第4話『謙二、広大な宇宙を描く。』
芙美子さんと同棲を始めてから約1年が経った。
二人はそれなりの幸せな暮らしをしていた。ドリームキャストがあればインターネットも見れるし、港に出ればタコ漁もできる。そんな日常の小さな幸せを積み重ねていった。
「ねえ、謙二さん。お昼食べるよね?」
「ああ。なにがある??」
謙二がそういうと、芙美子さんがカレーライスを持ってきてくれた。
「はい、カレーライス。何カレーだか当ててみて?」芙美子は微笑した。
「何かヒントをくれないかな。全然、分からないんだけど…」
「インターネットで検索してみたら分かるんじゃないかな?」
「そうか、じゃあドリキャスに電源入れるか…」
そうやってドリームキャストに電源を入れて、ドリームパスポートで検索をしようとしたがそもそもなんて検索キーワードを入れていいのか分からなかった。Yahoo!Japanのサイトを開いたまま、謙二は固まってしまった。
「ねえ、芙美子さん?? なんて検索すればいいのか分からないんだけど…」
「だめですよ、謙二さん! 今どきYahooなんて使ってるなんて。Googleがいいんだからっ」
「Googleで、ググれってか… あっ!」
「分かりました?」
「カレーでググれ → ググれカレー → ククレカレーか!芙美子さん、頭いいな!」
「ご名答~♪」
そうやって、二人はスーパーで3個パック210円(税込み)のククレカレーをほおばっていった。
そして、謙二はカレーを食べながら、芙美子さんにこう言った。
「僕たちさ、いつまでもインスタント食品に頼ってばかりではいけないと思うんだ」
「謙二さんはインスタント食品はお嫌いなんですか?」
「いや、そうじゃない。君、芙美子さんをいつまでもこんな貧相な食事しか食べさせてあげられない自分が嫌なんだ!」
「私のことなら気にしないで下さい! 私、この島に来てから、ジャンクフードマニアになりましたから。それにタコの焼き方も、もう100種類くらい覚えたから」
「俺たちがいうタコ焼きって、”イカ焼き”と言ったときの焼き方と一緒だからな… タコ丸焼きももう飽きただろ。 もっと芙美子さんが喜ぶ顔が見たいんだ。たまにはパフェとか食べたいでしょうに。まだ20歳なんだから」
「そうかもしれない。でも気にしないで、ほんとに。私には、タコパフェがあるもの…」
謙二はその言葉を聞いて、決心した。
今度の二科展に向けて広大な宇宙の絵画を描いて入選し、有名画家として仕事をゲットだぜって。
その日、謙二は夜になると浜辺に出て、夜空を見上げた。生口島の夜空は、神々の輝きのように星のひとつひとつが確かな光を放っていた。そして、穏やかな波の音とともに謙二の心も永遠の時間に包まれていくような感じがして、感性がどんどん研ぎ澄まされていくような感覚を覚えた。
ただ、残念なのはあまりにも暗すぎて手元が見えず、絵を描くどころの話ではなかったということだった。懐中電灯も買えなかったので、仕方なく謙二は帰宅した。
「どうでした? 夜空は描けそうでしたか?」芙美子さんにそう訊かれると謙二は、
「ああ。俺にも松本零士の才能が欲しいと思ったくらいだ」
「マッキーも大変な人に喧嘩売っちゃいましたからね」
二人の話はどこかかみ合っていなかった。
しかし、謙二は諦めていなかった。
明くる日になって、謙二はタコ漁にでかけてしかも大量だったので、近くの魚市場でタコ20kg分を売ったら25000円にもなったので、それで懐中電灯を買うことができた。ていうか、自分にこんな漁師の才能があるんなら、そっちを家業にして暮らせばいいじゃんという読者の意見が気になっていた。
広大な宇宙を描き始めてから約1ヶ月。ようやく絵が完成した。
絵のタイトルは、「あヽ 愛しきメーテルは何処に?」。
「素晴らしいです、さすが謙二さんですね!」芙美子さんは単純に感動していた。
「かなりのSFX超大作に仕上がった。今まで、女体の神秘しか追いかけてなかったから、こういった宇宙の神秘を描くことができたことは、自信にもつながるな。すべて君のおかげだよ。メーテル…」
「じゃあ今度は、小宇宙の神秘に挑戦ってことですね!」芙美子さんは笑顔でそういった。
そして、その絵を二科展に送る日がやってきた。
「謙二さん。あの絵、送っておいたからね」芙美子さんが言った。
「おお、サンキュー!」
「入選するといいですね☆」
「ああ、きっとするさ」
──しかし、1ヶ月経っても受け付けしましたとか、そういう連絡すら謙二の元に連絡が入らなかった。おかしいなと思って、芙美子さんに訊いてみることにした。
「ねえ、芙美子さん? あの絵、何便で送ったの?? ちょっと問い合わせてみようと思うんだけど…」
「あれなんだっけ? あ、そうそう!! 牛乳瓶じゃ入らなかったから、お醤油入れる瓶につめて海に流してみたんだけど…」
「そうか、お醤油の一升瓶かって…おい!!! ボトルメールかよ!!orz」
「だって謙二さん、ビンで送ってって言ったじゃない」
「ビン違いだっつうの! ていうか、普通そんな間違いしないしw」
「じゃあ、ビン・ラ○ィン?」
「それも違います…」
結局、せっかく描いた絵の行方が分からず、締め切りはとっくの昔に過ぎてしまっていた。しかし謙二は、まあまた来年があるさと、ちょっと前向きな気持ちになっていた。
(つづく)
[エピローグ]
謙二の絵は、その後どうなったのか?
瀬戸内海を越えて、山口県のとある小さな島に辿りついた。それを見つけた島の中学生が島内の掲示板に貼り、絵の真ん中に白いペンキで大きく
”SEX”
という落書きをしていた。
・・謙二の思惑と違った方向の絵になってしまったようだ。