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第十四話 調査①

 アリアを乗せた馬車は森の入り口付近に停車する。開けたその場所は人の手が施されており、馬車が止めやすくなっていた。


「んん~~~!」


 馬車から降りて伸びをすると、肺一杯に空気を吸い込む。


「ぷはあぁぁぁ~~~~~~」


 吸った息を思い切り吐き出す。


「なにやっとるん?」


「いや、これと言って深い意味は無い」


 森についたらやりたくなってしまったのだ仕方がない。なんだかこうマイナスイオンが出てそうだからやってみたのだ。って、ここ森の入り口だし、森には行らないと意味ないかこれ。


 自身の何となくの行動の無意味さに虚脱するが、ともあれ無事にセリア大森林に着くことが出来た。


 森の木々を見渡すとどれも異様に大きく、二十メートルはあるだろう巨木が幾本も生えていた。遠目に見ても森の全容がつかめないのでとても壮大な森になっているのだろう。


「皆集まってくれ!」


 森を見ているとバルバロッセからの召集がかかった。作戦会議でも始めるのかもしれない。


「ほな行きましょ?」


「おおう」


 イーナに促されアリアはバルバロッセの所に向かう。


 皆が集まるとバルバロッセは一つ咳払いをしてから口を開いた。


「それではこれから行軍を始めようと思う。が、その前に、今回の調査の目的を再確認しておこうと思う」


 バルバロッセは隣に立つシスタに視線を送るとシスタは心得たとばかりに頷く。


「それじゃあ、再確認だ。今回の調査は複数体出現した主の捕獲、もしくは部位サンプルの確保だ。今回は捕獲は断念して、部位サンプルを確保する方針だ。何か質問はあるかい?」


 シスタが問うも皆質問を口にする気配はない。それを見て一度頷く。


「それじゃあ出発しようか」


「「「「了解!」」」」


 シスタのまったく気合いの入っていない出発の合図に皆気合いの入った声で返す。バルバロッセが何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたように首を横に振っていた。 

   

 恐らくは「もっと気合いの入った号令をかけられんのか」と言いたいのだろう。アリアもそう思った。


 だが、第二部隊の面々は慣れているのか直ぐに返礼していた。


 まあ、そんな締まったような締まらなかったようなよく分からない感じで一行はセリア大森林に足を踏み入れた。




 森の中を暫く歩くも魔物には一向に出会わず、一行は森の三分の一程度まで行軍をしていた。


 主どもが食い尽くしたのか、それとも別の要因か。が、いくら考えようともどちらの可能性も憶測の域を出ていない。


 周りの皆を見ると皆一様に不思議そうな顔をしていた。


「なあユーリ。魔物が少ない…と言うか全くいないんだけど。やっぱりおかしいのか?」


 皆の顔を見て不安が沸き上がってきたアリアは自身の横を歩くユーリに今の状況を聞いてみた。彼女も新人の頃は何度もここに足を踏み入れた事があると言うから聞いてみたのだ。


「はい。森の三分の一地点で一度も魔物に遭遇しなかったと言うのは今までありませんでした。異常事態と考えて良いでしょう。アリア様、くれぐれも私から離れないで下さい。アリア様は私が全身全霊でお守りいたします」


「ん、分かった」


 ユーリにそう言われ安心感を得るが、それでもどこか不安を拭いきれないでいた。これがきっとロズウェルならば、完全に安心出来たのだろうと思う。なにせ説得力が違うのだから。


 片や王国最強、片や実力も知らぬ騎士の少女。説得力が弱くても頷ける。


 勿論アリアはユーリが不甲斐ないだの頼り無いなどは思っていない。この行軍に連れてこられたのだから実力はあるのだと分かっているのだから。


 だがそれでも、アリアは安心が欲しかった。初めて来るダンジョン、ロズウェルがいない戦場、そして森に起きた異常。この三つの要素がアリアの不安を掻き立てる。


 そのため確固たる安心が欲しかったのだ。だが、ここにはアリアの安心の象徴はいない。それだけで戦場がこんなにも怖く感じてしまう。


(ロズウェルに頼りっきりになってたから、その付けが回ったんだな…)


 とは言えアリアはこの世界に来てまだ四カ月。戦闘も片手で数えるほど。その回数だけで慣れるのは無理であろう。


 ロズウェルがいなくて不安な自分を肯定するような考えが出てきてアリアは慌てて首を振る。


(いけないいけない。このまんまじゃずっとロズウェルにおんぶにだっこ。それだけは回避せねば!)


 アリアはそう考えると気持ちを切り替える。


(こんな森、ロズウェルがいなくたって平気だもんね!怖くなんか無いもんね!それにユーリもいる…って他人頼りの思考、これ以上いけない!)


