太陽と月と約束の告白
短いので是非読んでいってくださいまし
幼稚園の頃からずっと一緒だった、幼馴染に恋をしていると気づいたのはいつだっただろうか。確か中学に上がった頃、他の小学校から上がってきた男子が彼女に告白しているのを見た時だった気がする。
向日葵のような温かい笑顔でよく笑う彼女は異性からよくモテた。彼女は困ったように「今は恋愛をする気には慣れないの。ごめんね」と言って断っていたが、彼女への男子からの告白が途絶えることはなかった。
高校三年生の冬が来た。未だに彼女に好きだと伝えることは出来ていない。卒業が近づくに連れて高校の思い出作りがしたいのか告白をする生徒が増えた。勿論彼女への告白も増える。だけど僕が彼女に気持ちを伝えることはきっとできないだろう。
彼女はよく、僕が月で自分の事を太陽だと言う。その通りだと僕も思う。彼女は太陽の様に明るくて、眩しい。月のようにひっそりと生きている僕は、段々と彼女に引け目を感じるようになり、距離を取り始めた。最初は彼女も僕に積極的に話しかけてきていたが、最近ではあまり話をすることも失くなっていた。
原因を作ったのは自分の方なのに、それが悲しくて胸が苦しくなる。
僕も彼女も違う大学への進学が決まっている。卒業すれば、彼女に会う機会が今よりも減る。それが、辛くて辛くて堪らない。このまま大学に行って耐えられるのだろうか。
彼女にもうすぐ会えなくなってしまうと思うと、彼女の事を頻繁に目で追うようになった。
授業中、彼女の横顔を見ているだけで胸がドキドキと音を鳴らす。彼女がふとこっちを向くたびに僕は顔を逸らした。そして様子を伺ってまた彼女の横顔を伺う。
こんなに近くにいるのに、どうしても気持ちを伝えることが出来ない。どうしようもないヘタレだと自分でも思う。
毎日、学校に言って彼女を眺める。家に帰って彼女の事を考える。頭の中では彼女と付き合って幸せになるのに、現実ではただ彼女を眺めるだけだ。そのギャップがまた僕を苦しめた。
ある日、家のベッドで寝転がって彼女の事を考えていると携帯が鳴った。緩慢な動きでディスプレイを眺めると彼女の名前が表示された。
慌てて体勢を整えて再度ディスプレイに表示されている彼女の名前を見る。
心臓が大きく鼓動を打ち、激しい自己主張を繰り返す。もしかして告白!? 卒業する前に気持ちを伝えたかったって?
少し話しかけられただけで「もしかして僕のこと好きなんじゃ」などと考える単純な頭でそんな事を考える。体の中が歓喜で満たされた気がした。
緊張した面持ちで通話ボタンを押す。
「もしもし」
「もしもし、私だけど」
彼女の声はどことなく緊張していて、それでいて嬉しそうな声だった。もしかして、もしかするのか?
だが、その期待は予想外の方向で裏切られた。
「あのね! 私が半年前に投稿した小説が入賞したの!」
「......は?」
「だから! 私、一応小説家になるの!」
「あ、あぁ。昔からの夢だったもんな。良かったじゃないか」
そういえば昔から彼女は小説家になると言って小説を書いて投稿していた。彼女の夢が叶ったことに対する嬉しさと、告白じゃなかった事に対する落胆が僕を襲った。そしてまた、彼女の夢が叶った事を素直に喜んであげられない自分に嫌気がさす。
「......それだけ?」
「? すげーな。おめでとう」
そう言うと悲しそうな声で「そうだよね」と呟いたあと、「ごめんね、こんな自慢みたいな電話かけて。またね」と言って彼女は通話を切った。
ツーッツーッという機械音を聞いて僕は、また彼女が遠い存在になってしまったと思った。
そしてその後、彼女とはなんの進展もなく卒業を迎えた。
大学に入って二ヶ月が経った。彼女のいない毎日は色褪せて見えた。時間が止まったように毎日毎日、起きて大学の講義を聴きに大学へ行き、そして家に帰って寝る。それを繰り返す。
あれから彼女には会っていない。離れてしまって余計に、彼女に告白しておけば良かったという後悔が僕に付き纏った。家は近いが、彼女との距離はとても遠く感じた。
