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第四話 それぞれ

第百話!!

記念(?)すべき第百話です!!

これからもよろしくお願いします!!


 勇者たちが現実に打ちのめされている間に、戦闘はつつがなく、これと言ったハプニングもなく終結した。勝ったのは、メルリアであった。


 つつがなくとはいっても、両者ともに死者負傷者多数という喜ぶに喜べない結果であった。


 勝ったはずのメルリア軍の兵士も嬉しそうだが、どこか浮かない顔をしていた。それもそうだろう。勝ったはいいが、被害は甚大。自身も満身創痍。仲間も大勢死んだ。浮かない顔もするというものだ。


 そんな、暗い雰囲気の中、そのまま戦闘後の後処理を始める。


 死体をそのまま放置しておくと病原菌が蔓延したり、空気中の魔力を死体が吸収し死体がアンデットになってしまう。普通の人間のアンデットであれば低ランクの冒険者で倒せる。だが、魔人族のアンデットは元の肉体が強靭な分、人間のものとは比べ物にならないほど強くなる。


 それでも、中位の冒険者であれば倒せるのだが、戦争後であればその死体の数も多くなる。そうであれば多くの冒険者の手が必要になるばかりか、国の兵士を動かさなくてはいけない状況になる。


 そうならないためにもきちんと供養をして、味方は家族のもとに、敵は集合墓地にて埋葬する。


 集合墓地に埋葬するのは、何もアンデットの発生を防ぐためだけではないのだ。彼らも、好き好んで戦争をしているわけではない。もちろん、それは全員の総意と言うわけではもちろん無い。


 魔人族を怨み殺すことを生きる理由にしているものからしたら、埋葬なんて意味のないことだ。殺すことが好きなやつであれば、埋葬をすることなんて考えてはいないだろう。


 だが、そんな意見を、考えを捻じ曲げてフーバーは敵を埋葬させている。


 敵だって、戦いたくはない人がいるかもしれない。それを考えて戦争後は埋葬をしているのだ。


 その光景を、アリアは眺めるだけではない。自分も加わり魔人族の死体を埋葬している。血がつこうとも構わない。そんなことは気にならないと言わんばかりに死体を運ぶ。


 勇者たちはその光景を見て意外感を覚える。


 その意外感を勇者たちの醸し出す雰囲気で理解し、ロズウェルが口を開く。


「意外でしたか?」


「………えぇ………」


 何とか声を出す荘司。


「これは、国王様が定めたことです」


「そうなんですか?」


「ええ。死体が収まる場所が無いと言うのは寂しいことですからね」


「………なんだか、凄いですね……」


 荘司は思わずと言った感じで呟く。


「魔王軍って、王国の仇敵ですよね?なんで、こんなことができるんですか?」


 荘司のその言葉は、疑問だけを言っているわけではない。この行為に対して理解できないと言った意味合いも含んでいた。


「誰も戦争なんて望んでないんですよ。我々も、相手も」


 もちろん、戦争を生業にしている人は戦争を望んでいるだろう。だが、今戦場にいる者の顔を見ればその可能性は皆無であることは一目瞭然だ。


「そんな望んでいないことを両者ともにやらされているんです。供養してあげなくては、浮かばれません」


「そう……ですね……」


 ロズウェルの言葉に納得を示す荘司。


 その横顔をちらりと眺める。


 その表情は、呆然自失と言うものではなく、どこか、何かを理解して自分なりに飲み込んでいる最中のようであった。


 その表情を見て、ロズウェルは責め立てようと思った気持ちを静めた。ここまで言って何もわからないような愚か者であったなら、ロズウェルは立ち直れないくらいに正論をぶつけるつもりであった。


 だが、それをすることもなく、彼は、いや彼らはこの戦場で感じた何かを受け入れ理解しようとしている。そんな顔を見てしまえばロズウェルは何を言うこともできなかった。


 



 戦場の後処理の中、アリアは視線を感じその方向を見る。いや、見ると表現するには生易しい。見ると言うよりも、睨み付けると言った方が正しかった。


 アリアはその方向を睨み付けながら口を開く。が、声を出すことはしない。口パクで伝える。


 それをした後魔力の塊をその方向にぶつける。


 周りにいたものは何があったのかとアリアの方を見るが、アリアは素知らぬ顔で作業を続けた。だが、その目は確かな怒りを湛えており、その体からは溢れんばかりの怒気を感じさせられた。


 その姿に、他の者は息をのみ黙って作業を続けるしかなかった。


 触らぬ神に祟りなしだ。





「フンッ!忌々しいクソガキが…」


 そう悪態をつき高級な椅子に勢いよく背中を沈め不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「いかがなされますか?」


 不機嫌そうな男に声をかける者がいた。その者は部屋の隅で折り目正しく直立しており、微動だにしていなかった。


 その服装は黒の燕尾服であり、不機嫌そうな男の従者であることが窺える。


 男は、従者の質問にまた一つ不機嫌そうに鼻を鳴らすと苛立ちを隠そうともしない声音で応える。


「決まっている。次の戦の準備だ。至急兵を招集せよ」


「かしこまりました。そのように軍務の者に伝えます」


 従者の男は綺麗に一礼をすると部屋を出た。


 その姿に目をくれることもなく、男は自身の右斜め前に置かれた鏡を見る。鏡には赤髪をオールバックにした壮年の男性が映りこんでいる。もちろん、その男は鏡をのぞき込んでいる男自身の顔だ。


