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第十一話 人魔戦争Ⅴ

すみません。ネット環境が整わず更新が遅れました。


それと、できるだけ週一で更新できるよう頑張りますが、不定期になるときもあると思います。ご了承ください。





「………バルバロッセ?」


 思わず呟いたアリアは、口に出してからそんなはずは無いとかぶりを振った。


 しかし、否定しようとしても邪神から漂ってくる懐かしさはまごうことなくバルバロッセのそれと同じであった。


 数百数千の怨嗟の魂に紛れていようともアリアが間違うはずもない。


「アリア様…今、なんと?」


 アリアの呟きに、さしものロズウェルも驚愕を隠せないようでいた。


「バルバロッセ。バルバロッセがいる」


 ロズウェルの問いにアリアが混乱したように言う。


「あの中に、いる」


 あの中。その言葉だけで邪神の中にバルバロッセがいるのだとロズウェルも勘づく。


「そんな…」


 確かに、報告ではバルバロッセは《抜魂》により魂を引き抜かれ死亡したと聞いた。アリシラも確認したが、確かにバルバロッセの身体には魂が入っていなかった。


 だから、バルバロッセの魂がなにがしかに使われることは分かっていた。しかし、このようなことに使われるとは思っていなかった。


「このようなことのために…」


 バルバロッセは今、敵に利用され挙句自身が守るべきと誓った王国の民を危険にさらしている。


 その行為は、バルバロッセの誓いを汚す行為だ。それに、今なお自身の身体に打ち付けられる怨嗟の魂は、尋常じゃないほどの負の感情を伴っている。


 この魂をどこで調達したのか、どのようにして調達したのか、またどのようにして作ったのか考えるだけでも腸が煮えくり返りそうなほどだ。


 非人道的。この一言に尽きる。


「返せ……」


 アリアが確かな怒気を込めてそう呟く。


 しかし、アリアの怒気はそんな小さなつぶやきに収まるほど小さなものではなかった。


 キッと眼光を鋭くさせ、歯を食いしばると叫ぶ。


「返せええぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」


「アリア様!!」


 叫ぶと同時にアリアは地を蹴り邪神の元へと向かう。


 《停滞の箱》から《憂愁の大剣》を取り出し、大剣に魔力を纏わせる。


 纏わせた魔力が形を成し、魔力でできた刀身を造り上げる。刀身の長さは三メートル近くになっていた。


「それは……お前のじゃない!!」


 邪神を睨み付けながら、自身を大きく超える大剣を振り抜く。


 邪神は、接近は許したが、攻撃を受けることはしない。


 その巨躯に似合わない俊敏な動きで左腕の盾を使い防ぐ。


 魔力の刃と盾がぶつかり、甲高い金属音が響き渡る。お互いの威力が高いのか、それだけで周囲に衝撃波が広がる。


 鍔迫り合いになり、このままでは埒が明かないと思ったのか、アリアは右腕だけで大剣を持ち、左腕に魔力を集中させる。集中させた魔力が炎へと変わり腕に纏わりつきながらもその体積を増やしていく。


