


 フーバーはそれを止めることはせず伝令に指示を出す。


「君、セルゲイに城の守りを固めるように伝えてくれ」


 どこからともなく聞こえてくる声に二人は素直に従う。それどころか、二人の顔からは焦りが無くなっていた。寧ろ、安堵した表情であった。


 急激な二人の態度の変化と、聞こえてきた声に呆然としてしまう。


『どうしたの伝令君?早く行きなさい』


「は、はい!」


 声にせっつかれて伝令はすぐさま部屋を出てセルゲイの元へと向かった。


「任せて大丈夫なんだろ?」


『ええ、任せてくれて構わないわよ』


「じゃあ頼んだ」   


『ええ、頼まれたわ』 


 声は最後に了承の意を示すと、ぱったりと途切れる。    


 フーバーは、安堵の息を吐き柔らかな椅子の背もたれに寄りかかる。


 声の主の登場で、今回の魔物の襲撃はあっさりと終幕を迎えるとフーバーは分かっている。


「一対一ならロズウェルに適う者なんていないが…」


 フーバーは背もたれにより深くもたれかかる。椅子がギシッと音を立てる。


「一対多での戦闘なら、アリシラの方が得意なんだよな」


 フーバーの呟きは誰にも聞かれることはなかった。だが、この呟きを聞かなくとも大抵の者はフーバーと同じ意見だろう。


 なにせ彼女が得意とするのは広範囲殲滅型の魔法だ。敵味方を関係無しに放たれるその魔法の殲滅力はフーバーも目にしたことがある。


 『殲滅の魔女』の異名を持つ彼女の名は、アリシラ・シエスタ。 


 王国最強の魔法師にして、気高き黒エルフのアリシラ。


 どちらの異名が名高いと聞かれれば甲乙つけがたいところであるが、それは今はいいだろう。


 今は、彼女の帰還を素直に喜ぶだけにとどめよう。


「後はあいつに任せておけば何とかなるか」

 

 フーバーは窓の外に目をやり、アリシラが向かったであろう地点を見つめる。


「地形が変わらなきゃいいがなあ…」


 フーバーの呟きは誰にも聞かれることはない。


 楽に片付くが事後処理が厄介だなと思うフーバーだった。

 

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