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05話 開き直って本性晒す

一次回答って便利な言葉ですよね回

「おはよう!!」

「………」


私が居るのは城下町の中央広場。

ダメ元だったが昨日と同じ待ち合わせ時間に私は仁王立ちで構えてラルフを迎えた。

「…昨日の今日でよく来たね」

「それを言うならラルフもでしょう」

やや引き気味のラルフの様子を見て、私はフフンと鼻で笑う。

――結論から言って、私は開き直っていた。


「もー関わっちまったものは仕方無いし、ならいっそ自分のやりたいようにやっちまおうと思った次第な訳ですよラルフ君」

「…」

ラルフは未だに呆然としている。

朝食きちんと食べたのか?この人。

「…いや、今日は食べてない」

「だったらコレ!うちの焼きたてのパン。冷めない内にとっとと食べて」

そう言って持っていたパンをラルフに押し付ける。

そうして昨日とは180度異なる朝食タイムが始まったのだった。


「……口調、どうしたの」

憮然とした表情でパンをかじっていたラルフがボツリと尋ねてくる。

「…私、決めたの。ラルフには本当の自分でぶつかってやるってね」

「本当の自分?」

「そ、本当の自分」

幼少時代、私は非常に破天荒な娘だった。

そんな私が今や一般市民も通っているとは言え貴族様の通う学園で平穏無事に過ごすには抑圧させる何かが必要だと判断し、家族が私に敬語を叩き込んだのだ。

つまり私の敬語は私と、それから私に関わる全ての人を守る結界にしてリミッターだったのだ。

「ま、今となってはそれなりに世渡り出来る様にもなったし、コントロールも出来るだろうし。ならいっそ外しちゃえ!ってね」

「………そう」

さっきから気圧され気味なラルフが控え目に相槌をうつ。

これから言う事が一番大事なのに、そんな事では言っても流されかねない。

私はラルフの頬を押さえてグイッと無理矢理此方に向けると、一息ついて話を続けた。

「つまりね、私はこれから全力でラルフにぶつかってくって言ってるわけ。だから」


そっちも遠慮せず全力でかかってきやがれこの野郎!


……そう叫んだ瞬間、何故か広場の鳩がバサバサバサっと一斉に飛び逃げだした。

「そんな逃げなくても良いのに」

「ぶっ!」

それまで黙っていたラルフがもう限界だと言わんばかりに噴き出す。

「ちょっと、それ流石に失礼じゃない?」

「…は、ごめ、もうだめ」

ラルフは涙目になり腹をよじらせながらそう言った。

「……いやも、何だろ…威勢がいい割に、手は震えてるしさ…は、もう君ってほんとすごいな、ほんと、すごく、変な奴…」

「…それって褒めてないですよね?」

「ぶっ!リミッターとか言いつつ敬語使うし…っ」

「人間の習慣なめんな!」

ケタケタと笑うラルフに顔の温度が一気に上昇する。

喧嘩を売った筈なのに何でこんな恥ずかしい思いをしなくてはならないんだ!

「…いや、ごめん。分かった。ちょっとあっちで話をしようか」

あっちと示されたのは市民公園だった。

人は居るが多少きな臭い話をしても盗み聞かれる事は少ないと踏んでの選択だろう。

「…此処と裏路地でなければ私はどこでもいい」

「ぶっ」

私の返事にラルフはまた噎せた。

そう。今までの会話、実は周りに筒抜けだったのである――。


◆ ◆ ◆


そして僕らは市民公園へ移動した。

大勢に恥ずかしい話を聞かれたと、エリスは先程からずっと不貞腐れている。

が、不貞腐れたいのは僕の方だ。

只でさえ目立つ事はご法度だというのに――彼女といると全てが狂う。


なんとなく予感はしていたんだ。

あの新しい理事長はきっと僕らの目的に気付いてる。

それは彼女がペアになったことで確信に変わった訳だが。

――もっと早くにこの役を辞退するべきだったんだろう。

でも、僕にはそれが出来なかった。


いい加減、覚悟を決めよう。

決着まであと一週間。

僕は僕に出来る最大限の事をしよう。

そして僕の中に眠る宝物を護るのだ。

――例えその結果、心優しい彼女が泣いたとしても。


「じゃあ話を始めようか」


僕は平静を装えているだろうか。

声は震えていないだろうか。

これから先は僕も彼女も本当に綱渡りになると思う。

――慎重に言葉を選ぶ必要がある。


「ねえエリス、君は誰の味方なの」

「……」


ああ、彼女とこうやって休日に市民公園のベンチで肩を並べる事になるなんて、一週間と少し前までは思いもしなかった―――そんなどうでもいい事が一瞬頭を過って、ほんの少しだけ自嘲した。


