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第十話 微睡みを誘う寝顔

このたびまたまたタイトル変更しました。

今度はしっくりきたのでこれでいこうと思います。


感想や評価、ブックマークなどありがとうございます。大変励みになっております。


ここでバラドラムさんから一言


バラドラム「読んでくれてありがとうねぇ。これからの私の活躍に期待して頂戴?」


アリア「いや、あんたの場合暗躍だから!」



 お風呂から上がり髪を乾かした後報告の為にフーバーの元へと向かった。


 それにしてもお風呂では大変だった。シェリエが離れてくれないから服を脱げないので無理やり引き剥がそうとしたのだがどこにそんな力があるのかシェリエは接着剤でくっついたみたいに離れてくれなかった。


 自分の服が血で汚れていることと自分の顔も汚れてしまっていることを指摘してようやっと離れてくれた。その時思わず溜め息が出てしまったのは仕方のないことだろう。


 服を脱ぎ体中の血を洗い流してお風呂で少し温まるとアリアは早々にお風呂を後にした。湯に浸かりながらシクシクと泣いているシェリエが怖かったからだ。脱水症状にならないかと心配になるほど涙を流していたが本当に大丈夫なのだろうか。


 まあ、それはともかくとして。今は執務室にいるであろうフーバーの元へと向かっているのだがここで一つ問題が起こった。その問題とはーー


「ここはどこだ…」


 ーーそう、またしても迷子になったのである。


 記憶をたどって歩いてみたもののどこをどう歩いたか忘れてしまい終いには勘で歩いてきた。その結果迷子になってしまった。


 どうしましょうかね。


 勘であるいてきたので始発点であるお風呂場までの道のりも覚えちゃいない。かと言ってこのまま進むのも得策ではない。


 どうしたものかと悩んでいるとふと聞いたことある声がアリアに問いかける。


「また迷子ですか?」


 この優しげな声はついさっきも聞いた事がある。


 アリアはくるりと振り返ると言った。


「そうなんだ。シスタ助けてくれ」


「分かりました。また執務室ですか?」


「ああ」


 シスタは苦笑を一つ漏らすと案内を始める。アリアはまたシスタの隣に並ぶ。


 思えば今日はシスタの隣に並ぶことが多い。


「それにしてもこの城は迷いやすいな。なんでだ?」


「それはこの城の設計にあります。この城は侵入者を想定して複雑に入り組んだ作りになってるのですよ。ですので慣れないと直ぐに迷子になってしまいます。来客の方は案内人を連れてでないと室外に出たりはしません」


「ほえ~そうだったのか」


 どうりでよく迷うはずだ。アリアの記憶力はショボいのではなく城の作りに仕掛けがあるのならばアリアが迷うのは仕方のないことだろう。


「はい、つきましたよ」


 少しすると直ぐに執務室に着くことが出来た。どうやら案外近くまでは来れていたようだ。


「ありがとうシスタ」


「いえいえ、僕も用がありましたから」


 シスタの用とは恐らくは先の魔物の襲撃のことだろう。かくいうアリアもその報告のために来たのだからシスタが来るのは当然と言えば当然だろう。


「そうか、それじゃあ入るか」


 アリアは執務室の扉をノックする。すると中からキリッとした声で返事が返ってきた。恐らくは仕事モードのフーバーの声だ。


「入れ」


「おう。報告に来たぞフーバー」


「僕も同じく報告に参りました」


 ガチャリとドアを開けながら二人は用を簡潔に言う。


 室内にはフーバーとロズウェル、バルバロッセがいた。二人共報告を聞きに来たのだろう。バルバロッセはソファーに座り、ロズウェルは相変わらず椅子の後ろに立って控えていた。


「お疲れ様でございますアリア様。シスタ殿もご無事で何より」


「ありがと」


「ああ、ありがとうね」


 ロズウェルの労いの言葉に二人は返事を返す。


 アリアがロズウェルが後ろに立つソファーに座り、シスタはバルバロッセの隣に座る。


 二人が座るのを見守った後フーバーが口を開く。


「さて、それじゃあ早速で悪いが二人には報告をして貰おうか」


「それじゃあ、私から話そうか。構わないか?」


「ええ、どうぞ」


「ありがとう。それじゃあ、報告をするぞ。…と言っても報告らしい報告は出来そうにもないがな」


「それはどういう?」


「ああ。不自然に魔物が現れた、としか言いようがないんだ。それに魔物自体にも不自然な点は見受けられなかった。一応騎士団には現場保持と市民誘導、それと負傷者の手当てを頼んでおいたがな。私からの報告は以上だ」