 男の名は、クレドリック・ゴルガン。魔位は侯魔だ。


 クレドリックが鏡を見たのは、先刻までその鏡にはある映像が映し出されていたからだ。


 その鏡は《遠視鏡えんしきょう》と言って、使い魔の視線と同調させて遠くの景色を見ることができると言う魔道具だ。


 その遠視鏡は先ほどまでメルリア軍対魔王軍の戦いを映し出していた。戦いが終わった後に女神アリアに使い魔を殺され映像は途切れたのだ。


 その事実と、映像が途切れる前に見えた怒りをはらんだアリアの視線と声に出ることの無かった言葉を思い出し、クレドリックの鎮まりかけていた怒りがまた再燃する。


「クソが」


 クレドリックは感情のままに《遠視鏡》に拳を叩き付ける。


 すさまじい破砕音とともに《遠視鏡》が砕け散る。《遠視鏡》はそれなりに高額な魔道具だ。それをいっときの感情任せとは言え簡単に壊してしまうクレドリック。しかし、クレドリックにとって《遠視鏡》程度の魔道具であればいくらでも揃えることができるのだ。それほどの財力もコネも持ち合わせている。


「またですか」


 突如、静かな声がクレドリックに投げかけられる。


 唐突な出来事ではあったがクレドリックには慣れていることであった。


「うるさい。こんなもの、一つや二つ壊れたところで毛ほどもいたくはない」


 クレドリックは苛立ち交じりに、いつの間にか戻ってきていた従者に言う。


 いつの間にか戻ってきている従者には気配も何も感じなかった。足音も、扉が開く音すらも聞こえてこなかった。相変わらずの無音の従者にクレドリックは気味が悪いと心中で毒を吐く。


「それで、進軍の準備は整ったのか?」


「いいえ。無理でした」


「……なんだと?」


 従者の返答に、クレドリックの怒気がさらに強くなるが、従者もクレドリックの怒気には慣れたものなのか、身じろぎ一つしないで直立不動を保っている。


 その涼しげな態度に更に苛立ちを募らせるも、こいつはそういうやつだと自身に言い聞かせて平静を保つ。


「どういうことだ?」


 できるだけ冷静にそう問いかけるクレドリック。


「はい。魔王様から直々に通達されたそうです。『今は戦力の補充に専念しろ』と」


 その問いを聞き、前に乗り出し気味であった上体を引き、背もたれに背中を預ける。軍務に顔の訊くクレドリックと言えども魔人族の王たる魔王の命令は無視できない。多少の事であれば無理を通そうと思ったが、魔王の命令であるならば下手に反発はするべきではないと考えたのだ。


 それに、魔王が直々に命令をしたとなればじきにまた戦争が始まるであろうことは目に見えていた。


 であれば、確実に勝てる方法をとるのが吉と言うものだ。


「そうか。魔王様がそうおっしゃるのであれば仕方あるまい」


 そうは言うもやはり本心では今すぐにでも進軍し女神アリアをその手でくびり殺したいほどに憤っている。


 女神アリアの軽蔑と怒気をはらんだあの瞳と言葉がクレドリックの神経を逆なでさせる。


『引きこもってふんぞり返ってボードゲーム気分かよ。あんまり調子に乗るなよ雑魚が』


 このセリフだけでアリアが自分に気付いたことと、自分の今回の戦争の目的をアリアが気付いていることが分かる。


 それだけならばまだいい。こちらも、様子見程度に軍を送り、また、様子見とばれないように味方にも嘘の作戦を教えて騙したのだ。多少の違和感を相手が覚えるであろうことももちろん考慮している。


 今回の行軍の真意がバレタとしてもクレドリックからしたら痛くもかゆくもない。


 が、しかし。


「侮るなよガキ風情が……ッ!!」


 自身を雑魚と侮られることは許容できなかった。


「こちらに来てまだ日が浅いガキ風情が!百余年を生きた俺を雑魚と侮るなど!万死に値する!」


 怒りのままに机に拳を叩き付ける。


 その様子を変わらないいつもの無表情で眺める従者。


「ただではおかんぞクソガキが……ッ!!」


 怒りと殺意を漲らせ、クレドリックは未だまみえたことの無い仇敵を殺すことを誓った。





 魔王城、王の魔にて玉座に座る青年がいる。


 彼こそが魔王軍最高位指揮官、魔王であった。


 その魔王の前に頭を垂れ立膝を突く女性がいた。


「魔王様。此度の行軍で得た情報はこちらの予想をはるかに上回る速度で女神アリアが成長を続けていること。そして、メルリア軍の一兵士の平均的な実力の、計二点でございます」


「そうか」


 女の報告に興味がないかのような返事をする魔王。


 そんな主の態度に気にかけた様子もなく女は続ける。


「勇者たちの力量、能力等は依然不明。ロズウェル・アドリエもおりましたがそちらの実力も不明でございます」


「ほう……そうか……」


 少しばかり感情の乗った声で応える魔王。


 そんな主の声に、少しばかり意外感を覚えるも、女はそれを表に出すことはなく続ける。


「いかが、なさいますか?」


「放っておけ。今勇者を投入してこなかったということは勇者はまだ使い物にならないと言うことだ」


 勇者の異能があれば戦況は大きく変えることができる。それをしなかったということはまだ、それだけの力が勇者に無いと言うことだ。


「次の策はねってある。順次指示を出す。今日はもうよい」


「かしこまりました」


 魔王の言葉を受け女が退室する。


 一人、広い王座の間に残された魔王は、女と対面している時には見せなかった薄い笑みを浮かべる。


「今度こそ眠りにつかせてやる。アリア……」


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