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小話 バレンタイン

バレンタインの小話です。

間に合ってよかった…


次はちゃんと続きを投稿します

 バレンタイン。それは、女子が気になる男女にチョコを送る日。


 これは、幸助達がまだ、勇者として召還されていなかった日常の話。


 

 いつもと同じように起床した幸助は朝食を食べ学校に向かう。


「こおぉぉぉぉすうけぇぇぇぇぇぇ!!」


 通学路を歩いていると後ろから聞き覚えのある叫び声が聞こえてくる。嫌な予感を感じつつ振り向くと、案の定幸助に向かって走ってくるのは幸助のよく知る人物だった。


 右手に何かを持ちながら走ってくる美結を幸助は呆れた顔で見る。


「幸助ぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 美結は幸助の二メートル程手前で跳躍すると右手に持った何かを幸助の顔に向けて押し付けてきた。


「ハッピーバレンタイィン!!」


「アンハッピーだ馬鹿やろうっ!?」


 美結の言葉で美結の右手にある物体がチョコレートだとすぐさま理解し、それが顔面に当たった時の悲劇を想像し体を横に反らすことによってかわす。


「あっ!」


 避けられるとは微塵も思っていなかった美結は驚きの声を上げる。そして、幸助の顔に当たることを考慮して手の力を緩めていたのでチョコが放物線を描き美結の手を離れていく。


 綺麗な放物線を描いて宙を舞うチョコレートは、べちゃっ、と音を立てて美結の声に驚いて振り向いた通学中の男子生徒の顔に直撃した。


「「あ…」」


 体を反らすもきちんと美結を受け止めた幸助と、幸助に受け止められ幸助の肩口からその状況を見ていた美結が思わず声を上げた。


 美結の素手に握られていたので溶けかけていたチョコレートが、べちゃりと地面に落ちた。


「「「……」」」


 三人の間に沈黙が流れる。


 男子生徒は手で顔に付いたチョコレートを拭うと一言。


「朝から熱いねお二人さん…」


「「ごめんなさい」」


 二人でシンクロして謝った。別に幸助がやったわけではないのだがとりあえず謝っておいたのだ。


 幸助はポケットからハンカチを取り出し男子生徒の顔を拭う。


「すまない芹沢」


「ごめんね~芹沢君~」


 顔にチョコレートを食らった男子生徒、芹沢計に謝る二人。


 芹沢は気のいい笑顔を二人に向けると、茶化すように言った。


「全く熱々なのは良いけど、周りに迷惑かけちゃだめだよ?」


「う~ごめんなさ~い」


「別に熱々じゃないぞ。熱々なのは美結の手だけだ」


 幸助はそう言うと落ちたチョコと美結の手に付いたチョコレートを交互に見やった。


「幸助!変な茶々入れない!」


「俺か!?芹沢じゃなく!?」


 幸助は、ある意味事実を言っただけなのだが美結はプリプリと怒ってしまう。だが、それもいつもの事なのでさほど気にはしない。


「ほら、二人とも遅刻するよ?」


「そうだな。ほれ美結、手拭いとけ」


「ほ~い」


 そうして、幸助ら三人は学校へと向かった。


*********************


 午後、授業が終わり休み時間。幸助は一人で弁当を食べていた。


 普段は美結と二人で食べていたのだが、美結は何だか用事があるらしく今日は珍しく一人なのだ。


 黙々と弁当を食べ続けると箸からおかずが落ちてしまい教室の床に落ちる。


「あ~あ、勿体無い…」


 幸助はそれをポケットティッシュを取り出して拾う為にしゃがむ。すると、幸助の頭上を謎の物体が飛来する。


 その謎の物体は幸助の頭上を通り過ぎると、幸助の後ろの席で喋りながら昼食を食べていた計の口の中に突入した。


 急に進入してきた物体に慌てる計。喉に思いっきり当たったのかすごく咽せている。


 嫌な予感を感じつつ謎の物体の飛来してきた方を見る。教室の前扉、その奥の廊下の窓が開いていた。その奥の第二校舎の方を見ると見たことのある人物が悔しそうに地団駄を踏んでいた。見たことあるというか美結だった。


 美結の居るところの窓が開いていることから、あそこから投げたのだろう。約二五メートルくらい離れているいるのによく投げられたものだ。しかも幸助の口を狙ってだ。まあ結局は外れたわけだが…。


 悔しそうに地団駄を踏む美結を見やりながら呆れた声を隠しもせずに言った。


「何やってんだか…」


 幸助はため息を吐くと食事を再開した。


*********************


「はあ…」


 幸助は疲れた溜め息を吐きながら帰路についた。


 あれから、美結は幸助に様々なアプローチをかけたのだ。体育のため校庭に出たときに校舎の二階から美結に呼ばれ近付いてきたところをバケツ一杯に入ったトリュフをぶちまけてきたり、教科書の下に隠したナイフ型のチョコレートを口に突っ込もうとしてきたりと色々仕掛けてきた。