「そうか…」


 難しそうな顔をして考え込むフーバー。それも仕方の無い事だろう。なにせ今回の事件は前例がない。そのため少しでも多くの情報が欲しいところだったのに現場に行ったアリアからは自身が認知している程度の情報しか得られなかったのだ。難しい顔にもなってしまう。


「陛下、僕からもいいかな?」


「…ああ、頼む」


 シスタの言葉にフーバーは一旦考えるのをやめる。


「と言っても、僕の方もアリア様とさほど変わらない内容なんだけど、一つ気になる事があってね」


「気になること?」


「誰かが僕達を観察していたみたいなんだ。これは、まず間違い無いだろうね。住民の怯えるような視線じゃなかったからね」


 フーバーはちらりとアリアを見やると彼女は「そうだったのか」と驚いたような顔をしているので気づいたのはシスタだけなのだろう。


「恐らくはその視線の主が今回の事件の首謀者だと僕は思う」


「多分そうなんだろうな…」


 だが、首謀者らしき人物が上がったとして、その人物の特徴も分かっていない。現状は何の進展も見せていないのと同じであった。


 フーバーは短く嘆息すると言った。


「取り敢えずは現場と魔物の死体を調査してみないことには何も分からないか……分かった。それじゃあ今日はもう解散だ。二人共ゆっくり休んでくれ」


「了解」


「分かったよ」


 フーバーの締めの言葉を聞いた後、アリア等は執務室を後にする。


 アリアはあてがわれた部屋に着くとベッドに仰向けに寝転がる。アリアの世話をするために一緒に部屋に入ってきたロズウェルに聞いてみる。


「ロズウェル、今回の件であり得る可能性を言ってみてくれ」


「そうですね…一番あり得る可能性として考えられるのは《召喚者サモナー》による魔物召喚だと思います」


「召喚者?」


「はい。召喚者とは、魔物と契約をしその契約により隷属させた魔物を召喚する者の事を言います。今回の件で一番可能性があるのはそれかもしれません」


「なるほどな…」


 確かにロズウェルの言う召喚者ならば街中にいきなり魔物を出現させるのは簡単な事だろう。


 ロズウェルの説明に納得しかけているとロズウェルはアリアの納得を消し去る説明を始めた。


「ただ、召喚者の魔物召喚も魔法の一種。それなのにも関わらず魔法の兆候が見られず、街中に突然魔物が現れました」


「そう考えると召喚者と決めつけるのも危ういな…」


 アリアやロズウェルですらあの場で魔法の兆候を感知できなかった。魔力が突然ぽっと湧いて出たようにしか感じられなかったのだ。それすなわち今回の件が魔法による仕業では無いことの裏付けに他ならない。


 魔力に敏感なアリアですら気づかない魔法を使えるとなると三柱の一角を担う王国最強の魔道師くらいしか出来ないだろう。だが、その王国最強の魔道師は今は国外にいるという。なのでその線は無い。


「う~ん…これは完全に手詰まりだな~」


「そうですね。今日の所は出来ることはないでしょう。明日の調査隊の報告を待つより有りません」


「そうだな…じゃあ私はもう寝る。流石に疲れたよ」


 アリアはそう言うともぞもぞと移動して布団をかぶった。屋敷の布団に負けず劣らずの寝心地だ。これなら直ぐに眠りにつけるだろう。


 早速うとうとし始めた意識の中アリアはロズウェルに言う。


「おやすみ、ロズウェル」


「はい。お休みなさいませアリア様」


 ロズウェルはそう言うと灯りを消す。


 暗闇が支配する室内でアリアは目を瞑りながら考える。


 王都に来てまだ一日しか経っていないが今日は密度の濃い一日だったと思う。怪力盗賊団に襲われているクレアを助け、王城で二度も迷子になり、そして王都を急に襲った魔物を殲滅した。


 肉体的な疲労は常人ではないアリアにはあまりないが精神的疲労は充分にある。そのため考え事をしていると直ぐにでも眠りにつけそうだ。だが、一つ疑問が残っている。        


 アリアはもぞもぞと寝返りをうつと口を開く。


「ロズウェルはいつ部屋に戻るんだ?」


 そう、ロズウェルが一向に部屋から出て行かないのだ。暗闇に目が慣れていないため正確に位置は分からないが、恐らくは扉の横に突っ立ってる。


 扉の閉開音が聞こえなかったので確実にそこにいるはずなのだが、ロズウェルは返事をしない。


「…」


「…」


 数秒考えるとアリアはあることに気づきまた口を開く。


「なる程、夜這いか」


「いえ決してそのようなことは」

 

