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第七話 メイドを雇おう⑦

 アリア達はその後も隠し部屋を探っては突撃し中にいる者を捕縛していった。ただ、看過し難い行為をしている者はその場で制裁している。


 そうしている内に最初に倒した四人の所に戻って来た。ここまで戻ってくる内に捕まった人が収容されていた部屋が三カ所。物置が二カ所。休憩所みたいなところが一カ所の計六部屋を回ってきた。


 救助した人の数は最初の少女達を合わせて計三十二人。この人達を先に地上に返さずに一緒に来てもらっている理由は途中で敵に捕まってしまう恐れがあるからだ。


 そして、その中に二人の姿は無く、三人は程度の差はあれど焦っていた。


「戻って来ましたね」


「そうですね…」


 そう言いながらも壁を叩く三人。すると、ヒットは三カ所あった。


 まず一つの部屋の扉を壊す。


「ロズウェルとハイロはここで皆の護衛だ。私は中を見てくる」


「かしこまりました」


「了解です」


 二人の返事を聞くとアリアは中に入っていく。


 少し進むと広い空間に出る。その部屋には檻があり、檻の中には数人の人が閉じ込められていた。


 そして、三人の見張りがいた。


「なっ!貴様、何故ここにいる!!」


「何故って、その人たちを助けにだ」


 そう言うとアリアは無詠唱で風の弾丸を三発放ち、一人一発づつお見舞いした。それだけで三人は気を失ってしまう。


 気絶した三人を一瞥し、無詠唱で《捕縛》を使い地面に縫い付ける。


 檻に近づき中の人達に話しかける。


「もう大丈夫だ。安心して良い。今出してやるからな」


 アリアは檻の扉に手をかけ開けようとするが鍵がかかっていて開かない。


「ちょっと下がってな」


 アリアは中の人達に下がるように言う。素直に下がっていく人達を見て充分距離が有ることを確認すると風の刃を形成し入り口を切り裂く。


 バラバラと鉄の棒が地面に落ちカランカランと乾いた音を周囲に響かせる。


「さ、出ても大丈夫だ」


 アリアの言葉を聞き恐る恐るだが、檻から出て行く人達。するとその中に十四歳ぐらいの女の子と7歳ぐらいの男の子がいた。


 もしやと思い二人に声をかける。


「ねえ、君達」


「な、何ですか…?」


 若干警戒しながらも答えてくれる女の子。その後ろに隠れるようにして男の子はこちらを見る。


 怖がらせないように微笑みながら聞いてみる。


「君達はユニとニケという名前じゃないかい?」


 すると、二人の目が驚愕で見開かれた後、思い出したようにこくこくと頷く。どうやら当たりらしい。


 見たところ二人は軽い掠り傷や打撲くらいで大した怪我は無かったようで安心する。


「そうか、それじゃあ行こうか。お前らのお兄ちゃんが待ってる」


「ほ、本当?」


「ああ、本当だ。さあ、皆も付いてきてくれ!」


 二人の手を取り皆にも声をかける。手を取ったことでユニが少しかがむ感じになってしまったが、何も言わず黙って付いてきてくれるのでこのままでも良いだろう。


 ニケは未だに不安そうな顔をしていたがそれでも付いてきていた。


 皆の所に戻ると、ハイロが弾かれたようにこちらに駆けつけて来た。


「ユニィ!ニケェ!」


 ハイロの声につられ二人もハイロを見つける。アリアが手を離して一歩下がって二人の背中を軽くポンっと押してやる。


 すると、二人もハイロに向かって駆けて行く。


「お兄ちゃん!!」


「お兄い!!」


「ユニっ!ニケっ!」


 ハイロは二人を強くきつく抱き締める。ハイロの抱き締められたことで二人も緊張の糸が切れたのか泣き出してしまう。


 ここが敵の本拠地で未だ開けていない部屋が有る中ではその行為は好ましくないのだが、今はそのままにしておこう。幸いにして開けていない部屋は両方とも同じ壁だ。


 アリアは捕まっていた人達をアリアが今し方出てきた部屋の壁の方に集める。


 するとーー


「なんだ、何騒いでーー誰だテメエ等っ!!何でテメエ等も出てやがる!!」


 部屋の一つからむさ苦しい男が出てきた。男の声を聞いてか少し慌てた様子でもう一つの扉からも複数の男が出てくる。右からは六人、左からは四人だ。


「ロズウェル、右を頼む。左は任せろ」


「かしこまりました」


 ロズウェルは軍刀を抜き、アリアは手を前にかざす。


 ロズウェルが地を蹴ると同時にアリアも魔法を発動する。


「ガキが!舐めんなぁ!!」


 こちらに一直線に突撃してくる男に風の弾丸を食らわせる。男は錐揉みになって吹き飛んでいく。


「ゴミ風情が、舐めるなよ?」


 アリアは残りの三人を見据えると言う。


「武器を捨てて投降するなら攻撃はしない。さあ、どうする?」


 アリアの勧告に男たちは武器を構える。どうやら、投降するつもりはないらしい。


「まあ、そうだろうな」


 アリアは男たちが動く前に魔法を放った。


 今度は風の弾丸ではなく捕縛魔法だ。今の問いはこの捕縛魔法を準備するための時間稼ぎだった。


 未だ、魔法の標準を会わせるのが少し難しいので、失敗しないようにゆっくりと魔法を練っていたのだ。


「な、なんだこれ!?」


「動けねえ!?」


「クソッ!何だよこれ!?」


 口々に喚く男達の顔面に風の弾丸を当てて昏倒させる。     


 ロズウェルの方を確認するともう終わっていた。全員地面に縫いつけられていた。


「ロズウェル、中に人がまだいるかもしれない。そっちの部屋を頼む」


「かしこまりました」


 アリアはロズウェルに指示を出すと、自分も左側の部屋の方に入っていく。部屋の中を確認してみたが中には誰もいなく、テーブルとソファーが有ることから休憩室みたいなところだろう。