「はあ…」


 今日あったことを思い出し幸助はまたため息を吐く。


「よっす!溜め息なんて吐いてどしたの?」


 溜め息を吐く幸助の肩を誰かが叩く。見やると、計だった。


「芹沢か…」


「どしたのさ?」


「見てたし被害被こうむったお前なら分かるだろ?」


「ああ、あれか」


 理解できたのか苦笑する計。


 幸助はそれを見ると若干申し訳なさそうな声で言った。


「すまんな、迷惑かけた」


「ははっ、本当だよ」


 計は言葉こそそう言ってるが、別段気にしているわけでは無い。


「謝るなら、食べて上げればいいじゃないか。桐野さんも食べて欲しいと思ってるんじゃないの?」


「嫌だよ、あいつの「こおぉぉぉぉすうけぇぇぇぇぇぇ!!」またかっ!?」


 後ろを振り向くと美結がチョコレートを持って迫っていた。今度は両手に持ってだ。今度は失敗しないという表れだろう。


 今度も二メートル程手前で跳躍すると幸助の口にチョコレートを突っ込もうとする。

 

 幸助はそれをしゃがんで完全にかわす。が、べちゃあと言う音が聞こえる。当たったはずがないのに当たった音がする。


 音の方を見ると、また計の顔にチョコレートがべちゃりと付いていた。


「「「………」」」


 落ち掛けていた美結を抱き留める。そして、抱き留められた美結もそのことに気づき、三人の間に沈黙が流れる。


「「ご、ごめんなさい」」


 本日二度目の顔面チョコレートを食らい、さしもの計も固まらずにはいられない。


 気まずい空気だけが三人の中に流れた。


*********************


「はあ…」


 家に帰ると幸助は本日何度目になるかも分からない溜め息を吐く。


 なんとか計に許しを貰い帰ってきたのは良いものの、疲れて夕飯を作る気力も湧かない。        


 夕飯をどうしようかと考えていると、ピンポーンとチャイムの音が鳴る。


「…誰だ?」


 億劫になりながらも玄関に向かう。玄関のドアを開けるとそこには美結が立っていた。


「どうした?」


「…」


 幸助はそう聞くも美結は黙っている。黙っている美結にまた聞こうとするが、先に美結が口を開く。


「ごめんね…」


「は?」


「だから…無理に食べさせようとして…ごめんなさい…」


 どうやら、今日の事を言っているらしい。幸助は「はあ」と息を吐くと言った。


「別に良いよ。気にしてない」


「…本当に?」


「本当だ」


 美結は幸助の顔色を伺うと、幸助が怒っていないことが分かるとにへらぁと笑った。


「ありがとう」


 美結は笑っているがその顔はまだ気がかりがある、と言う顔をしていた。


 その顔を見て幸助は計の言葉を思い出す。


『桐野さんも食べて欲しいと思ってるんじゃないの?』


 その言葉を思いだし、頭をがじがじかく。そして、ため息を吐くと言った。  


「チョコレート」


「え?」


「チョコレート…持ってきてるんだろ?」


 さっきのことは電話で済ませれば良いことだ。それなのにわざわざ幸助の家に来たと言うことは、そう言うことなのだろう。


「う、うん…」

 

 案の定、美結はチョコレートを持ってきていた。


 幸助はそれを寄越すようにと手をたてに少し振る。美結からチョコレートを受け取るとその場で袋を開け口にほおりこむ。


「あっ」


 美結は驚いた声を上げた。そんなこと知ったことかと幸助はチョコレートを食べる。


 全部食べると美結に言う。


「うまかったよ。ありがとうな」


 幸助がそう言うと、美結は喜色満面の笑みを幸助に向ける。


「うんっ!!」


 幸助は美結のその笑顔を見ると急に後ろに倒れ始めた。


「えっ!?幸助!?」


 慌てたように幸助を支える美結の声を聞きながら思う。


 別に、美結のチョコレートを食べたくないわけではない。ただ、食べると幸助は気絶・・してしまうのだ。これは幸助に限らず皆気絶してしまう。


 なぜか?それは単純に不味い(・・・)からだ。不味さが天元突破して許容範囲を超えてしまい気絶してしまうのだ。


 そのため外では食べたくないのだ。だってーー


「あれぇ?今年こそは大丈夫だと思ったのに!!」


 ーー外で気絶するところ見られるのってカッコ悪いだろ?


(アンハッピーバレンタインだよ…本当に…)


 そう思いながら美結の悔しそうな、そして、どこか不思議そうな声を聞き幸助の意識はブラックアウトした。



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