第八話 パーティー
アリア達は執務室から出ると食事会場に向かった。しかし、アリアだけは一度違う部屋に通された。なんでも、ドレスアップをするためだとか。
六歳児に別にそこまでしなくても良いんじゃないかなとも思ったが、まあ変にされるわけでもないし良いかなと思い素直に従った。
衣装は白色の子供用ドレス。ヒラヒラが多分に付いていて子供が喜びそうなデザインになっている。お姫様に憧れる女の子なら大歓迎だろう。
だがアリアはお姫様に憧れる女の子ではないので。
「すまん。もっと簡素なやつないか?」
となるのだ。
「何言ってるんですかぁ!もうとてもお似合いですよう!このフリフリなんて可愛いじゃないですかぁ!」
アリアの心からの申し出は虚しく散っていく。
体中くねくねしさせながらだらしなく顔を緩めてそう言う彼女の名はシェリエ・デラドーラ。十七と言う若さだが王都でもトップクラスの仕立屋だそうだ。
「シェリエ。私にはどうもフリフリしたのは似合わない。もっとこう、なんだ、大人っぽいやつにしてはくれないか?」
「似合わないなんて事無いですよぉ!ほらほら鏡見てぇ!シェリエの仕立てに間違いは無いですからぁ!」
ずいずいと押されて鏡の前に立たされるアリアは諦めて鏡の中の自分と睨めっこをする。
「……」
「どうですかどうですかぁ?お似合いでしょう?」
確かに似合っている。似合ってはいるのだがこれでは余りにも可愛すぎる。普段の言葉づかいと合わせるとなんともまあ微妙な感じになってしまう。
「やっぱり変えよう。私の言葉づかいに合ってないぞ」
「それはアリア様が言葉づかいを直せば良いだけですよう」
「嫌だよ。今更、可愛子ちゃんぶるなんて」
アリアがそう言うとシェリエは不満げに頬を膨らませた。
「私はアリア様にはこれが一番似合うと思って徹夜してまで作ったのに…」
「それは悪かったって。確かにこれは私にとても良く似合ってるし、良い服だと思う」
「それなら」
「でも、私はありのままの自分を出せる服を着たいんだ」
「あ…ううぅ…」
シェリエは不満げに唸ったが、やがて「はあ」と息を吐くと諦めたように言った。
「分かりましたぁ…他の服もあるからそこから選んでくるぅ…」
「ありがとうシェリエ」
シェリエがとぼとぼとした足取りで隣の部屋に服を取りに行くのを見送ると、アリアは椅子にどかっと座る。
「はぁ…」
思わず何度目になるかも分からない溜め息を吐いてリラックスするために体の力を抜くアリア。
実を言うとシェリエとの押し問答はこれが一度では無い。ドレスに留まらず靴や装飾品の類でもこの様な押し問答を繰り広げていた。
アリアとしては自分の事でここまで熱心になって貰っているので嬉しいと言えば嬉しいのだが、生来の気質かあるいはシェリエがまだ子供だからか彼女は少し我を押し付けてくるところがある。
ただ、彼女も悪気があってやっていることではない。むしろ相手のことを思ってのことなのだ。シェリエの言うとおり今の服は本当に良く似合っている。まるでもともとアリアの体の一部だったかのように違和感なく見られる。それほど彼女の腕は良いのだ。
だからこれは単にアリアの好みの問題だ。それをアリアも分かってるので悪いなとは思っているのだがこればっかりは勘弁して欲しかった。
(今更子供っぽくなんて振る舞えないし…)
さっき散々いじくり倒したフーバーに何か言われるとも限らないし、自分を良く知るロズウェルやメイドちゃんズにも何を言われるか分からない。精神だけが子供じゃないアリアは子供扱いはごめんなのである。
「アリア様ぁ~!こんなのはど~う~で~すか~?」
扉をバンッと開けドレスを片手にシェリエが戻ってきた。その手にはフリフリの少ない白いドレスが握られていた。
これであれば問題は無いだろう。そう思ったアリアはシェリエの持っているドレスにOKを出す。