 一人闘志を漲らせようと奮闘するアリア。その様子を見ていた他の隊の面々は皆一様に同じ事を思った。


((((可愛いなぁ~もうっ!))))


 そう思うのも無理はなく、アリアは度々やる気に満ちたような顔をしたと思えばいかんいかんと首を振ったりと、ワタワタとしていた。その行動が年相応な可愛らしいものであったため、皆がそう思ってしまうのも無理はない。


 そのためアリアの一帯だけ緊張感が無く、地味にほんわかした雰囲気が流れていた。


 つまりは緊張感ぶち壊しである。


 それをいち早く察知したこの調査隊のリーダー二人と言えば、


「シスタ、あれで良いと思うか?」


「良いんじゃないかな?ほら、変に緊張しすぎるのもかえって毒だし。それに、警戒を怠ってる様子は無さそうだしね」


「うむ、そうか。それならば良いか」


 と、黙認をするみたいだ。


 一行がほんわかしているこの時点で太陽は真上でサンサンと輝いており、お昼を告げていた。


「そろそろ休憩にするかい?」


「ああ、そうした方が良いだろうな。場所も開けた所だし、休憩にはもってこいだろう」


「良し分かった……それじゃあ皆!一旦休憩だ!」


 シスタの声で皆の顔が歓喜のものに変わった。


 流石の第二部隊でも、夏の暑さの中での行軍は慣れてはいるがやはりキツいものがある。それに、お腹も減っていた。朝からの行軍で今まで休憩無しだったのだ。


 一行は、休憩のために腰を下ろそうとした瞬間少し離れたところで物音が聞こえてくる。


 物音のする方角の木々の隙間から覗くのは巨大な蟷螂カマキリであった。そしてアリアと目が合う。


「……」


「……」


 沈黙が二者の間に訪れる。


「や、やあ、元気?」


 沈黙を破りアリアが声をかけた。


「ギイイィィィィィィィィッ!!」


 どうやらお気に召さなかったらしい。


 取り敢えずファーストコンタクトは失敗したみたいだ。陽気に話しかけたのがいけなかったのだろうか。


「って、そんな事考えてる場合じゃない!」


 《停滞の箱》から大剣を取り出そうとするが、後方から突如と感じた濃密な殺気によりびくりと体を振るわせて身体を硬直させてしまう。


 いつもなら、固まることはなかった。だが、今日は違った。


 後ろに敵はいない。気配を感じなかったのでそれは確かだ。ならば後ろから感じる濃密な殺気はなんだ?いや、予想は付いている。ついているのだが、それだけに見るのが怖い。


 だが、アリアが振り返るまでもなく殺気を放つ者はアリアの前に出てきた。正確には者達だった。


 あまりに濃密すぎて一塊に感じてしまったのだ。


 前に出てきたのは、シフォン、キリナ、ラテの三人だった。


「よくも…」


 ぼそりとキリナが呟く。


「よくも休憩の邪魔してくれたわね…っ!!」


 キリナが額に青筋を浮かべて静かに怒っていて、その目はもうマジだった。


「ほんとだよ。全く、人の邪魔なんていけないと思うな」


 シフォンが怒っているのかと思うぐらいのトーンで言葉を発するが、その目は確実に目の前の敵をしとめることを考えておりキリナと同じでマジだった。


「もおぉう!!暑いってのに邪魔してくれんじゃないわよ!!絶対ぶっ殺す!!サンプルになれ!!」


 ラテは普通に憤怒していた。それはもう普通に。逆にこちらが落ち着くくらいの憤慨っぷりであった。   


 一声上げるとまずはラテが踏み出した。


「震えろ!我が剣は怒りに身を震わす!この怒りは正当で真っ当で堅実!故に剣は届く!故に剣は彼の肉を断つ!《振動剣しんどうけん》!!」


 ラテのいかにも「怒ってるぞ!」な詠唱が終わるとその名の通りラテの肉厚な片手剣が高速に振動する。


「でりゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 木々の間を縫うようにして高速に移動し主の足下に達するとその剣を主の足に叩き込む。すると、面白いようにすぱっと主の足が切れる。ラテは止まることなくすべての足を斬り尽くす。 


