うろな町長の長い一日 その十二 『東の海』編
うろな企画一周年です。
おめでとうございます。
ありがとうございます。
シュウさんとディライトさんが企画してくれた出会いの場に感謝します。
これからもがんばりましょうー
旧水族館から浜辺までは近い。
ここのところ梅雨がやってきたのか、天気は雨ぎみだったけれど、町長さんの就任一周年を祝うかのようにきれいな晴れだ。
少し、いつ崩れるかドキドキしたけどね。
元気にはしゃぐ犬達を見守りつつ、疲弊気味のトロを撫でている空ねぇと鎮兄。
視線を転じれば、ゼリーとジェムが浜まで足を伸ばしたらしいマサムネにーちゃんが連れている犬達に突進している。
小さな子供の高い声。
『おめでとー』と聞こえた気がする。
どんな子たちかと思って見回してみようとしたらきらりと日差しをはねる金の髪が見えた。
和やかな時間だった。少しだけ間をおいての、
「あれ。町長さんと秋原さんだ。相変わらず、お似合いだよね」
そういっちゃんの言葉にそちらを見れば、のんびりと潮風に吹かれながら浜を歩く二人の姿。流石に話題は聞こえない。地獄耳が欲しい。
青い空に散った白い雲が少しずつ暗さを帯びてきている。
とっさに影になる部分に隠れたり声を潜めたりして観察モードにはしる。
「涼維。カメラ」
こくり頷いた涼維がそっと移動する。
こっちの動きに気がついたそういっちゃんも静かに死角になりそうな位置へとずれる。
「どうしたんです?」
「今日さ、町長就任一周年なんだよ」
鎮兄がそっと解説する。それで十二分と言わんばかりだけど、わかんないと思うよ? 普通。
「一周年なんですか?」
そういっちゃんの疑問符に俺と涼維が頷く。
「この町に来て、はじめて声をかけてくれたのが町長さんと秋原さんだったから、へぇ~。あ。なつかし」
少し気恥ずかしげに視線を泳がせるそういっちゃんはちらりちらりと秋原さんに視線をおくる。
いま、彼女居るのにやっぱり気になるのかと鎮兄がからかう。
からかってはいるけれど本人、現在進行形でデート途中のはずなんだけどね。
「んなぁ」
猫の声に秋原さんが軽くしゃがみこむ。黒猫。前足は白い手袋猫。
ぐるぐると秋原さんに甘える姿に「我も!」とばかりに犬が突進する。
まるでてぶくろが誘導したかのようだ。
したのかも?
「ゼリー、ジェム」
「なーー」
突っ込む寸前、測ったように千秋兄と手袋の制止の声が響く。
犬達はおとなしく止まっているが、勢いに押されて秋原さんの手は町長を掴んでいる。
近さがニヤつく。
大人って、あんまベタベタしない感じだもんな。
清水先生は別物!
「こんにちは町長さん、秋原さん。うちの子達が遊ぼうとしちゃってすみませんでした」
千秋兄が抜けがけってた。
けしかけたんじゃないかと疑えるほどぬけぬけと言う。
「いやぁ、少し驚いたよ?」
「おふたりでお散歩中ですか?」
にこにこと茶化す千秋兄。いや、デートだろ?
そこに継いで「ペアルックですか?」と言う言葉が届いて、町長さんたちをよく見ると、秋原さんは白い襟が映える黒か、紺色っぽいシンプルなワンピース。よろめいた時に浜にへたり込んだ膝が見える丈。
町長さんの格好も同様で白い襟がおんなじように黒っぽい服に映えている。ちなみに白いズボンが爽やかだと思う。
じゃれる犬猫を撫でながら慣れた口調で「そんなところだね。うん。今日は本当に色々とね」とかわす町長さん。
今日何人に言われたんだろう? それでも特に不満がある様子もなく微笑ましげだ。
「そう言えば、喫茶店で試食を提供したりしてるんだね」
美味しかったよと褒める町長さんと秋原さんに少し困ったような微苦笑の千秋兄。たぶん、料理部の活動内容だとわかるけど、部活サボってんもんね。
「伝えておきます」
さ。
そろそろ特攻だ!