 テーブルの上にはトランプが置いて有るだけだった。


 今度は部屋の隅に置かれている机を確認しに行く。引き出しは一つで安っぽい机だった。


 椅子によじ登り机の上を確認するが何も置いてない。今度は引き出しを開けてみようとしたが鍵がかかっているのか開く気配は無い。


 古い机なので力付くでやれば開くかもしれないと思い目一杯引っ張ってみる。すると、少しの抵抗はあったもののバキッと音を立てて引き出しは開いた。


 変わりに、勢いがつきすぎて椅子ごと地面に倒れてしまい後頭部を思い切りぶつけてしまった。


「んんんんんん!!いったぁ~~~~~っ!!」


 暫くは頭を抑えてゴロゴロと転がっていたが、痛みが収まると立ち上がる。若干涙目なのはご愛嬌だ。


 たんこぶにはなっていないものの、もの凄く痛かったので仕方ないだろう。


 椅子を立て直しよじ登って引き出しの中を確認する。中には紙の束が入っており一枚一枚確認していく。


 それは、罪状と名前などの書かれた紙の束だった。それが、分かったところでアリアに疑問が生じた。


「あれ、見たこと無い字なのに読める…」


 そう思うと、この世界で初めてあったロズウェルとも言葉が通じたことにも今更ながらに驚く。だが、今はその事は些事だと思考を切り替え紙の束に視線を戻す。


 何枚かめくっていく内に見覚えのある名前が見つかった。


「これは、まさか!」


 アリアは紙の束を抱えると慌ててロズウェルの元へと駆け出した。


 皆がいるところに戻るとロズウェルも、もう戻っていた。新しい顔触れがあることからロズウェルの方には捕まった人がいたのだろう。


 だが、その事に構う事無くロズウェルに駆け寄る。


「ロズウェル!!」


「いかがなさいましたかーーどうしたのです。そんなに汚れて」


 さっきの転倒&ゴロゴロで汚れてしまったのだが今はそれを説明している時間が惜しかった。


「今それはいい!これを見ろ!」


 アリアはロズウェルに紙の束を突き出す。ロズウェルはそれを受け取るとめくっていく。が、アリアと同じ所で目を見開く。


「アリア様これは」


「ああ、恐らくはお前の思っている通りだ」


 アリアはそう答えると、落ちている片手剣を拾って、ある人物の元へと向かった。その人物とはーー


「ユニ、ニケ。少し聞きたいことがあるんだが大丈夫か?」


 未だ抱き合っているハイロ達三人のところだった。


 ユニとニケは泣きはらした顔を上げると不思議そうな顔をしながらも頷いた。


「よし、それじゃあ単刀直入に聞くぞ?」


「うん」


「この剣を振れるか?」


 アリアがそう言って差し出したのは先程拾った片手剣だ。


 アリアの要領を得ない質問に戸惑いながらもユニは答える。


「振れないです。ニケに至っては持つことも難しいと思います」


 アリアはその答えを聞くと満足そうに頷く。


「そうだよな、当たり前だ。わざわざありがとうな」


「いいえ」


 アリアはロズウェルの所に戻ると結果だけ報告する。


「二人はだ。当たり前だけどな」


「そうですか。ではやはり…」


「ああ、そう言うことだ。まあ、今は全員を地上に返そう。この案件はそれからだ」


「そうですね」


 ロズウェルはそう言うと紙の束をポーチにしまうと手をパンパンと鳴らして皆の注意を集める。ポーチ色々入りすぎだろ。


「皆さん、これから地上に出ます。この先の通路は狭いので一列に並んで下さい」