「うん、大丈夫だ。それじゃあそれで頼む」
「了解しましたぁ!」
シェリエはそう言うとアリアの着付けを開始する。これでやっとすべて揃った。ここまで決めるのに約一時間かかった。そしてこれから着付けと髪型のセットを考えるともう少し時間がかかるだろう。
結構時間が立ったがお腹が空かないのは試食のおかげだ。料理長に密やかに感謝をするアリアだった。
着付けが終わりアリアは会場である大広間に案内された。
パーティーはもうすでに始まっており会場は賑わっていた。
誰も彼もが豪華な服を着ているので一様にして貴族だと分かった。
会場に入ると視線は今回の主賓であるアリアに集まる。集まる視線に若干の居心地の悪さを感じるがアリアは黙って案内人に付いていく。
知り合いはどこかなと周りを見渡すとロズウェルを見つけることが出来た。ロズウェルもアリアに気付いたのかこちらに歩いてきた。
「とても良くお似合いですよアリア様」
「ありがとうロズウェル。そう言うロズウェルも似合ってるよ」
実はロズウェルもいつもの燕尾服では無い。さっきまでは燕尾服だったのでロズウェルも着替えをしたのだろう。ロズウェルの格好は黒色の軍服だった。
黒色の軍服はいつも着ている燕尾服とは感じが違うので何だか新鮮だ。
「でもやっぱり黒色なんだな~」
「変…ですかね?」
「いや、似合ってるよ。ただ黒色以外も見てみたいな~って思っただけだから」
「そうですか。それでは次は違う色を選んでみます」
「じゃあ、楽しみにしてるよ」
ロズウェルと雑談を交わしながら案内人に付いていくとそこにはフーバーがいた。
フーバーはアリアを見つけると微笑みながら言った。
「ははっ、似合ってるじゃないか」
「そりゃどーも。フーバーは……なんか王様っぽいな」
「ぽいじゃなくて王なんだけど!?」
「ああ、そうだったなそう言えば」
突っ込んでる姿しか印象にないから忘れてた。
フーバーはアリアの物言いに若干すねながらも言った。
「お前は俺にもっと敬意を払うべきだと思う」
「お前の突っ込みには敬意を払ってるよ」
「俺に払えよ!突っ込みではなく!」
「やかましい。王なんだから少しは上品にしていろ」
「それをお前が言うか!?」
アリアがそう言うとフーバーは突っ込みを入れた後ばつの悪そうな顔をする。自分でも騒がしくしているという自覚があったのだろう。
すると、フーバーに助け船が入る。
「まあまあ。良いじゃないですかアリア様。今日は宴なのですから少しくらい騒いでも罰は当たりませんよ」
「む、シスタか。さっきは助かった」
「いえいえ、あれくらいならいつでも申しつけて下さい」
「流石に将軍を何度も道案内に使うのはなぁ…」
苦笑して言うアリアにシスタはふふっと微笑む。
「なんだ。アリアを道案内したのってシスタだったのか」
「ええ、陛下。たまたま会いましてね」
王とただの将軍とは思えないほど二人は親しそうな雰囲気の二人。
そう言えばシスタは幼い頃に王城に来たんだっけな。それなら幼い頃のフーバーも知っているのだろうか。
「シスタは小さい頃からフーバーと一緒だったのか?」
「ええ。僕は陛下の側付きをしていました」
「それなら、フーバーの面白い話を聞かせてくれないか?」
「え?何言ってんの?」
アリアのお願いにフーバーは見るからに慌てふためく。
「そうですね…。あっ!ありましたよ面白い話」
「ちょ!シスタ!?何言う気!?」
焦るフーバーをそのままにシスタはアリアに話し始める。
「あれは陛下がまだ十の頃。陛下がたまたま木に登っていたバルバロッセを見かけたときーーー」
「わーーー!!バカそれ言うな!!お前内緒だって言ったじゃんか!!」
「フーバーうるさい!もちっと静かにしていられんのか!!」
「うるせぇ!これ聞かれたら本当に洒落にならないんだ!」