 炎は腕の形を取り、その腕をアリアは振り上げる。


「《炎の巨腕タイラントアーム・フレア》」


 邪神の大きな盾に振り上げた炎の腕を打ち付ける。


「ハアァッ!!」


 焼けつくような熱量を放出しながら叩き付けられる炎の腕に、邪神は盾で防御をするも衝撃で後ろに押される。しかし、後ろに押されるだけで邪神にダメージは無い。


 それも当然の事であろう。距離があったとはいえ、邪神はアリアの奇襲によって放たれた神罰魔法をどのような手段を用いたかは不明であるが防ぎ切ったのだ。


 であれば、アリアの神罰魔法以下の威力しかない魔法では邪神に傷を負わせることはできない。


 しかし、頭に血が上っているアリアはそのことに気付いていない。


 少しだけ空いた邪神との距離。アリアはその距離を詰めることをせずに、もう一度炎の左腕を振り上げる。


 距離の空いてしまった今炎の腕は届かない。そのためアリアは即座に魔法を切り替える。


 炎の腕が形を崩し、球体のような形を形成する。


「《灼熱砲・業火球》」


 球体上の炎がアリアの腕から放たれる。


 先ほどの炎の腕など比べ物にならないほどの熱量を周囲にまき散らしながら邪神に迫る。


 だが、常人であれば死を覚悟する程の威力を伴った炎の玉を目の前にしても、邪神は焦ることは無い。なにせ、邪神はそれを防ぐ術を持っているのだから。


 邪神は悠々と盾を構える。


 そして、衝突。


 地響きすら起こす轟音を響かせながら炎の玉と邪神の盾が鬩ぎ合う。


 拮抗しているかに思えたが、それも一瞬の事であった。


 突如として邪神の盾が中ほどから二つに別れる。


 盾の下から出てきたのは盾と同程度の大きさの巨大な口であった。


 その口が、アリアの魔法を喰らい、飲み込む。


 あっという間にアリアの放った魔法を喰らいつくした口は、よだれのような体液を口の端からこぼしながらニヤリといやらしく笑った。


 最後にその笑みを残して、その口はまた盾に隠される。


 おそらく、アリアの神罰魔法もこの口が喰らったのだろうとあたりをつけるアリア。


 アリアは自身の魔法がこれからも無意味に終わるだけだと悟ると、忌々し気に根眉を寄せて奥歯を噛みしめる。


 だが、そうしていても事態は変わらない。


 足の裏に魔力を溜めて文字通り、空を蹴ろうとした直後、何者かに抱えられて後ろに引き戻される。


「アリア様、危ないです」


 アリアの頭上からロズウェルの声が聞こえてきたので、アリアを抱きかかえたのがロズウェルだと分かった。が、突然のことに驚愕をする。


 しかし、その驚愕もつかの間。ロズウェルに抱きかかえられた直後、アリアのいたところに黒い雷が落ちる。


 しかも、一度だけではなく何度も連続で落雷が発生する。


 その連続する落雷を、アリアを抱きかかえたままロズウェルは危なげなく回避する。


 全てを回避し終えたのち、十分距離をとるとアリアを地面におろす。


「ありがとう、ロズウェル」


 アリアは自分を抱きかかえ攻撃を避けてくれたロズウェルにお礼を言う。


 しかし、お礼を言われたロズウェルからの返事は無い。そのことを怪訝に思ったアリアはロズウェルの顔を仰ぎ見る。


 ロズウェルの顔を見てアリアは驚く。


 ロズウェルは、あまり感情を表情に出すことは無い。四六時中一緒にいるアリアでさえも、ロズウェルが感情を表情に出しているところをそこまで見たことが無いほどに、ロズウェルは無表情である。いや、無表情と言っては語弊があるだろう。その時の感情によって少しばかり表情の変化はあるのだ。ただ、その変化が分かりにくいだけなのだ。


 しかし、今のロズウェルはそんな分かりにくい変化などではなく、その内に抱く感情をありありと表情に表していた。


 そして、表情だけでなく雰囲気と言うかオーラと言うか、ともかくその身にまとう空気だけでもロズウェルの感情が理解できた。


 その感情は怒りだ。


 それも、その矛先は邪神などではなく、アリアに向けられている。勘違いなどではない。その目が、視線が、雄弁にアリアに対する怒りを物語っていた。


 ロズウェルは邪神には目もくれず、アリアを見つめる。


「アリア様。お分かりとは思いますが、私は今怒っています」


「……う、うん。それは、分かるよ……」


「では、何に怒っているかは、お分かりですか?」


「……い、いや、それは……」


 ロズウェルが目を合わせてくるのでアリアも目を合わせない分けにはいかない。


 二人とは離れたところにいる邪神が気がかりではあるのだが、目を逸らすことができないほどの威圧感を、離れたところにいる邪神からではなく、目の前のロズウェルから強く感じるため、邪神に完全に気を向けることができない。


 歯切れの悪い返事をしていても目を逸らさない、いや、逸らせないのはそのためだ。


 そんな、アリアの動揺しきった瞳をロズウェルは見つめ続ける。


 アリアは、ついに根を上げて呻き声一つ漏らすと、しょげたように言う。


「ごめん。感情的に行動した…冷静さを欠いた…」


「そのことではありません」


「え?」


「別に、感情的になるなとは、私は言いません。先ほどの場合は、感情的になり短慮を起こしてしまったので、その限りではありませんが、感情は時として大きな武器にもなります。ですので、私は感情的になるなとは言いません。私が言いたいのは、短絡的になるな、です」


「短絡的に?」


「はい。アリア様は、短絡的になり私を置いて行きました。神罰魔法も効かないような相手に、何も考えずに突貫していきました。普通であれば私と共闘し、様子を窺いつつ突破口を見つけるところです」