 ロズウェルに言われると皆は一列に並び始める。


「ロズウェル、殿しんがりは私とハイロに任せろ。お前は入り口から賊が湧いてくるかもしれないから先導を頼む」


「かしこまりました。アリア様もお気をつけて」


 ロズウェルは一礼すると列を引っ張っていくために列の前へと向かう。アリアはハイロを呼び止めると自分と殿をするようにと言いつける。


 ハイロの後ろにはユニとニケがくっついてきていたがさして問題は無いだろう。ユニとニケを自分達の前に並ばせる。先頭が動き始め列が前に進む。


 暫く歩いていたが新たな賊が湧くこともなく無事に外に出ることが出来ホッとするアリア。


 すると、列の先頭にいたロズウェルが駆け寄ってきた。どうやら、この後の行動をどうするか聞きに来たらしい。


「取り合えず兵舎に向かおう。兵舎には病棟もあるし、それに大浴場もあるだろうからな」


「はい、大浴場はあります。ですが、大浴場は週末にしか湯を張らないんです。ですので今日は湯を張ってないと思います」 


「それなら心配はいらない。湯なら私とロズウェルで張ればいい」


 そう言うとアリアは手のひらに水球を作る。だが、その水球からは湯気が出ておりそれがお湯だと言うことは一目で分かる。


 納得したハイロは皆の元へと行き兵舎まで先導する。


 アリアとロズウェルは最後尾につき歩く。


「ロズウェル、あそこまでの道を覚えてるか?」


「ええ、完璧に記憶しております」


「なら、兵舎に着き次第兵を伴って道案内をしてやってくれ」


「かしこまりました」


 捕縛魔法はかけているのだが抜け出される可能性もあるので早くに捕まえておきたいのだ。


「…これで、一件落着といかないのが面倒だな…」


「そうですね。ですがそれも直ぐに終わるかと」


「ああ、切り札はあるし何とかなるだろ」


「ええ、あれでしらを切るのは難しいかと」


 と、そうこう話している内に一行は兵舎に辿り着いた。門番はいきなり大勢が押し掛けてきたので驚いていたがハイロが説明すると直ぐに中に通してくれた。


 もう一人の門番は走って病棟に向かい医者や看護士を大勢伴って外に出てきた。


 診察室に入りきらないので外での診察と治療になってしまうが恐らくは大丈夫だろう。


 ロズウェルは数十人の兵士を連れて人攫いの本拠地まで案内をしに行った。


 周りの状況を見て一安心しているとハイロとユニ、ニケがやってきた。


「ハイロ、そっちはもう大丈夫なのか?」


「はい、お陰様で大事無いです。……アリア様」


 ハイロはそう言うと左胸に右拳をあてハキハキとした声で言った。


「この度は、私どものためにご助力下さりありがとうございました!!このご恩は一生忘れません!!本当にありがとうございました!!」


「「ありがとうございましたアリア様!!」」


 ハイロに続きユニとニケもお辞儀をしてお礼を言う。


 その光景を見ていた他の皆も敬礼やお辞儀などをして口々にお礼を言った。


 皆にお礼を言われ若干気恥ずかしくなりながらもアリアは言う。


「私は私が正しいと思ったことをしただけだ。だから気にするな。…と言っても気にしてしまうだろうから、その言葉ありがたく受け取っておこう。それから、皆よく頑張った!もう安心しろ!」


 アリアのその言葉を聞いた捕らわれていた人達は漸く自分が安全な所にいるというのを頭で理解できたのか、全員泣き出してしまった。その背中を手伝いの兵士や看護士が撫でて言葉をかけていた。