 若干焦ったようにそう返すロズウェルにアリアは言う。


「いるなら返事くらいしてくれてもいいだろう?」


「いえ、私の事はいないものとして扱って下さい」


「私は気配に敏感なんだ、それは無理だよ。それより、何故部屋に?」


「護衛のためです。今日だけで色々な不安要素が出来ましたから」


「そうか…」


 アリアはロズウェルと話している間も意識はもう薄れかけていた。自分が思った以上に疲れていたのかあるいは単にこのベッドの寝心地がそうさせるのかは定かではない。


 アリアはもう眠いなと思いながらも言葉を紡ぐ。


「それならそんな所にいないでもっと近くに寄れよ。なんなら添い寝でも良いぞ…」


「……分かりました」


 冗談で言ってみた言葉にロズウェルが乗ってきたので多少驚くアリア。だが、今は凄く眠いため訂正するのもめんどくさかった。


 布団を上に上げてロズウェルを迎え入れる。ロズウェルが布団に入ったのを確認するとアリアは意識を手放した。


 


 眠りについたアリアの顔をロズウェルは顔に優しい微笑みをたたえて見つめる。


 ロズウェルがアリアの冗談に乗ったのは、アリアが不安がっているのではと思ったからだ。いくら大人びていようとアリアは六歳の女の子だ。原因不明の事態が起きれば不安になるのも無理無からぬ事である。


 ロズウェルはアリアの不安が冗談として出てきたのではと推測して今アリアの隣にいる。


 実際はただの冗談だったのだが人の心など覗けるわけではないのでロズウェルの目には推測通りに映っている。


 安心しきったように眠るアリアのきめ細かな綺麗な髪を優しく撫でる。


「ん…んうぅ……」


 寝返りをうってロズウェルの方を向くアリア。その顔は起きているときとは違い年相応で子供らしい顔だった。


 こうして一緒に寝ていると自分に妹が出来た感じがする。アリアには妹として扱ってほしいと言われたがロズウェルとしては未だ主人と従者の関係だと思っている。大人びた人格がロズウェルをそう思わせるのかもしれない。


「む……むぎゅう……」


 体を丸めてロズウェルの胸に顔を埋めるアリア。その時にロズウェルの服を小さなてで握っており離れることが出来なくなってしまった。


 ロズウェルは暫くしてから布団から出ようと思っていたのだがどうやらそれも無理みたいだ。


 企みを諦めて柔らかな布団に身を預ける。アリアの頭を撫でるとアリアは気持ちよさそうな顔をして身を少しだけよじる。


 その顔を見て気が緩んだのか眠気がロズウェルを襲う。


 アリアに服を掴まれていては他にやることも出来ない。それならば寝るほか無いだろう。


「邪を通さぬ障壁を作れ《結界》」


 ロズウェルは結界を張り自身も眠リにつこうと目を閉じる。結界を張ったとは言えそれも完全ではない。高位の魔人族や魔物ならば突破できてしまう。そのため周囲に気を配りながらの浅い睡眠だ。それでも寝ないよりかはましだ。


 ロズウェルはいつでも起きられるようにしながら浅い眠りについた。




 起床前の独特の浮遊間を感じアリアは目を覚ます。窓の外を見れば外はいくらか明るくなっており早朝だろう事が見て取れる。


 暫くぼーっとしていたがアリア以外の息づかいが後ろから聞こえてきて、それを確認しようと寝返りをうつ。


「ーーっ!?」


 アリアは目の前に急に現れた精端な顔つきの青年の寝顔に思わず息をのむ。急に現れたイケメンにアリアはわたわたと慌ててしまうが、その顔をどこかで見たような気がしてじっと見つめると気付く。まあなんて事はない、ロズウェルだ。


