第五話 王都到着
十万pv越えてました。
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馬車の中には張りつめた空気が漂っていた。
理由は至極単純なものでクレアが原因である。これはクレアが悪いとかではない。メイドちゃんズ+スティが緊張してしまって張りつめた空気になってしまっているのだ。
そんな空気の中でもクレアはニコニコしていてそれが逆に皆を萎縮させてしまう原因にもなっていた。
はあ、と一つ溜め息を吐くとアリアはクレアの隣に座った。
「殿下、出発にはもうしばらく時間がかかるそうです」
「ええ、分かりましたわ…あの」
「はい?」
「その、殿下と言うのを止めて頂けると助かりますわ。私の事はクレアとお呼び下さい。それと敬語も無してくださると助かりますわ」
「……分かった。私もそちらの方が楽だからそうさせてもらおう」
「ありがとうございます」
アリアが数瞬迷って出した答えにクレアはご満悦のようだ。嬉しそうにはにかむクレアは言葉を続ける。
「ずっと、同年代の友人が欲しかったんですの。他の貴族のご子息は私を前にするとガチガチに緊張してしまってまるで自然体に話せませんの。王族だからと気を使わなくてもよろしいのに…」
それはそうだろうなと思うと同時にそれだけでも無いんだろうなとも思う。
何故なら目の前にいるクレア・メルリアは百人に聞いたら百人が美人だと答えるほどに美人なのだ。
柔らかそうな金の髪に聖母を思わせるような慈しみを持った優しい瞳。そして均整のとれた美しい相貌。それと併せて漂う風格は常人には近寄りがたさを感じさせた。
要するに貴族のお坊ちゃまお嬢ちゃま方は美人過ぎるクレアに対して緊張してしまうのだ。相手が王族だからとかでは無い、相手がクレアだから緊張してしまうのだ。
現に、メイドちゃんズを見てみると緊張はしているがその頬は微かに上気していたのでまず間違い無い。
それなのに元が平凡な男子高校生だったアリアが何故頬を上気させることも無いのかと言えば自分の顔を毎日鏡で見ているからだ。
いや、ナルシストとかそう言うわけでは無い。単純に髪を乾かすときとかに鏡を見たりしているからだ。
つまりはアリア自身も充分に美人、しかもクレアにも負けず劣らずの美人だったため慣れてしまったのだ。
メイドちゃんズも毎日アリアの顔を見ているのだがアリアには慣れてもその他には未だ慣れていないのかもしれない。
アリアは自身の脳内で弾き出された蛇足付きではあるが間違ってはいない結論を述べた。
「それはクレアが可愛いからだよ。王族とかだからじゃなく、単にクレアだから緊張してしまうんだよ」
「なっ!?」
アリアがストレートな意見を言うとクレアは恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして両の頬を押さえてうねうねしてしまう。
「そ、そんな可愛いだなんて…そんな事ありませんわ。アリア様の方が可愛いですわ」
「私が可愛いのは認めるが、それに負けず劣らずクレアも可愛いよ」
「ふえっ!?~~~~~っ!!そ、そんな事ありませんわよ~~!アリア様に比べたら私なんて霞んでしまいますわ!」
「そんな事は無いもっと自信を持つんだクレア。君は可愛いんだ」
「~~~~~っ!!」
そんな二人のある意味自画自賛とも言えるお互いを賛美する言葉の押収をメイドちゃんズ+スティは死んだ魚のような目で見ていた。
「これは…新手の嫌がらせですか…?」
「事実を言い合っているんスけど…何だか釈然としないッス…」
「私…女として自信無くしそう…」
「お互いを賛美してるだけなのに自画自賛を言ってるようにしか見えなくなってきた…」
「これが美形同士の会話…常人には分からない…」
メイドちゃんズの死んだ魚のような目には気付かず、アリアとクレアの押収は馬車の準備が整うまで続いた。
馬車の準備が整い出発してから十数分アリア達は先程のような会話ではなく皆を交えて歓談をしていた。
「まあ!では、ムスタフ伯爵領の事件を解決したのはアリア達だったのですね?」
話題は先のムスタフ伯爵領での人攫い事件の事だ。クレアもアリアのことを様付けしなくなり他の皆も次第に打ち解けていった。
因みにクレアはアリアの事を様無しで呼ぶのに抵抗をしていたがアリアが一言「友達なのに様を付けるのはおかしい」と言ったら渋々ながら承諾してくれた。
最初は慣れなかった様子だが今ではこの通りだ。
