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第十九話 調査⑥

いえーい


え?なんか良いことあったんですかって?


特に何もないです



 

 遡ること数十分前。


 何度も轟く激音と雷鳴を気にかけながらもアリアは走りつづけた。


 恐らくは森の入り口で誰かが戦っているのだろう。消費されていく魔力量からそれが、強敵だという事がわかる。


 戻って助けに向かいたい思いを押さえ込みアリアは全速力で走り続けた。


 だが、その行く手を阻む者がいる。


「何度も何度も出てきて鬱陶しんだよ!」


 アリアは罵声を吐くと剣を構えずに左手だけ突き出す。


「《大爆炎》!!」


 アリアが魔法名を叫ぶと、アリアの魔力が事象を変え虚空に火の玉が出現する。


 火の玉は高速で前方の魔物に向かう。そして着弾すると大爆発を起こし魔物を木々と共に薙ぎ倒していく。


 魔法の行使になれてきたおかげかそれなりに魔力の調節が出来てきており、消費魔力も少なくて済んでいる。


 アリアが走り出してから大体二十分弱。後続の心配をしなくて良いからかもう既に森の三分の一地点まで来ていた。森の中腹までは後ほんの少しである。


「っ!?」


 突然、アリアの頭上から降り注ぐ氷の槍。


 アリアは魔力感知でそれを事前に感知し難なく回避して見せた。


 体制を整え剣を構えると魔力を感知した方向を睨む。


「誰だ!」


 誰何を投げかけるが答えは返ってこない。


 完全に夜の帳が落ちた森には怪しい静寂のみが支配する。


 アリアは油断無く周囲に注意を向ける。

 

 すると、最初に魔力を感じたのとは別の方向で魔力を感知した。すぐさま感知した方向に剣を構える。


 矢の如く迫る無数の氷の槍をアリアは剣を一薙して、剣風のみで散らす。氷の槍はそれぞれ明後日の方向に跳んでいき木や地面に突き刺さる。


 その後、何度か同じような様子見のような攻撃を受けるがアリアは同じように迎撃する。


 落ち葉や枯れ木が無数に落ちるこの森で足音の類は一切させていない。恐らく敵はかなりの手練れであろう。


 方法を移動してからの魔法の行使だと断定する理由としては、移動をせずに別の場所に魔法を発現させているという場合だと、二カ所で魔力を感知するからだ。今回は一カ所からしか魔力を感知していないのだ。そのためその線はない。


 とは言え、攻撃方法が分かったところで相手の場所が掴めなかったらこちらから攻撃のしようがない。


 そう考える間も、今度は背後から魔法発動の兆候を確認する。


 振り返るり剣を一薙する。だが、今回はそれだけでは魔法は落ちなかった。速度の落ちない氷の槍はアリアに迫る。


 連続で同じ動作をさせることで同じように剣を振るように誘導されたのだ。その上で次に剣を振るであろうタイミングを予想した上での魔法の速度と剣風を凌ぐ補助魔法を調節したのだろう。


 そして、第一波の槍の後に続く第二波の魔法が放たれる。


 第二波を発動後に高速で移動し別の場所からの連続で放たれる今までと種類の違う攻撃魔法。しかも逃げ道を塞ぐようにして放たれている。


 この敵は剣士の相手に慣れている。ここに来てアリアはそう確信する。


 今のアリアは剣を振り切った状態。引き戻す前に氷の槍がアリアの柔肌を蹂躙し第二、第三の攻撃魔法が身動きのとれないアリアを襲うであろう。普通の剣士であればこれで終わりだ。


 だがアリアは普通ではない。


 非凡と称されても真面目に鍛練を積み実力を付けて騎士団でも上位に位置する位にまで上り詰めた若い二人の自信を砕くほどには、普通ではないのだ。


 アリアは自分を起点として周囲に暴風を放つ。


 上級の風魔法《暴君の颶風》だ。アリアを起点として放たれるすべてを遠ざけんとする暴風に木々を薙ぎ倒しながら、おまけと言わんばかりに魔法を簡単に消し飛ばす。    


 少なくとも中級でも上位に入る魔法を何でもないかのように発動された上級魔法に消し飛ばされ、襲撃者は驚きを隠せない。


 だがそれでも声を出さなかったのはプロの意地か、それとも声すらでなかったのかは本人ですら分からない。


 ただ、声がでなかったからと言って襲撃者にとって僥倖ではない。


 そのまま暴風に飛ばされていれば襲撃者は助かったかもしれない。中級魔法を連続して発動できるほどの手練れだ、暴風に吹き飛ばされたとしてもどうにかして生き残れたであろう。


 だが、襲撃者は木をつかみ踏ん張ってしまった。それがいけなかった。


 見晴らしの良くなったその場所で運の悪いことに襲撃者の姿は丸見えだった。いや、影を纏っているので丸見えとはいえ夜の森では見辛いはずだ。だがそれもアリアには全く持って意味をなさない。


