第9話 『もうじきオリンピックだね?』
お正月が終わり、暦の上ではようやく日常の昼ドラが見れるようになった。
昨年の12月に新しく買ったノートパソコンで、芙美子さんはなにやら一生懸命に何かを検索していた。
謙二はその頃、今晩の夕飯のおかずがなかったので、お買い物にでかけていた。安売りフェアがあるときはきまって、謙二が大量にレトルトカレーやら、その他の食材を買ってくる分担があったからだ。
こんな感じで、かつてコンテストに入賞した『奈々』という作品から有名になった謙二の絵の仕事が乗り出してきて、収入も以前より大幅に増えたので生活も少しづつ豊かになってきたのだ。パソコンも、そんな収入が増えてきたから購入できるようになったのだ。・・・ドリームキャストでいまどきWebを見てる人はいないのだ。
「芙美子さん! 買い物から帰ってきたよ!!」
玄関先に謙二が大量の買物を持って戻ってきた。
「はぁーい、今、玄関に行きますねー」芙美子がパソコンを一時やめて、買い物袋を取りに玄関先に向かった。
「今日は、芙美子さんが好きだっていう”赤いぽんた”が1個92円だったからさ、ダース買いしてきちゃったよ」
「わぁ。赤いぽんた! この中に入れる乾燥明太子が好きなんですよね~」
「それとやっぱり、カジキで出汁を取ったスープが格別だよね」
芙美子さんと謙二は一緒に、それらの大量のカップラーメンと、旬の野菜、豆腐、麻婆豆腐の素、その他牛乳やら、オハヨーのなめらか焼きプリンなどの食材を運んだ。
「一時期はほんとタコばっかり食ってたからなあ。やっぱり安定した収入があるってのはうれしいよね」
「はい。謙二さん! …次回作もがんばってくださいね!」
「ああ。芙美子さんのためにもがんばるよ」
夕御飯を食べながらテレビを見ていると、芙美子さんが急に謙二に話しかけた。
「ねぇねぇ? 謙二さんって、アイパーオリンピックって知ってます?」
「ああ、そっか今年ってオリンピックの年だっけ? 知ってるよ。あれだろ、定規かがしゃぽんのカプセルかなんかでばかばかボタンを叩くか、こすってやる陸上競技のあのゲームだろ? 懐かしいな。あれ、僕は小学校の頃は誰も遊び相手いなかったから、昔住んでた近くのボーリング場でひとりでもくもくプレイしたよ」
「謙二さん? なんですか、それ??」
「ハイパーオリンピックでしょ? さっきゆってたやつ」
「違いますぅー。ハイパーじゃなくて、アイパーオリンピックです! さっきね。パソコンで、D@rkSha○eってソフト使って、去年のアイパーオリンピックの様子の動画落してみたんだ! 見てみます?」
「なんだろ?うん、ちょっと見てみるよ」
ご飯の片付けをし終わったあと、早速ノートパソコンに落とした動画を二人で見ることになった。
「謙二さんは、極道の人でお知り合いとかいますかぁ?」
「いるわけないじゃん。」
「このオリンピック大会はね、全国にある13の大手の組が毎年大阪を会場として繰り広げられる極道の人たちの競技会なの。すごく楽しいよ」
「芙美子さん、なんでそんなの知ってるの?」
「ちょっと、いとこの子から昔聞いたことがあるの。毎年、血の雨が降るんだって!」
「ちょ!そんなの見たくないから(笑)」
「とにかく見てください!」
強制的に、謙二はアイパーオリンピックのマル秘動画を見ることになった。
「毎日、お務め御苦労さまです。ただいまより、全国勢力争奪 アイパーオリンピックを開催いたしやす。まずは、浜中組 組長より開会の挨拶。組長、お願いしやす」
司会の人の開会宣言を終え、組長の挨拶が始まった。
「今日は毎日忙しいしのぎの中、お疲れさん! この大会はだな、各組の組員の体力や頭脳を競って、その結果で組の勢力範囲の配分を決定する大事な大事な大会だ。手ぇ抜いてると、お前ら組にかえったらけじめをつけさせられるかもしれねぇから気をつけな。また、毎年不正に銃をぶっぱなす大馬鹿野郎がいるからな、今大会から、銃やポン刀は大会運営事務局に全部預けてもらう。いいな! じゃあ、極道の仁義にのっとり正々堂々頑張ってほしい!以上!!」
「なんか、すごい命がけの大会だな、こりゃ」謙二は息を飲んだ。
「すごい大会ですよねー。裏の世界にもこんなのあるんですねー」芙美子さんはにこやかに見ていた。
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(動画の中身はすごかったので割愛(笑))
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「どうでした?謙二さん、顔が真っ青ですよ??」
「ごめん、なんか体調が悪くなった…かも…」
謙二は、そのままショックで倒れた。
「う~ん、なんで謙二さん具合悪くなっちゃったんだろう?」
芙美子さんは、知らなかった。謙二は血がものすごく苦手だったということを…
ていうか、なんで芙美子さんはこんなものを知っているんだ?とかいう読者の疑問を気にしながら、謙二はあくる日まで気絶したままだったという。
あくる日、芙美子さんは衝撃的な言葉を口にした。
「あの、謙二さん・・ 私、ずっと秘密にしていたことがあるんです」
「・・えっなに?」
「わたし・・・」
「わたし?」
「わたし、実は地球を征服しにきた宇宙人なんです!」
「ええええ!!! ねえ、それほんとなの?!」謙二は訊き返した。
「・・ごめんなさい、ウソです。ほんとはね、ただの人間ですよ」
そう、芙美子は言った。
謙二は思った。
嘘だ。絶対芙美子さんはただの人間じゃないと。・・・単に、性格的な面で(笑)
(つづく)