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第5話『芙美子に何があったのか?』

謙二はずっと前から疑問に思っていた。


1年過ごしてみて、彼女はどこか変だなと────。




彼女とはそう、現在謙二と一緒に究極のげーじつの世界を目指したいと言われて、共に生活をしている芙美子さんのことだ。キャラが思い切り天然キャラかと思えば、戦略的にギャグ言い放ったりもする。そもそも、彼女はどこから来たのか?



謙二は思い切って、芙美子さんの過去を聞いてみたかった。だがそんな彼女は、外で暑い秋にぴったりなさんまの塩焼きを七輪で焼くのに夢中になっていた。それは昨日、謙二が間違って釣ってしまったさんま7尾のうちの2尾、『太郎』と『あかね』と名付けたさんまだった。


「謙二さーん。太郎とあかねがそろそろ焼けるから、そしたら晩御飯にしますかー?」

芙美子さんが庭で、謙二に向ってそういった。謙二は、ああ、とだけ答えた。



「教えてくれないか? 芙美子さん。君がこの生口島に来た本当の理由を」

謙二は唐突に、芙美子さんに尋ねた。

「えっ?」ふいをつかれた芙美子さんは驚きの表情を見せた。

「そ、それは…」


芙美子さんは、あかねに醤油をかけながら固まってしまった。


「あっ! 醤油かけすぎてるけど…」謙二は慌てて、芙美子さんの醤油の手を止めた。



そのあと、二人してさんまの塩焼きでご飯を食べた後、暮れなずむ瀬戸内海の夕日を見つめていた。日が落ちて、すっかり辺りが暗くなった頃、芙美子さんは何か決心したかように本当の思いを語りだしたのだった。



【4年前の夏のこと】(芙美子さんの語り)


「ねえ、芙美子。今年の夏、どこか遠い海にでもいこっか?」当時高校に通っていたときの親友だった茜と夏休みの計画の話を二人でしていたんです。


私はこう言いました。

「茜? 麻生くんのことはどう思ってるの?」


多分、茜はふいをつかれたんだと思います。

「麻生くんって・・・・・ 誰???」


無理もありませんでした。麻生くんって、麻生太郎のことだもの。まだ、当時は総務大臣になる前でそんなに知名度もなかったしね。私は言ったの。茜に。


「素敵だと思わない?麻生くんって」

「だから、麻生くんなんてうちのクラスにはいないよ?大体、ここ女子高…」

「分かってるよ?! 茜の気持ち。分かってるから聞いてるんだよ?! 私だって、麻生クンのこと、まだよく分からないけど。でも茜が麻生クンの好きだって気持ち、すごく伝わるから!」


私はぶっちゃけ、そんな青春映画でありがちなセリフを一世一代の思いで茜に言ってみたの。そしたら、、、



茜は次の日から、口をきいてくれなくなりました…orz



仕方がないので、私は一緒に行く人がいなくなったから、一人旅に出ようかなと思ったんです。傷心旅行ってやつです。

どこにしようかと本屋にいったら、いっぱい旅行ガイドがあって悩みました。悩んだ挙句にハワイに行きたいとか思っていたんだけど、やっぱり予算が全然足りなくて、近くのしまなみ海道ならすぐに行けるしと思って、ここに来たんです。



何か出会いが欲しかったんです。


────友達を一人失ったからね…。



瀬戸内海の水面の色は、すごく奇麗だった。エメラルドグリーンをさらに濃くしたモスグリーン。こんな神秘的な海があるなんて、今まで知らなかった。ていうか、地元に住んでて知らなかったの。



私、ずっと箱入り娘だったし。



私がこの島に来てね、初めて目が合ったのは謙二さんでした。


謙二さんと目が合った時にピンと来た。彼は運命の人だって。

・・・どういった運命かは、詳しくは言わないけれども。



でも、親を説得して高校中退してでもここに来ようと思ったんだけど、ダメでした。

結局、高校を卒業してからもう一度ここに来ようと思って、今こうして、謙二さんと一緒に過ごしています。


(語り終わり)



「で。話は分かったけどさ、内容を全部理解できたわけじゃない。…芙美子さんってやっぱりちょっと変だよね?」謙二は言った。

「はい、味噌は天才だと思います。さんまと味噌も結構合うんですよ!」

芙美子は満面の笑みになった。


謙二は、芙美子さんの素敵な笑顔を見ていたら、このキャラでもありかな?という気持ちになった。

どんなにストレートに質問しても、そういうときはかならず、見事にスルーされてしまうから。



「デザート食べますか、謙二さん?」

芙美子さんはそういって、冷蔵庫から瀬戸田ドルチェのイタリアンジェラートでも特に人気のあるデコポンのジェラートを持ってきてくれた。

二人してそれを食べながら、明日は何を釣ってこようか真剣に考えていた謙二だった。



「あと何日かで満月だから、そしたら一緒に月見バーガーを食べにいこう」

「ええ、謙二さん」


ゆるやかな時の中で、月明かりがそんな二人を照らし出していった。



(つづく)

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