「みーつけたぁッ!」


 アリアは鋭く踏み込むと右拳を引き絞る。引き絞った拳を思い切り襲撃者の鳩尾に叩き込む。


 彼女は素手だ。篭手もなにも付けていない。それに技も無ければ何の工夫も施していないただのグーパンチだ。だがそれでも、彼女の拳は相手の意識はおろか魂をも刈り取るほどの威力であった。


 凄まじい勢いで吹き飛ぶ襲撃者は纏う影を撒き散らしながら森の巨木に打ち付けられたら。


 ビチャッっと嫌な音が鳴り響くと、アリアは我に返る。


 やりすぎてしまった、と。


 アリアはこの襲撃者を生け捕りにしようと考えていたのだ。そのため一番殺傷能力が少なく、かつ、手練れである襲撃者を沈められるであろうグーパンチを選んだのだ。


 だがそれは間違えだったらしく、襲撃者はアスファルトに打ち付けられた蛙のようの状態になっていた。


 木にめり込んでいるのか落ちてくる様子はない。


「や、やりすぎたかな…」


 そう呟きながらアリアは捕縛魔法をかける。死体でもあるのと無いのでは違うだろう。

 

「っと、こんな所で時間をつぶしている場合じゃない!」


 アリアははっと気付き走り出そうとして止まる。


「道が分からない…」


 そう、道が分からないのだ。正確には分からなくなってしまったと言った方が正しいであろう。周囲はアリアの《暴君の颶風》によって景観を壊されてしまっているのだ。


 どちらが来た道でどちらが進むべき道なのかが判断が付かない。


「よわったな…」


 暫く、どうしようかと頭を悩ませていると不意に魔力の兆候を遠くで感じることができた。


 イルやラテの物とは違う、禍々しく悪意を孕んだ魔力であった。


 その魔力の場所にバラドラムがいることを確信するとアリアは走り出す。   


 足場が悪くなってしまったので木々を足場に跳躍を繰り返す。


 アリアは内心焦りながら跳び続ける。


 バラドラムは強い。奴と初めて対面したときから思っていたことだ。今のアリア一人では勝つことは困難だ。勝率は一割、良くて二割だ。それもこちらもただではすまない痛手を負ってやっと勝てるぐらいだ。それぐらいにバラドラムは強い。


(どうにか無事でいてくれ!)


 思わぬところで思わぬタイムロスをしてしまったアリアは焦りながら夜の森を飛び回った。





 そうして、漸く二人の元へと辿り着いたアリア。だが、アリアが目にした光景はアリアが思っていたものとは違う物だった。


 アリアは、二人であればどうにか持ちこたえてくれていると思っていた。二人は相当な手練れで、その力はアリアも目にしていた。だから、倒せないにしてもアリアが来るまでは持ちこたえてくれていると思ったのだ。