ギャーギャー騒ぐアリア達を五月蝿そうにするわけでもなくただただ微笑ましいものを見るような目で見つめる貴族や使用人達。
彼らは皆フーバーの遠すぎない距離感が好きなのだ。王と言えば国の頂点。そのフーバーは下の者である彼らと溝を作ることはせずに自ら歩み寄る。ある者には親戚の叔父さんに接するように、ある者には姪や甥、自分の近しい子供のように接してくれる。
彼のその気やすさと生来のカリスマ性が彼が多くの支持を持つ理由だ。
貴族や使用人たちはアリアはそんなわけにはいかないだろうと思っていた。こちらは王ではなく女神なのだから。だが実際はそんな事はなく、彼女は使用人たちだろうが騎士だろうがそして王であろうが分け隔て無く接していた。
その事を使用人たちから聞いた貴族達、そして身を持ってアリアの事を知っている使用人たち。彼らは皆一様にアリアが今代の女神で良かったと思っている。
アリアとフーバーの言い合いをBGMにパーティーはつつがなく進んでいった。
場所は変わって王都のとある酒場。その酒場には何十人もの男と一人のローブのフードを被った一人の人物がいた。逆に言えば他の客の姿は無い。
そして店内のカーテンは全てしめられており明かりも最低限しか灯していない。その事がこの場をよりいっそう不気味に見せていた。
男達は今巷で話題の怪力の盗賊団のその一味だ。
男達は皆一様にフードの者に視線を向けていた。男の中の一人がフードの者に声をかける。恐らくは彼がこの一味のリーダーなのだろう。
「なあバラドラムさんよ。うちの一味のもんがやられちまったんだ。だからよ、俺らはうちの一味のもんをやった奴らに報復と仲間の救出をしたいんだ。なにか良い手はねえもんか?」
やられた一味とは今日アリア達に返り討ちにあった者達のことだ。
彼らは報復とは言っているが彼らがしたことは盗賊行為だ。やり返されても仕方のないことをしているのだ。報復なんて出来る立場ではない無いのだが彼らにはそんな理屈は無い。彼らは自分の都合の良いことしか頭に無いのだから。
バラドラムと呼ばれたフードの者はバーカウンターに腰掛けて腕を組む。腕を組むとローブ越しにでも分かるほどバラドラムの胸が強調される。その胸に男達の大半が下卑た視線を向ける。
バラドラムはそんな事気にした風でもなくフードから覗く艶やかな唇を開く。
「そうね…それなら、ちょっと早いけど良い物をあげちゃう」
一言一言が妖艶なその声に男達の数人は頬を赤らめる。
「良い物ってのはいったい?」
リーダーの男の質問にバラドラムは懐から中に紫色の液体が入った瓶を一本取り出した。
「あなた達に今まで渡していたのは身体強化の秘薬。それを飲めば一度に力が常人とは比べ物にならないくらい膨れ上がる。それはあなた達が一番理解しているでしょう?」
バラドラムの言葉に男達は口々にどこか自慢気に言葉を返す。
それを満足気にフードの奥から見つめるバラドラムは唇をペロリと妖艶に舐めると手に持っている瓶を軽く振る。
「これはその上位版の薬。そうね…魔化薬とでも言っておきましょうか」
「魔化薬?」
「魔人族のような力を得られるのよ」
魔人族。その種族は魔力をその身に多く有しているため強力な魔法が使えたり、獣人のように強靭な肉体を有している。そのため魔人族は他種族を低く見ている。それが理由で今、メルリア含む三国と戦争状態にある。三国を相手に今なお優勢を保っていられるのは魔人族が戦闘に関してかなり優秀な事を示している。
そんな魔人族のような力が得られると分かり男達が俄かに色めき立つ。
だが、数人の冷静な者はバラドラムに聞く。
「バラドラムさんよ。そんな物を飲んで俺たちに異常は無いのか?」
「大丈夫よ。多少は変化が及ぶでしょうけどね。力を得るのだからその小さな代償よ」