最近よく『約束の告白』というフレーズを聞くようになった。最近発売された小説で、今一番の売れ筋らしい。早くも映画化が決まったとかなんとか。
大学からの帰り道。なんとなく、ふと目に止まった本屋に吸い寄せられるようにフラフラと入った。そして一番手前に置いてある本を手に取る。
『約束の告白』
ページを捲り、少し読み進めて自分の目を疑った。間違いない。これは、彼女の書いた小説だ。
小説の始まりは男女の幼稚園時代から始まる。公園で二人は約束をするのだ。
「知ってる? お月様は太陽さんと仲良しさんで、お互い支え合ってるの」
「へー。それで?」
「だからね! わたし、佑月のお嫁さんになるの!」
「ふぅん。まぁ、陽毬が小説家ってのになったら付き合ってもいいよ」
「ほんとに!? 佑月から告白してくれる?」
「別にいいけど」
「約束だよ!」
心臓を鷲掴みにされた気がした。忘れていた幼稚園の頃の思い出が鮮明に蘇ってくる。
「ゆずき、知ってる? お月様は太陽さんとなかよしさんで、おたがいささえあってるの。ふうふなんだって!」
「でも太陽とお月様ってほとんどいっしょにいないよね」
「こまかいことはきにしちゃだめ!」
「へー。それで?」
「ゆずきはお月様で、ひまりは太陽さんでしょ? だからね! わたし、ゆずきのおよめさんになるの!」
「ふぅん。まぁ、ひまりがしょーせつかってのになったら、つきあってもいいよ」
「ほんとに!? ゆずきからこくはくしてくれる?」
「べつにいいけど」
「やくそくだよ!」
小説家の意味なんて知らなかった。ただ、母が小説家らしいことを知っていて、あの頃の僕は母と結婚するんだって信じて疑わなかった。だから僕の嫁になるなんていう幼馴染の彼女、陽毬に僕は母と同じ小説家になったら、なんて条件を出したのだ。
何かに取り付かれたように僕は小説を読み進めた。そして二時間が経つ頃には全て読み終えた。最終的に陽毬は小説家となり、佑月は約束通り陽毬に告白してハッピーエンドだ。
頬を冷たい涙が伝う。
小説の、陽毬の中の『ゆずき』は陽毬に約束通り告白をした。なのに現実の僕はどうだ? 告白どころか約束さえ忘れていたじゃないか。
電話越しの彼女の悲しそうな声が頭に響く。
『そうだよね』
きっとその後に続く言葉は
『覚えてるわけないよね』
僕は小説を買った後、全力で走り出した。
体は汗だくになり、息苦しくて吐き気がする。早く会いたくて堪らないとはやる気持ちを抑えて息を整える。
彼女の家のインターホンを押すと、「はい」という声の後に陽毬が出てきて目を丸くした。
「陽毬、久しぶり」
「......どうしたの?」
「その、これ。読んだんだ」
そう言って『約束の告白』を見せると、陽毬は綺麗な顔をくしゃりと歪めて、泣きそうな顔でうつむいた。
「その、遅くなってごめん」
「ほんとに......遅い!」
思わずもう一度「ごめん」と言う。
本当は約束を忘れてしまっていた僕にこんな事を言う資格なんてないのかもしれないけど。それでもちゃんと伝えよう。
「陽毬、好きだ。僕と付き合って欲しい」
そう言って頭を下げる。暫くして小さな嗚咽と共に「はい」という確かな言葉が返ってきた。顔を上げると、涙を流しながら、それでも今まで見てきた中で一番嬉しそうな、太陽のような笑みを浮かべていた。
僕の中の世界が、鮮やかな色を取り戻した気がした。約一五年間離れていた月と太陽が、ピッタリと重なった。
空に浮かぶ太陽と月は、出会ってすぐに離れてしまうけど。地上にいる僕たちはずっと一緒にいようと思う。
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?
「誓います」
太陽と月は離れない。永遠に。
感想、評価などいただけると嬉しいです(*´∀`*)是非
よろしければ、ここをこうすればいいなどのアドバイスが欲しいです...。
因みに最初の月がひっそりとって言うのは佑月の言葉であって自分としては太陽より月が好きです。