「うっ…」


 確かに、ロズウェルの言う通りだ。


 アリアは短慮を起こし何も考えずに邪神に向かって行ってしまった。


「私は怒っています。アリア様に置いて行かれて酷く傷つきました」


 なんだか子供っぽい言い方だが、ロズウェルが怒っていて、アリアに置いて行かれ傷ついたことも理解できた。


「それに、アリア様がお一人で挑まれたとき、とても心配しました」


 ロズウェルはそう言うと少しだけ眉尻を下げて不安げな顔をする。


 ロズウェルにそんな表情をさせてしまったことに、アリアは罪悪感を覚える。


「ごめん……」


「アリア様。重ね重ね申し上げますが、私は貴女様の、貴女様だけのつるぎでございます。ですから――――」


 ロズウェルが言葉を紡いでいる最中、突如として邪神の方からとてつもないほどの魔力の高まりを感じる。


 アリアはぎょっとして邪神の方を見る。


 邪神の獣の方が大口を開けていて、その口内に収束した魔力の塊がある。


 その光景を目の当たりにし、アリアは慌てて構えを取る。


 ロズウェルに叱られていて一時忘れていたが、今はすぐそこに邪神と言う最悪にして災厄の化身がいるのだ。


 アリアが構えを取るまでの合間も、邪神はなおも魔力を高まらせ、獣の口内に収束させる。


 魔力の高まりようからして、威力はアリアの神罰魔法並みであろう。アリアの後ろ一直線上には、王都がある。そのため、避けることはできない。どうにかしてしのぎ切るしかないのだ。


 アリアがどう対処したものか頭を悩ませている間、ロズウェルは邪神をちらりと見るだけですぐに視線をアリアに視線を戻す。


「ですから、単身、強敵に挑まれることの無いようにお願いいたします。アリア様が単身で挑まれては、アリア様の剣である私の立つ瀬がありません。それに何より、アリア様に何か事があれば、私は悔やんでも悔やみきれ――――」


「いやいやいや!今はそれいいから!それより、今はあいつの――――」


「アリア様」


 低く底冷えするような声音でそう言われ、アリアは思わずロズウェルの方を向いてしまう。


「お約束ください。私を置いて行かれぬよう」


「え、いや、だから……」


 ロズウェルの言葉に何とかそう返そうとするが、ロズウェルの雰囲気に押され言葉は尻すぼみになっていく。


「お約束、してください」


「は、はい」


 アリアが約束をした直後、邪神の溜め時間が終わったのか、魔力の高まりが止まる。


 そうして、轟音が鳴り響く。


 地面を抉りながら迫りくる黒い魔力の閃光。


 とてつもない威力を宿した黒い閃光に、とっさに対応できる魔法をアリアは知らない。


 神罰魔法並みの威力を出すにはアリアも邪神も溜め時間――アリアの場合は詠唱――が必要だ。


 そのことを分かっていたために溜め時間中に黒い閃光に対応できるほどの魔法を準備しようとした。しかし、それはロズウェルに遮られてしまい叶わなかった。


 よって、打つ手がない。


 アリアは、せめてこの攻撃を自身が受け、王都に被害が及ばぬようにしようと一歩前に出た。しかし、アリアの歩幅よりも大きな一歩でロズウェルがアリアの前に出る。


「ロズウェル?」


「アリア様に約束を取り付けられましたので、私も仕事をこなします。ここはお任せを」


 ロズウェルはさして焦ったふうにでもなくそう言う。


 なぜだか、根拠は無いのだが、その言葉だけでもう大丈夫なのだと確信ができた。


 そうして、その確信はやはり嘘ではなかった。


 ロズウェルに黒い閃光が直撃する直後、ロズウェルが剣を一閃する。


 直後、黒い閃光の軌道が空へと変わり、黒い閃光は何を破壊するでもなく、ただその力を空に向けて突き進むだけに消費する。


 剣をたったひと振りしただけで、脅威を退けた。


 その事実に、無事を確信していたアリアでさえも驚愕する。


「ろ、ロズウェル……いったい、何を……」


 アリアの疑問に、ロズウェルはいつも通りの顔で答える。


「剣を振るっただけです」


 そんな簡単なことで解決するなら苦労はしない。


 アリアはロズウェルの言葉に瞬時にそう思った。


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