「ギイイィィィィィィィィッ!?」


 足を失う痛みに主が絶叫する。その声にキリナが冷たく返す。


「うるさい。吠えるな木偶でくめ」


 気の枝を利用し高く跳躍するキリナ。主は迫るキリナを迎撃しようと鎌を振るうが、キリナの後方より飛来した炎弾が鎌に着弾、爆風により弾き飛ばされてしまう。


 前方から吹き付ける爆風を者ともせず主の目前まで迫る。恐らく風魔法で気流を操作していたのかもしれない。


 迫るキリナを迎撃することは叶わず、主はその両目を細剣により貫かれる。


「ギイイィィィィッ!?」


「うるさい」


 キリナは主の頭に着地すると触角を斬りつけた後主の背を走る。腹と胸の境まで到達すると迷いなく斬りつける。かなりの太さがあったにも関わらずキリナは綺麗に両断した。


「ギイリイイイィィィィィ……!」


 主の断末魔の声が響き渡る。


 二人はうるさそうに顔をしかめながら剣を鞘に収める。


 キリナは硬い殻を狙うのではなく柔らかい節の部分を狙って攻撃し、ラテは魔法と力業で硬い甲殻を攻撃。


 柔と剛の二極の剣の二人は一分と経たずに主の息の根を止めた。


 途中シフォンも魔法でキリナをサポートしていたが、正直無くてもキリナならどうにかできただろうと思う。


 そう言えば、イーナは手を出さなかったなと思いイーナを見やると、彼女は弓を構えていたものの三人で事足りてしまったので結局は出番がなかったようだ。


「イーナは弓を使うんだな」


「そうやよ~。これは魔弓まきゅうゆうてな、魔力でできた矢を放てるんよ。魔力を直接流し込むだけで矢が作れるから、詠唱いらずで便利なんやわ」


「そうなんだ。確かに、無詠唱だと便利だもんな~」


 そう言うとアリアはクイッと指を上に曲げる。すると、目の前に小さな水球が現れる。それを、フヨフヨと空中に漂わせ、口に近付くとパクッと食べてしまう。


 一連の行動を見ていたイーナはしばし呆気にとられるも、直ぐに破顔してアリアの頭を撫でた。


「アリアちゃんは無詠唱使えるんやな~。ほんまちっこいんに偉いな~」


 頭を撫でられたことに若干のくすぐったさを感じながら、それをイーナにバレないように話題を逸らす。


「それにしても、イーナは出番が無くて残念だったな」  


「そうでもあらへんよ?今回は手ぇ出さんといて正解やったわ~」


 イーナの言いたいことが分からず首を傾げるアリア。


 アリアの顔を見てイーナは笑顔で指を指す。指を指した方向を見るとそこにはシスタにお説教されてる三人の姿があった。


「今回は、個人で来てへん。集団として来てるんや。なんに、あの三人は勝手に奴さんに突っ込んでくからシスタ将軍に怒られとるんや」


 そうか。確かに連携のとれている三人は指示無しで動けるから良いが、他の皆は違う。三人の連携なんて分かるわけでもないから動くに動けない状況になってしまう。


 それでは他のメンバーとの連携はとれずに徒に危険を招くだけだ。その事をシスタは怒っているのだろう。


 三人もそれを分かっているのだろう。しょぼくれた顔をしてはいるも、反省の色が見て取れる。


「集団行動って大変だな」


「そうやよ?一人の身勝手で隊が全滅、なんて事もあるんやから」


「そうなのか」


 イーナとそんなことを話していると、主を倒した場所でイルがせっせと何かをしている。いったい何をしているのだろうか?


 気になったのでイルの元へと行ってみる。


「イル、何してるん?」


「ああ、アリア様。はい、主の素材を回収してるんですよ」


 そう言いながらイルは主の足の欠片に手を当てると、その欠片はパッと消えてしまった。


 手品のような出来事に目を丸くするアリア。


 イルはそれを見ると少し得意げに微笑む。


「今のは《停滞の箱》に直接送りこんだんですよ」


「それ私にも出来るか?」


 手品みたいな事を見たアリアは自分でもやってみたくなったのだ。それに、同じ停滞の箱が使えるアリアならば出来るのではと思ったのだ。


「はい、出来ますよ」


「教えて!」


 目をキラキラさせて懇願するアリアに、イルは優しく微笑む。


「良いですよ。と言っても、簡単すぎて教える事なんて殆ど無いですけどね」


 イルは若干苦笑しながらそう言うと、先程のように主の欠片に手を当てた。


「こうやって、対象の物に手を当てて、『入れ』とか『収納』とか念じるんです。そしたら簡単に《停滞の箱》に入れられますよ」


 そう言うと、また欠片が跡形もなくパッと消える。


「分かった!やってみる!」


 アリアはそう言うと、手近にあった主の鎌に手を当てる。胴体から切り離されているところを見るとイルが解体でもしたのだろう。


 手を当てた状態で『入れ』と念じると鎌はパッと消えてしまった。


「おお~~っ!」


 消えたのを確認し感嘆の声をあげると今度は停滞の箱を出現させ中を確認する。すると、中には先程アリアが触っていた鎌が入っていた。


「入ってる!」


「おめでとうございます」


 イルに報告すると、イルは賞賛の言葉を送ってくる。


 その後は二人で手分けして部位を回収していった。 

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