らぶらびときょうふと、ぇと、ええっと・・・///
その日私は見てはいけないものを見てしまいました。
使われていない上級学校の空き教室。そこにいる友人……。一人の友人がもう一人の友人の胸元をはだけさせ、その首筋に吸い付いているのです。吸い付かれている友人は気を失っているのかぐったりとしていました。
これは、いわゆるゆりというものでしょうか?
……よく分かりませんけど、とりあえず見てはいけないものをあたしは見てしまったのです!
***
二人はとても仲良しさんです。らぶらぶにみえます。まるで夫婦みたい!
って両方女の子だから、夫婦は無いですよね。あ、でもでもゆりならば、あ、ありなのかもしれません! 意味の無い思考はぐるぐるぅーっと渦巻きます。
ちょっと一歩後ろに下がって二人をジィット観察しようとしたところで、この前噛み付いていたほうの、ミキちゃんがあたしのほうに振り向きました。
「どうしたのアキ。そんなにのんびりと歩いていると、サークル遅れちゃうよー?」
「えっ? あ、うん。そうだよね! 早く行かなきゃ」
あたしはそうしてダッシュしました。ダッシュする理由なんてありませんけども!
あたしたちが所属するサークルはミステリサークルです。
て言っても、オカルトを研究したり、都市伝説を調べたりするというわけではないですけど。
この前見た心霊番組怖かったねーくらいの、ゆるーいサークルなのです。
ただ一人の例外、ミキちゃんはやる気満々なのです。いつも何かしよう。これはどうだったと話してくれます。一番下の学年だけど、一番最年長みたく仕切っているのです。
先輩からは微笑ましいと思われているのです。
今日の集まりも、ミキちゃんが話すことを皆でニコニコしながら聞いていました。
***
数日後。
今日はユミちゃんと一緒の講義でした。ミキちゃんとは講義がかぶることが無いので悲しい限りなのです。
講義中、ユミちゃんはため息ばかりついていました。
あまりにも回数が多いので、小声でどうしたの? って聞いてみました。
するとユミちゃんは、ハイネックだった服の襟を少しだけ捲りました。
「見える?」
「何が?」
「……首の付け根辺り、赤いのが出来てない?」
その言葉に、あたしの背筋はゾクリとしました。
駆け巡る、数日前の空き教室での光景……。
恐る恐る見てみると、赤いポツリとしたものが、二つついていました。
――やっぱり!
血を、吸われてるんだ!
恐怖心が煽られて、背中から冷たい汗がつーっと流れました。
ミキちゃんは吸血鬼――!
ユミちゃんも吸血鬼になってしまうのかわからないけれども。わたしは不確かに存在するそれのことをちっとも知らない。
最初は見ちゃいけないものを見た、女の子同士が付き合っているの知ってしまって、それがたまたま仲良しの友達だったというだけで。
どうすればいいんだろう? ミキちゃんは実は吸血鬼なんだよって教えたほうがいいのか、頭の中が混乱なのです。
「アキちゃん? どう? 赤くなってない? 凄く痒いんだよね」
「あ。うんそうだね。じんましんでも出来ちゃったの?」
とっさに出てきた言葉は思ってるのとは全く違うものでした。
***
吸血鬼は怖いけれども、けれどもミキちゃんはとても仲良しで全然怖くなくて。どうしたらいいかわからない。
そこだけが壊れたレコーダーのようにあたしの頭に渦巻いているのです。ユミちゃんの話を聞いてから、あたしは学校内を一人で行動するようになりました。
わざと避けているわけではないのですが、なんとなく避けてしまう……。それでもサークルとかで会ったりすると、普通に会話して楽しかったり。それが余計にあたしを混乱にしているのです。
あたしはもともと怖がりで、昔おばあちゃんから聞いたこの世界の人皆が知っている、あの有名はお伽噺ですらなみだめなのです。
肋骨少女とかもう何あれ超怖い。
そもそも冷静に考えて、ミキちゃんが吸血鬼だって決まったわけじゃないですけど!
だけど、少しだけ二人を避けていたのがばれてしまったのか、ある日二人であたしを呼び止めました。
「最近何かあったの?」
とミキちゃん
考えれば今までどちらかと必ず行動していたあたしがいきなり一人で行動し始めたらおかしいと思うのも当然です。
「ううん。何もないよ」
笑ってごまかそうとしますが、そうもいきませんでした。
「何か困ってることでもあるのかな?」
ユミちゃんが心配したように覗き込んできます。
ユミちゃんとミキちゃんがどういう関係かわからなくて、しかもミキちゃんは吸血鬼なのかわからなくて困ってます――。なんていえません。
「何も困ってないよ~。大丈夫!」
「あ! わかったわ!」
ミキちゃんがあたしの言葉を掻き消し、声を上げた。
「アキ、好きな人出来たんでしょ?」
自信満々に言ってきますが、別に好きな人なんていませんから。だけど違うというとまた話がこじれそうな感じがするので、あたしはありがたくそれに便乗させてもらうのです。
「そ、そう……だけど。他の人には内緒で!」
「ふふん。いいけど教えてよね?」
「え? でもそれって私たちとわざわざ別行動する理由になるの?」
ああ! せっかく流せそうだったのに! わざわざ話を戻したりしないでぇっ!
「ユミはバカだなあ」
ご機嫌そうにミキちゃんはユミちゃんになにやら耳打ちしました。
すると、ユミちゃんは何か企んでるかってくらいににんまりとした笑みを浮かべます。
本能的に危ない! と感じたあたしは挨拶もそこそこに二人の前から慌てて去りましたのです。