「そうッスよ!アリア様と師匠、あっ、師匠って言うのはロズウェル様の事ッス!それと、ここにいるユニの兄のハイロさんが私達を助けて下さったんスよ!」
「そうなのですか?それではハイロ様もとても優秀な兵士の方だったのですね」
「いいえ、家の兄は新米兵士でしたのでかえって足手纏いだったと思います。殆どアリア様達のおかげですよ」
クレアの言葉にユニは苦笑して答える。それにアリアは否と否定の言葉を言う。
「そんな事はない。皆が捕らえられていた場所を発見できたのはハイロのお陰だ。逆に言えばハイロがいなかったらあの事件は解決しなかった。ハイロはあの事件の立役者と言っても過言では無いよ」
「まあ!それならやはり優秀な兵士さんですのね!」
「ああ、ハイロは将来有望だな。思いやりがあって優しくて、自分の弱さを理解してもそれを努力して無くそうと頑張ってる」
アリアとクレアの手放しの絶賛にユニは照れくさそうな顔をしていた。それをメイドちゃんズは暖かい眼差しで見つめていた。
アリアは用意していた水筒の水を飲んでのどを湿らせると話題を変えた。
「それにしても、クレアは何故お忍びでの移動なんてしてたんだ?」
「それはですね、私の父が『王家たるもの守られているだけではいかん。と言うわけで修行してこい』とおっしゃられまして。それで、私は近くの安全な狩り場に行って狩りの練習をしていましたの」
「そうだったのか」
それはなかなかに厳しそうな人だな。賢王と名高いだけあってか威厳や格式にも厳しい人なのだろうか。
国王とはどんな人なのだろうと考えを巡らせていると、クレアが眉をひそめて話を続けた。
「ですが、奇妙な事がおきましたの」
「奇妙なことですか?」
「はい。その狩り場は比較的安全で低ランクの冒険者や新米騎士が腕を上げるために行くランクの低い狩り場なのです。それで、安心して魔物相手に実地訓練をしていたのですが、そこにその狩り場にはいるはずのない高ランクの魔物が現れたのです。勿論高ランクと言っても中級程度なのですが、それでも私は驚きました。ええ、それはもうビックリです。高ランクの魔物が出たという事はそれはその狩り場の主なのですから。他に高ランクの魔物も見受けられませんでしたのでその魔物は主で相違ないです」
そこで一旦言葉を区切るクレアにアリアは水筒を渡す。クレアはお礼を言うとコクコクと可愛らしい音を立てて水を飲む。
お礼とともに水筒をアリアに返すとクレアは話を続けた。
「流石に、高ランクの魔物では私は適いませんので騎士さん達にお願いしました。騎士さん達は流石手練れと言うだけあってそれなりに時間はかかりましたが主をあっという間に倒してしまいました。それだけなら何ともないただのビックリしたねと言うだけの思い出話です」
「と言うことはその後に?」
「ええ、問題はその後です。主を倒したことでその狩り場は次の主が現れるまではランクが低くなります。そのため安心して魔物を倒していたのですが、そこで思わぬ敵と遭遇してしまったのです」
「思わぬ敵?」
「はい、主です」
クレアの言葉に皆一様に驚愕する。倒したはずの主がまた出てきたのだ。驚くのも無理はないだろう。
だが、驚愕はそれだけでは終わらなかった。
「主は単体ではありませんでした。一度に三体も押し寄せてきたのです」
「三体!?」
スティが驚きの声を上げる。
「三体なんて…そんなの普通じゃないですよ!狩り場には主は最低一体。多くても三体までしか共存はできません!それなのに倒した主と合わせて計四体だなんて…異常としか考えられません」
魔物が狩り場…所謂ダンジョンなどで生息しているうちに力を付けてそのダンジョンの生態系の頂点に君臨する。その君臨した魔物を主と呼ぶ。魔物はその気性の荒さから同族だろうが殺して食べてしまう。
そのため、一つのダンジョンに最低一体の主。多くとも三体までしか共存出来ない。しかもその三体は異例で雄と雌の番とその子孫だったのだ。
それなのに番ですらない四体の主が共食いもせずに共存している。確かにそれはおかしな話だ。
「ええ、私もそう思います。そう思ったので慌てて逃げました。そして逃げて王都に着くと言うところで賊の襲撃です。今日は災難続きです」
「そうだな…お疲れ様」
「はい、もうお疲れです」
そんな話をしていると御者台に通じる窓がコンコンと叩かれる。
アリアが移動して窓を開ける。
「どうしたロズウェル」
「はい、そろそろ王都です。…あそこに見えますのが王都を囲う城壁です」
ロズウェルが指さすその先には木々を越えて見える大きな壁があった。