 そう言えば昨日寝る前に隣に寝ても良いなどと言っ事を思い出しアリアは落ち着きを取り戻す。


 自分から言っておいてなんだが、まさか本当に一緒に寝ているとは思わなかったのでアリアが驚くのも無理はない。


 それにしても見れば見るほどイケメンだなと思いその顔をじっと見つめる。


「そんなに見つめられると恥ずかしいです」


「んにょっ!?」


 急に喋り出すロズウェルに驚き間抜けな声を上げるアリア。


 驚かされたことに対し軽く咎めるような顔でロズウェルに文句を言う。


「起きてるなら早く言ってくれ」


「失礼しました。私もアリア様の視線を感じてつい先ほど起きたものですので」


 どうやら第一声が先ほどの言葉だったようだ。なんだか起こしてしまったことに悪いことをしてしまったかなと思う。


「それとアリア様。そろそろ起きてくださると助かります」


「なぜに?」


 今はまだ朝と言っても日がのぼり始めて間もない時間帯だ。まだ寝てても良いだろう。それにアリアはもう起きている。そんな寝ぼけた顔をしていたかなと不思議に思うアリアにロズウェルが言い直す。


「すみません。起きあがってください、の方が適切ですね」


 それこそ何故だろうか?アリアが起きなければ不都合なことでもあるのだろうか?


 アリアの不思議そうな顔を見てロズウェルは苦笑しながら答える。


「そろそろ、手が痺れてきました」


 そう言うとロズウェルはアリアに向かって伸ばされた右腕をちょんちょんと左手でつつく。


 ん?伸ばされた?


 アリアがロズウェルの腕を視線でおうと、ロズウェルの言わんとしていることが分かった。なんとアリアはロズウェルに腕枕をして貰っていたらしい。それが分かると同時に急に気恥ずかしくなり顔を赤くして慌てて起き上がりその場で正座をする。


「す、すまない!寝心地が良すぎてぜんぜん気づかなかった!」


「ふふっ、それは褒めてるのですか?」


 アリアの言い訳のような褒め言葉の様な物を聞きロズウェルは微笑む。アリアに腕を解放されたのでロズウェルも起き上がる。


「ほ、褒めてたり褒めてなかったりだな!」


 なんだかよくわからないことを口走るアリア。


 と、そのときアリアのお部屋の扉がノックされ開かれる。


「アリア様入りますよ~」


 部屋に入ってきたのはお盆に着替えを持ってきたセラだった。


「お着替え持ってきました…よ……」


 お盆を両手に持ったセラがアリアを見て固まる。いや、正確に言えばアリアとロズウェルを見て固まっている。


 固まるセラを不思議に思ったアリアが声をかける。


「どうしたセラ?」


「はっ!?」


 アリアの呼びかけにはっと我に返ったセラは慌てて近くの机にお盆を置く。


「す、すすすすみません!お、お取り込み中失礼しましたああぁぁぁぁ……!」


 嵐のように去っていったセラに首を傾げるアリア。


 そうして、アリアは自身とロズウェルを見て今の状況を踏まえて考えた。


 顔を赤くしてベッドに正座をするアリア。それをベッドに座りながら優しい笑顔で見つめるロズウェル。そしてアリアが慌てて起き上がったがためにくしゃくしゃになったシーツや布団。


 これらのことと先ほどのセラの表情と態度から考えられる結果は一つ。


 まあ、有り体に言えば初夜の翌日の朝、みたいな感じだろうか。


「って冷静に考察している場合じゃなぁぁい!!」


 アリアは慌てて立ち上がるとベッドから飛び降り靴も履かず走り出す。


「アリア様どこへ!?」


「誤解を解きに!」


 驚くロズウェルをほったらかしにして廊下を疾走する。


 確かに、先ほどの光景はそう見えなくもないかもしれない。だが、それでもーー


「六歳児はそんな事しないだろうがああぁぁぁぁ!!」


 そんな事があればロズウェルは即ロリコンだ。それも重度の。


 勿論ロズウェルにそっちの気は無い。だが、それを知らないセラは勘違いをしてしまう。


 走ること暫く漸くセラの背中が見えてきた。


「セラ!さっきのは誤解だから!ロズウェルとは何も無かったから!」


「いいんですアリア様!そう言うことが良いことかいけないことかは私には分かりませんが、精一杯応援します!」


「だからちっがああぁぁぁう!!」


 こうしてアリアは朝から変な誤解を解くために王城内を走り回った。


 セラの足は何故かかなり早く追いつくことが出来なかった。そのため二人の追いかけっこは皆が起床するまで続けられた。


 そして起きてきたフーバーによって止められて二人の不毛な追いかけっこは幕を閉じた。


 その後フーバーに滅茶苦茶怒られたのは言うまでもないだろう。

        

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