「あっきはらさーん! 町長さんとお式はいつー?」
千秋兄を押しつぶすようにその背に飛びついて、秋原さんに尋ねる。
「隆維! 物事には順番があるってばっ!」
千秋兄がつぶれた時に俺が転げないようにサポート位置にいる涼維。いや、たぶん、このぐらいは大丈夫だし。
気持ち照れ困ったような二人の様子に今日は本当にどのぐらい茶化されたのかが気になる。
つまり!
負けらんないよな!!
「だって、町長さんって町のお父さんみたいな感じじゃん。秋原さんはファンも多いし、きっとしっかりつなぎとめておかなきゃ、あ。ラブ過ぎて恋人期間楽しみたい感じ? うわー。いいなー」
途中で納得してはしゃいでると町長さんに見られていた。
とりあえずブイサインを突き出すと頭を撫でられた。
「だって、秋原さんのお嫁さん姿見たいんだもん」
きっときれいだと思うし。
ひょいっと感じる浮遊感。
振り返れば鎮兄に持ち上げられていた。
下ではつぶれた千秋兄。根性なし。
「就任一周年おめでとうございます」
さくっと抜けがける涼維とそういっちゃん。卑怯者め!
「いつもありがとうございます。そして、結婚披露の日はぜひ、受験日を外していただけるとありがたいですー」
笑っていってる鎮兄だが、現状候補はあっても未定なはず。
嬉しそうに照れる町長さん。それを静かな笑顔で見守る秋原さん。
ほんの少し、夕焼けが近づいてくる。
だから、赤いのが照れてるのか、夕焼けなのかがわからない。
赤の光はゆっくりと影を落とす。
幸せな感じの影法師。
「BGM欲しいかも」
鎮兄の言葉に町長さんが笑う。
「今日はいい音をたくさん聞いたよ。この潮騒もこの町の音だね」
言葉を紡ぐ町長さんを見上げる秋原さんの表情は見ない方がいいよね。町長さんの独占ってコトで。
この間から天候が崩れ気味の夕方はホンの少し肌寒く、小さくくしゃみが出た。
むぅ。
「近くても冷えるから、そろそろ帰りなさいね」
秋原さんに促される。
「女の人も冷えちゃダメなんだよー」
秋原さんと町長さんが顔を見合わせて笑う。
『うろな町町長就任一周年、おめでとうございます。これからもがんばってください』
そのタイミングにあわせて揃えて言う。
照れたような町長さんが優しい笑顔で『わかったよ』と言ってくれる。
「で、お式はいつ頃?」
「隆維!」
涼維に呼ばれて振り返ると帰るよと手を引かれる。なんで?
引きずられながら鎮兄が町長さんに言ってる言葉が耳に届くから拾っとく。
「町のほう戻るんならこの時間当たりってやっぱ川沿いが気持ちいいからオススメ♪」
「普段のデートコースかい?」
からかわれて鎮兄が笑いながら頷く。
「人がいても注目されることも少ないしね」
ちょっと、その発言には本当かよと突っ込みたい。
空ねぇもちょっと俯いて恥ずかしそうだし。
距離がとれて言葉が届かない距離だと思ったのか涼維の歩みが止まる。
そっと潮風から庇うように町長さんが秋原さんの肩を抱いているようにも見える寄り添いっぷりだった。
見送りついでに『海ねぇ、町長と秋原さん河川敷方面に向かってるよ』と密告メールを送る。
「何枚撮れた?」
「ん、適当に撮ってるのも多いし、いいのがあればいいな」
涼維が自信なさげに呟く。
「ほら、帰るよ」
千秋兄の優しい声。
声を向けてる先は二匹の犬。
「隆維もまだ本調子じゃないんだから行くぞ」
うわぁ。ないがしろ感いっぱい! 追い立ててくる!
「モールでのライブで町長さん活躍の写真もあるぞ」
「帰るー! 早く見せてー」
ウチに帰って振り返る。
「鎮兄とかは?」
『デート続行だろ』
「え!? 町長さんたち追跡プラン!? ずっけー」
ないだろって二人に突っ込まれた。
ないとは限らないじゃん!
「涼維はうろな町好き? 俺は好き!」
「え。その聞き方卑怯! 俺も好きだよ」
「はいはい。俺もこの町が好きだよ。出会いも別れもひっくるめて、この町に過ごせるコトが嬉しいよ」
『千秋兄の答えが一番ずっこくて卑怯ーーー!!』
次の投稿は18:00の小藍様となります。
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