 アリアもハイロの前に行くと言葉をかける。


「今日はよく頑張ったなハイロ。今日一番の功労者は間違いなくお前だよ。よく頑張ったな」


「…ですが、俺は運が良かっただけです」


「運も実力の内だ!それにお前がいなかったら私達は賊の本拠地を見つけることは出来なかった。これはどう考えてもお前の功績だ。だから胸を張れ!」


 そう言うとアリアはハイロをしゃがませるとその頭に手を乗せた。


「お前は家族を救えたんだ。本当に良く頑張ったな」


「「お兄ちゃん(お兄い)ありがとう」」


 アリアの言葉とユニとニケの言葉にハイロは涙を流す。


「助けられて良かった……間に合って良かった……無事で……良かった………!」


 ハイロはそう言うとユニとニケの存在を確かめるようにきつく抱きしめた。


「ハイロォォォォ!!」


 そんなハイロに兵舎の方から声がかかる。見ると男がこちらに走ってきていた。それを見たハイロは呟くようにぽつりと漏らす。


「…ソロージ先輩…」


 ハイロの声が聞こえたアリアは彼が件のハイロの先輩、ソロージなのだと理解する。


 ソロージはハイロに駆け寄るとハイロをきつく抱きしめ頭をガジガジと乱暴に撫でた。


「バカ野郎!!一人で行っちまいやがって!せめて俺を待ってからにしろよ!!だけどよく頑張った!」


「い、痛いですよソロージ先輩!」


「バカ野郎、心配かけさせたんだ!これくらい許せ!」


 そう言うソロージの目にはうっすらと涙が溜まっていた。多分それを見られたくなくての行動なのだろう。


「ハイロ…」


 ソロージの後ろから女性の声がした。ソロージが体をどけるとそこには頭に包帯を巻いた妙齢の女性が立っていた。


「母さん」


「ハイロ!」


 母さんと言うことは彼女がハイロの母親のサリなのだろう。サリはハイロごと子供三人を抱き締める。


「ごめんなさい…守ってあげられなくて…ごめんなさい…」


「いいよ母さん…皆無事だったんだ…だから…ね?」


 サリはハイロの言葉を聞くとついに堪えられなくなったのか涙を流す。それにつられてユニとニケも涙を流す。


 見ると、一歩離れた所でソロージも涙ぐんでいた。


「こういう場面は胸にグッと来るものが有りますね」


「うおっ!?」


 後ろから声をかけられ振り向くとそこにはロズウェルが立っていた。


「驚かすなよロズウェル…」


「申し訳ございません。声をかけるのがはばかられたものでしたから…」  


 と言うことはさっきのは思わず出た独り言なのだろう。ロズウェルにしては珍しい。よく見るとロズウェルの目は若干潤んでいた。


「ロズウェル、私の胸で泣くか?」


「いいんですか?」


 ふざけて手を広げて言ってみたら割とまじめに即答で返してきた。


「冗談だ」


「それは残念です」


 本当に残念そうな顔をするロズウェル。すると、さっきのアリアの驚いた声を気づいたのかサリが声をかけてくる。


「あの…アリア様ですか?」


「そうだ」


 アリアがサリの問いを肯定すると、サリは深々と頭を下げた。


「私の子供達を助けていただき、本当にありがとうございます」


「俺からも礼を言わせて下さい。ありがとうございました!!」


 ソロージも揃って頭を下げる。


「ああ、まあ気にするな。それよりも今日ははいハイロを誉めてやってくれ。ハイロはよく頑張っていたからな」


「そんな、アリア様…俺には勿体ないお言葉です」


「お前は胸を張れるだけのことをしたんだ。だから、胸を張れ!下手な謙遜は今日はしなくて良い」


「……ありがとうございます!」


 ハイロの言葉を聞いてこれにて一件落着と、思っていると門の方が騒がしいことに気づく。


「アリア様、ムスタフが来ております」


「二件目のご到着か…」


 アリアは首だけで門の方を見る。すると、顔を腫らしたムスタフがこちらに歩いてきているところだった。


「そろそろおやつの時間だな。何か甘いものが食べたい」


「かしこまりました。町一番の菓子屋でティータイムにしましょう」


「そうと決まれば」


 そう言うとアリアはムスタフに向き直った。


「この急務、直ぐに終わらせよう」       

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