「ほえ~大きいな~」
「あれは、王国最強の魔道師が一夜にして作り上げた城壁だ。そんじょそこらの魔物ではびくともしないほど頑強だ」
「一夜であれだけの物を作れるのか~凄いな…」
バルバロッセの説明に感嘆の声を漏らすアリア。
ふと、後ろから視線を感じたので振り返ると、メイドちゃんズがキラキラと目を輝かせてこちらを見ていた。アリアは苦笑するとその場を退き皆に言った。
「もう城壁が見えてきているぞ。凄いからお前達も見てみろ」
「はい!」
皆元気よく返事をすると順番に窓から城壁を見た。
アリアが席に着くとクレアはクスクスと楽しそうに笑いながら、窓の外を眺める四人を見ると言った。
「皆さん仲がよろしいんですね」
「…そうだな…特にあの四人は同じ事件の被害者だからな。お互いを支え合うようにして生きているからな。良いことだよ本当」
「アリア様も輪に外れず仲がよろしいみたいですが?」
「それは私が皆の妹だからだ。姉や兄は妹に優しいのさ」
勿論それだけではないことは分かっている。皆普通にアリアと心を通わせているとアリア自身も理解している。なのでさっきの言葉は照れ隠しだ。
それに気づいてるクレアとスティの二人はおかしそうにクスクス笑う。それを見てアリアはばつが悪そうな顔をすると言った。
「兄と言えばイルも随分とスティに甘い気がする。この間なんてーー」
そう言ってアリアは初日の二人が鼻血を出したいきさつを掻い摘んで話す。すると、さっきまでおかしそうにしていたスティの顔が見る見るうちに羞恥か怒りか分からないが赤く染まっていく。
「あんのバカ兄ィィィィ~~~~~っ!!」
拳を握り締めてそう言うスティに今度はアリアがおかしそうに笑うのだった。
城壁が見えてから暫く走ると大きな門が見えてきた。
門には馬車による行列ができており通るには暫くかかりそうだった。
「長い行列だな~流石王都だ」
「そうですね。あ、そうですアリア様。これを着て下さい」
ロズウェルがそう言うと取り出したのはシーロの村で着たようなフード付きのローブだった。
「分かった。だけど何で二枚?」
「クレア様の分でございます。クレア様はお忍びです故」
「ああ、なる程。分かった」
アリアはそう言うと馬車の中に引っ込みクレアに訳を言ってローブを渡した。
暫くすると馬車の中身を検閲する為に騎士がやってきた。
「申し訳ありませんが中の物を改めさせていただきます」
「構いませんよ。ただ、この馬車の中はある高貴なお方がおりますのでご勘弁願いたい」
「いや、ロズウェル構わない。寧ろここは私が出た方が早い」
「いいえ、私が出ますわ。そちらの方が混乱は少なくて済みますし」
クレアのその言葉にシーロの村の出来事を思い出す。そう考えると確かにクレアが出た方が良いだろう。
「分かった、頼む」
「ええ」
クレアは窓から身を乗り出すと騎士に話しかける。
「騎士様ご機嫌よう」
「ど、どうも…」
「ここを早急に通して頂きたいのですがよろしいですか?」
クレアはそう言いながら自身のフードを少しばかりめくり上げる。
騎士はその顔を見るや否や膝をつき頭を垂れた。
「も、申し訳ございません!とんだご無礼を!」
「良いですわ。無礼など働いておりませんし。お顔を上げてお立ちになって下さい」
「はっ!失礼致します!」
騎士はそう言うときびきびとした動作で立ち上がる。そんな騎士にクレアは微笑みながら言う。
「騎士様、私達は急ぎの用事がございますの。ですので早くに通してもらえると助かるのですが…」
「かしこまりました!では付いてきて下さい」
騎士はそう言うと馬車を先導していく。
馬車の中に身を引っ込めるクレアにアリアは言う。
「良いのか?検閲に来たのに検閲させないで。しかも急かすようなことを言って」
「仕方ありませんわ。普段なら私も待ちますが、今は一大事ですし。早くお父様にこの事をお伝えしないと」
「そう…だな…。その狩り場にもまだ新米の騎士達とかも行るかもしれないし、もしかしたら今も向かってるかもしれない」
「ええ。ですので急がねばなりませんの」
と、そうこうしているうちに馬車は門を通り抜けてメルリア王国王都に足を踏み入れた。
「ようこそ!王都ヘルメーンへ!!」
馬車の外から騎士のそんなような言葉が聞こえた。何はともあれアリア一行は王都に到着した。
ただ、アリアは王都に付いたと言うのに晴れやかな気分にはなれなかった。
これから先の事件とは比べ物にならないほどの大きな事件が起こるのをアリア達は知る由もなかった。
 




