06話 私達の課外授業はこれからだ!
王立図書館探索二日目、そして
時は半日ちょっと遡る。
もうすぐ閉館時間が近付く中、一頻り話して満足したらしい理事長は最後に見事な爆弾を落としていった。
『ねえ、なんで室内灯を点けないの?』
「――と言う訳でこの部屋、灯りが点きます」
ヒラケゴマ、と呟いた途端に明るくなった室内。
入り口近くを見ると確かにその呪文を唱えることで灯りが点くと案内があったがんなもん暗い中で気付けってのが無理な話だせめて説明しとけ職員!
「と言う訳ってどういう訳だよ」
「…薄闇で迷子になってた私に親切な利用者さんが教えてくれたの」
当時の不毛な会話を思い出すとげんなりするが、私と理事長に接点がある事は一先ず伏せておく事にした。
「ふうん…」
ラルフは納得してなさそうではあったが、追求する気も無いみたいだ。
「…それにしてもエリス。君、迷子になってたんだ」
「なっ、仕方無いでしょ!暗いし案内板も何もないし…」
「そこで僕に怒られても」
ラルフはまるで駄々をこねる子供を相手しているかの様に肩をすかせた。失礼な奴だ。
「じゃあ今日は光珠はいらないか」
「あ、いや、下さい。あれがあると何かちょっと安心する」
室内が明るくなったとは言え、人気はないし寒いのだ。
あの光珠が無ければやはり単独行動は気が引ける。
「……そう」
私の主張にラルフは少し不機嫌そうな表情になったが、それでも光珠を作ってくれた。
「ありがとう」
「…大事に使って」
昨日ぶん投げそうになったのは黙っておこう。
「この珠、落としましたよ」
落とした。大事にと言われた光珠を私は見事に落としていた。
…あれ、大切に握ってた筈だったけど意外と私って薄情な奴だね?などと思いつつ拾ってくれた女性に感謝する。
――と、その時だった。
4、50代位だろう品のある女性の手元に【開門術】と名のつく本がある事に気が付いた。
「その本…」
「ああこの本ですか?夫が昨日此処に来たくせに返却しそびれたとか抜かしくさったので、私がわざわざ持ってきたのです」
「……」
あ、面倒くさいタイプの人だこの人…なんて思ったのは秘密だ。
「開門術に興味があるんですか?」
「あ、はい。課外授業で調査してて」
問われて素直に返事をすると、彼女は人好きのする笑顔で手招きしてきた。
「そこの扉を開けてみてください」
いくつかの見えない壁を越えつつ連れてこられたのは非公開コーナーの最奥にある扉の前だった。
曰く、彼女が所持している本もこの扉の向こうで借りた物らしい。
…結界があるなんて気付かなかった。
何だか色々と騙された様な気持ちになりつつ言われた通りに扉を開ける。
―――その先にいた人物を見た瞬間、私はもうだめ死ぬかもと本気で意識が飛びそうになったのだった。
◆ ◆ ◆
「これだけの資料、一体どこで見つけられたんだ?」
夕暮れ時の図書館中庭にて。
今日の成果について報告すると、ラルフは信じられないものでも見るかの様に此方に目を寄越してきた。
それもその筈だ。
そこにはこれまでどんなに探しても何一つ見つからなかった開門術に関する本が三冊もあったのだから。
「…一応ざっくりとは目を通したから間違いない筈だよ」
「ああ、……確かに僕が欲しかったのはこの本だ」
そうしてラルフが手に取ったのは【開門術の手引き】と言う本だった。
……ああ、やっぱりそうなんだと内心呟く。
出来れば【開門術史】か【おもしろ開門術集】を選んで欲しかった。
「僕の方はさっぱりだったから内心諦めかけてた」
「私がペアで良かったでしょ?」
ねえねえと問いかけるとラルフは仕方ないなと苦笑する。
「はいはい、ヨクデキマシタ」
言葉と同時にポンと頭を撫でられたが、悪い気はしなかったので大人しくされるがまま特に抵抗はしない。
この気持ちは恋なのだろうか。
同じ問いを以前した時よりも、それは少しずつ形となってきている気がしていた。
「…ラルフ」
「なに」
「私頑張るから、頑張ろう」
「………。…ああ」
【奥の部屋】でした会話を思い出しながら私は呟く。
夕日を背にしたラルフが一瞬表情を消した事に、私はその時気付かなかった。
――そしてその翌日、彼は学園から姿を消したのだった。
◆ ◆ ◆
「退学届!?」
「うんそう退学届。今朝来たら私の机に置いてあってね。困ったものだよ」
朝のHRで担任教師に呼び出された私は理事長室に来ていた。
理由は私がラルフ・ベーレンスのペアだから、と言うものだった。
「……なんで」
「さあ。“一身上の理由”としかコレには書いてない。――けどまあ、もう“学生である必要が無くなった”んじゃないかな?」
暫く呆然と立ち竦んでいたが、飄々と語る理事長の言葉で何とか持ち直す。
「“学生である必要が無くなった”…?」
「つまりわざわざこの国の人間に成りすましてまで探っていたモノが手に入ったって事さ」
「…この国の人じゃ、なかったんですか…」
「あれ、流石にそこまでは気付かなかったか」
まあ仕方ないか、と理事長が苦笑する。
そしてそこに座って、と理事長室の中央にある来賓用の椅子へと私を促した。
「とある国に諜報員を育てる施設があってね、そこで育てられた子供は国内外問わず色んな依頼を受ける様になるんだ」
スラスラととんでもない事を話し出した理事長に一瞬焦るが、そんなもの今更だと思い直して聞き手に徹する。
「まあ、諜報員と言いつつ依頼があれば金額次第で何でもやる様な連中さ。莫大な金を取るだけあって優秀な奴ばかりだよ」
「つまりラルフは」
「そ、その中の一人って訳さ」
「……」
そこまで聞いて私は再び黙り込む。
ふと目に入った退学届を見て、ああこの几帳面な文字はラルフの筆跡だなと思い苦笑する。
私は、いつの間にか彼の筆跡を覚えていた。
「………」
結局は、私の一人相撲だったと言う事だ。
全てをさらけ出してぶつかってみたが結果はご覧の通り。
とんだピエロだ馬鹿みたいだ。
「…理事長」
「なんだいエリス君」
「ラルフぶん殴りに行くにはどうすればいいですか」
「…………」
ぶはっと噴き出した理事長は一頻り腹をよじらせながら笑った後、うっすら出ていた涙を拭いつつ口を開いた。
「そうだね、別行動になったとは言え“君達”はまだ課外授業の真っ最中だ。始めた事は最後までやらなきゃね」
そうして得意気な表情でこう続けた。
「知ってた?課外授業最終日の前夜は満月だ。――門を開けるには絶好のマナ日和じゃないかな?」
ラルフ逃亡(^p^)