 だが、現実は違った。


 シスタは左腕を失い地面に伏し、バルバロッセは胸を剣が貫き地面に伏していた。


「なんだ………これは……………」


 思わず呟いた言葉に何の意味があったであろうか。少なくとも、アリアが現実を受け入れる以外に意味をなしてはいない。そんな無駄な呟きが自然と漏れてしまった。


「なんだ…これは?」


 今度はただ呟いたのではない。バラドラムに問いを投げかけたのだ。その問いが意味をなさなくとも問わずに入られなかった。


「あらぁ?予想よりもお早いご帰還ね~。部下の二人は何をしているのかしら?」


 二人と聞いてアリアはハッとする。アリアの所に来たのは一人だけだ。つまりもう一人はイル達の所に行ったのだ。


 森を走り抜けるときに聞いた雷鳴は誰かがその魔人族と戦っていた戦闘音なのだと気づいた。


 だが、気付いたところでもう遅い。雷鳴はとうの昔に止んでいる。つまりは戦闘の終了を意味するのだ。


 アリアはイル達が勝ったことを信じつつバラドラムを竦みそうになる足を押さえキッと睨み付け剣を構える。


「バラドラム!今度は私が相手だッ!」


 だが、バラドラムはフッと不敵に笑うと言った。 


「もうここに用はないの。また今度遊びましょう」


 そう言うとバラドラムは大きく後ろに跳躍する。その背中から蝙蝠こうもりのような羽をはやし宙にとどまる。


「また会いましょうアリア。その時は相手をして上げるわ」


 そう言うとバラドラムは蝙蝠の羽を羽ばたかせ空を飛ぶ。


「待てッ!!」


 一瞬追おうと考えるも、シスタ達の治療の方が先決だと考え立ち止まる。


「ア…リア…様……」


「シスタ!」


 シスタに呼ばれ慌ててシスタの元へと駆け寄る。


 抱き上げ肩に回復魔法をかける。だが、シスタは回復魔法をかける手を掴むと言った。


「バラ、ドラムを…追ってくだ、さい…奴が、バルバロッセの…オドを…持ってる…!」


「なっ!?」


 オドを持っている。それがどういうことなのかを瞬時に理解するアリア。


 オドは生き物の魂。そのオドを抜き取られたとなればバルバロッセは魂を抜き取られたことになる。


「分かった。直ぐに追いかけーー」


 と、そこまで言い掛けたところで、アリアは地響きが鳴っていることに気付く。


 複数の足音。感じる魔力。そのどれもに嫌と言うほど覚えがあった。


 そうして、近付いてきた足音の正体が姿を現す。


「魔物…」


 数十、数百、あるいは数千の魔物どもがアリア達に押し寄せる。


 アリアはすぐさま剣を構えると迎撃する。


 迎撃しながらもシスタを脇に抱え、バルバロッセの本へ連れてくる。そうして、二人を守るように魔物を狩っていく。


「《大爆炎》!!」


 剣を振るい、魔法を駆使しし戦う。だが、いかんせん数が多すぎる。いくら魔法を駆使しても、いくら剣で切り刻んでも魔物はわらわらと湧いて出てくる。


「邪魔だっ!お前等の相手なんかしてる暇ないんだよおっ!!」


 叫び、剣を振るうも、魔物に人の声が理解できるはずもなく、次から次へとアリアに襲いかかる。


 早くしないとバラドラムに逃げられてしまう。それにイル達の所にも行っているかもしれない。


 不安と焦燥がアリアに募る。


 そうして、アリアの中で何かが切れた。


 アリアは自然と口を開いて詠唱を始める(・・・・・・)。


「我が求めるのは地獄の炎。地獄の釜より溢れ出す魂を食らう炎。炎に死者と生者の区別はなし。故に止まらず、故に間違えぬ。全てを食らう炎は全てを絶やす。炎をは魂をも燃やし尽くす。まかり違うこと無かれ。炎は決してそなたらの味方でも敵でも非ず。炎はただ食らうのみ。そこに善悪など存在しない。故に炎は止まらん。炎を止めることもまた適わん。来たれ!全てを絶やす煉獄の炎!神罰魔法《獄炎地獄インフェルノ》!!」


 詠唱が終わると、アリアの目の前が急に明るくなる。アリアの目の前にある光源はチロチロと揺れる。


 揺れる光源は炎。その炎をアリアが握り潰す。そして握った手を開く。


 瞬間、辺り一面を炎が走る。


 炎は木々を、魔物を、全てを焼き払い広がっていく。万物を焼き払い消し炭にしながら進んでいく。その炎の勢いは留まることを知らない。


 アリアは自身が放った蹂躙の炎には目もくれずに、夜空を見る。そこにある者を捜す。そして見つけた。


 夜の闇に溶けながら空を飛ぶ影。それは、まず普通の人間では見ることが出来ないほど闇に紛れていた。例え下から炎が照らそうとも気付くことは出来ない。それでもアリアは気づいた。


 アリアはまたしても詠唱を始める。詠唱を始めると次第に空に雷雲が発生する。星々の輝きすらも遮り雷雲は雷を纏い雷鳴を轟かせながらも広がっていく。


「雷の帝よ、今怒りの矛先を示そう。彼の敵はそなたの領域を侵し、そなたをあざ笑うかのように飛ぶ。羽虫のように小さな者でもそなたは決して許すことは出来ないであろう。ならば私がそなたにしるべを授けん。その標を見つけよ。さすれば彼の者に届こう。その標を頼りたまえ。さすれば彼の者を貫かん。今怒りを示せ。ソナタの怒りは私が導こう。あまを駆け、地に傷痕を!神罰魔法《雷ーーー」


 そこで、アリアの視界がグニャリと歪む。


「なん…で…」


 立っていられなくなり膝から崩れ落ちる。


 気付けば、額にはぐっしょりと汗をかき、体は酷い倦怠感が襲っている。


 魔力切れの症状だ。


 それを自覚してアリアは空を睨む。


 そこにはもうバラドラムの姿はなく、ただただ星が瞬く綺麗な夜空しかなかった。


 逃がした。その事にアリアは魔力切れ以外の要因で視界が歪む。


「くそっ……くそっ………!」


 アリアは顔だけを動かし既に気絶しているシスタと、体のみのバルバロッセを歪んだ視界で見つめる。


「ごめん…………ごめん……………」


 その言葉を最後にアリアも遂に堪えきれず、意識を失ってしまう。


 アリアの魔力が切れたことにより炎は勢いを弱めていく。


 眠る三人を囲んで消えゆく炎は、ゆっくりと森に暗い夜を返していくのであった。 


  


     


        


 










  

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