「多少…な…」
男は胡散臭そうな顔でバラドラムを見る。バラドラムはそれを笑顔でかわす。
「別に信じられないなら飲まなくても良いわ。ただ…その場合あなた達は助けられる者を助けられないけどね」
バラドラムの言葉にリーダーが食ってかかった男に怒鳴る。バラドラムの機嫌を損ねて薬が貰えないのを危惧してのことだ。
「おいおいゴークよ!何をそんなにビビってるんだ?バラドラムさんは俺らに力をくれたじゃねえか!そんな方を疑うんじゃねえよ!」
「で、ですがリーダー」
「まあまあリーダーさんそんなに怒らないで?彼は皆が変になっちゃわないか心配なだけなんだから…」
怒鳴るリーダーを宥めたのは驚くべき事にゴークに食ってかかられたバラドラムだった。
バラドラムは妖艶な手つきでリーダーの頭を掴み自身の胸に抱え込む。
「彼は仲間思いのいい子なんだから…そんなに怒っちゃだめよ?」
「あ、ああ。分かったよバラドラムさん…」
リーダーは顔を赤らめてだらしのない顔で言う。他の者は羨ましそうな顔をしている。
ゴークと呼ばれた男はそれを胡散臭そうな目で見つめる。
ゴークの視線に気付いているバラドラムは苦笑をするとリーダーの頭を放す。
「さて。どうするの?魔化薬、いる?それとも、いらない?」
「いや!貰う!是非とも頂く!」
リーダーのその言葉にバラドラムは嬉しそうに身をくねらせる。
「そぉう。それは嬉しいわぁ…それじゃあ、ここにいる人数分差し上げるわ」
バラドラムはそう言うとカウンターに置かれた木箱を開ける。中には人数分の魔化薬がずらりと並んでいた。
「さあ、一人一本ずつ持って行って」
バラドラムがそう言うと男達は次々と魔化薬を持って行く。
「…」
「さあ、あなたも」
ゴークは不承不承ながらも魔化薬を手に取った。
それを見守りバラドラムは男達に声をかける。
「さあ!これを飲めば準備が整うわ!皆さん今宵は楽しいパーティーを開きましょう!」
「「「「「「「おうっ!!!!」」」」」」」
男達が一斉に声を上げる。
バラドラムは口角をにいっと上げると言った。
「全ては大いなる目的のために!」
「「「「「「「全ては大いなる目的のために!!!!」」」」」」」
男達はそう言うと魔化薬をグイッとあおり一気に飲み干す。
飲み終わった後の空瓶がゴトゴトと地面に落ちる。
「お、おおっ!!」
「力が、力が漲る!!」
「ははっ!こいつは良い!体が軽いぜ!」
男達が口々に驚愕の声を上げる。
「バラドラムさん!ありがとよ!これで仲間を助けられるぜ!」
リーダーの言葉にバラドラムは妖艶に微笑む。
「良いのよ。これも全て大いなる目的のためよ…」
「ああ、大いなる目的のためだ!」
リーダーの言葉にバラドラムはふふっと笑う。
「さあ、行ってきなさい…私の可愛いペット達」
「ペ、ペット?何を言って」
バラドラムの脈絡のない言葉にリーダーが困惑して聞き返すがそれは仲間の悲鳴によって遮られた。
「どうした!?」
リーダーがすぐさま振り返る。振り返った先には血溜まりがあり血溜まりの中には一匹の魔物がいた。
「な、何でこんなところに魔物が!?」
急に出現した魔物に困惑するリーダー。だが、それ以上リーダーの困惑を誘う出来事が起こる。
「あ、ああああああああ!い、痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!」
突如として仲間の一人が苦しみだしたのだ。
「どうした!?」
慌てて仲間の元へと駆け寄る。だがその足は途中で止まってしまった。
「ぐっ!?な、んだぁ…!!」
両膝を床につき胸を押さえて苦しみ出すリーダー。周りをちらりと見渡すと、それはリーダーだけではなく他の全員にも見られることだった。
膝を付いて苦しむリーダーにバラドラムが近付いていく。
苦痛に顔を歪ませバラドラムに問うリーダー。その顔には滝のように汗が流れていた。
「な、なに、を"じだ……!!」
苦しむリーダーの顔をバラドラムは妖艶な笑顔で覗き込む。
「何って魔化薬を飲ませただけよ?」
「だっだら…なぜ!?」
クスクスと楽しそうにバラドラムは笑う。
「魔物になる薬。だから魔化薬なのよ」
「っ!?」
バラドラムの衝撃の言葉に顔に驚愕の色を見せるリーダー。
「ふふふっ。だぁめよぉ?敵の言葉なんて信じちゃぁ…」
バラドラムはそう言うとフードを取った。フードの中の顔は至って普通の人間の顔だっだ。いや、至って普通とは言えないバラドラム顔は十人人に聞けば十人が十人とも美女だと答えるほど美しかったのだ。
バラドラムはその顔に笑顔を浮かべていてこんな状況でなければリーダーは極上の美人がいると歓喜していただろう。だが、バラドラムのその笑みは今のリーダーにとっては薄ら寒いものしか感じさせなかった。
「化粧は女の武器なのよ?」
徐にウィッグを取り懐からタオルを取り出すとバラドラムは顔を拭う。タオルで拭ったその顔にリーダーは驚愕の声を上げる。
「なっ!?……そんな…」
「ふふふっ。驚いた?」
化粧の落ちたその顔は薄く青みがかっており普通の人とは言えない肌の色をしていて目は濁った金色で猛禽類を思わせるような鋭い目つきをしていた。髪は血のような黒っぽい赤色をしておりストレートにのばされたその髪はまるで血の滝のようだった。
その相貌はリーダーの記憶のある種族に酷似していた。
リーダーは恐怖に顔をひきつらせると絞り出すように呟いた。
「ま、魔人族……」
リーダーの言葉を聞きバラドラムは満面の笑みで答えた。
「だぁい正解。良くできましたぁ」
パチパチと茶化すように拍手をするバラドラム。
「あなた達が力を貰っていたのはあなた達が一番嫌う存在だったのよぉ?」
「く……そがっ……」
リーダーの意識が段々と遠のいていく。自分が終わろうとしているのが分かった。
周りの仲間達は悲鳴を上げながらその身を魔物へと変えていく。リーダーはそれに恐怖よりも申し訳ないという気持ちの方が強かった。自身が不甲斐ないばかりで仲間を化け物にしてしまったのだから。
「……すま…ねぇ……」
薄れゆく意識の中その言葉を最後にリーダーも化け物へとその体を変化させた。
魔物になっていく盗賊団をバラドラムは満足そうに見つめるとふと視界に映る者がいた。
部屋の隅で歯の根が合わずにガチガチと歯を鳴らし震えている男がいた。
それは先ほどバラドラムに食ってかかってきたゴークであった。大方、バラドラムが信じられずに魔化薬を飲まなかったのであろう。
バラドラムは恐怖でうずくまる彼に近づいていく。
「あら~?魔化薬、飲まなかったのねぇ…」
「ひっ!ひいぃ!」
「そんなに怯えなくたっていいじゃない。傷つくわぁ」
あからさまに怯えるゴークにそう言ったもののバラドラムは傷ついた様子はない。
「まあ良いわ。これ食べちゃって」
バラドラムがそう言うとかつて仲間だった多種多様な魔物が一斉にゴークの方を向く。
「あ……ああ…」
後ろに後ずさろうとするもゴークは既に壁際にいるのでそれ以上下がることが出来ない。
少し下がってパチンとバラドラムが指を鳴らすと魔物がゴークに殺到する。
「ぎゃあああああああああ!!嫌だぁっ!!止めてくれぇ!!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
ゴークが断末魔の叫びを上げて魔物にぐちゃぐちゃと喰われていく。
「あなたも魔化薬を飲んでいればこんな事にはならなかったのにねぇ?」
バラドラムは魔物の肉を食う咀嚼音をBGMに誰にともなく宣言する。
「さあ!楽しいパーティーを始めましょう!!」
王都の夜に魔物の雄叫びが響く。
 