◆ ◆ ◆


「ねえエリス、君は誰の味方なの」

そう尋ねたラルフの声が、いつもより少し硬い気がした。

…ひょっとして、ここで回答を間違えると私はそのまま消されたりするんだろうか。

「……」

ねえコレ答えなきゃダメ?

「と言うか、質問の規模が分からない。『誰の味方か』って、ラルフの中ではどんな選択肢があるの」

「君の中にある選択肢が知りたいんだ」

言わないつもりかこの野郎。

…まあでも、知らなくていい事まで知らなくて済むからいいのか。


「なんでそう思ったわけ?」

「昨日僕を尾行していたじゃないか。お世辞でも上手いとは言えなかったけど」

ああ、成る程…と納得しかけた所で皮肉を言われ思わずカチンときた。

「気付いてたならそう言ってくれれば良かったのに!」

そうすればもっと慎重に行動してあのおじさんにもバレずに事態を把握出来たかも――いややっぱり無理か。その筋のプロみたいだったし。

なんて事を考えていた時だった。

「僕だってもっと早く気付いていれば――」

「気付いていれば?」

気付けばうっかり溢したらしいラルフの言葉を反射的に聞き返していた。

ラルフはしまったと言う表情をしているが私が逃すわけがない。

「気付いていれば、何?」

「…尾行に気付かず上司と落ち合うなんて失態、あの人に見せなかった」

「……………」

ふーーーーーーーん。

そこで「君を巻き込むような事したくしなかった」じゃなくてあくまで「上司に失態見せたくなかった」なわけですねそーーですかーーー。

…って、何でそんなの期待してたんだ私。

友人の恋愛小説読んでたせいか?


「…君を巻き込みたくなかったなんて言っても信じないだろ」

「ん?何か言った?」

「――何でもないよ。話が脱線したけどさっきの質問の答えがまだだ」

うん、ラルフが何を溢したのか気になるけど結局あの質問から逃げられなかった。


仕方無いから真面目に考えてみる。

私は誰の味方なんだろうか?

「…結論から言えば、現状私は私の味方でしかないよ」

「そんなどうとでも逃げ切れる回答を求めてるわけじゃないよ」

「デスヨネー」

分かってる!!分かってるよ!!!

ラルフにとって敵かそうじゃないかが知りたいんだろそれくらい分かってる。

――でも本当に分からないのだ。

どうにか答えを出そうにも、私とラルフは立っているフィールドがあまりにも違いすぎた。

けれど。


「この課外授業は最後まで頑張りたいと思ってる」

先の事だとかは分からないが、少なくともこの一週間は。

私達はクラスメイトにしてチームメイトであるべきではないか?

――理事長だって『開門術に関わるな』とは言ってなかった。

恐らくこれが、いろんな人にとって一番無難な回答なんだろうと私は考えた。

「……つまり、一週間限定の共同戦線と言う事?」

「…とりあえずは、それで。課外授業が終わる頃には、また新しい答えが出るかもしれないし…」

「………」


そのままラルフが黙り込む。

…我ながら日和見かつ卑怯な回答しちゃったなあとは思うが、我が身は可愛いし何より嘘はつきたくなかった――と言う私なりの精一杯の誠意だった訳だが、果たしてどこまで通用するか。

まるで入試の合格発表でも待っているかと言うくらいにドキドキして俯いていると、ふと目の前に手を差し出された。

その手づたいに顔を上げると、ラルフがいつの間にかベンチから立ち上がり私の正面に立っていた。

「……ほら、行くよ」

「ラルフ」

「早くしないと図書館が閉まる」

つまり、協定は成立と言うことか。

差し出された手を掴みながら、私はじわりと胸が温かくなるのを感じた。

「ラルフ」

「……なに」

「課外授業、頑張ろう!」

思わず笑顔でそう言うと、ラルフは少し困ったように微笑んでこう返してくれた。

「…当たり前。足手まといにだけはならないでね」

「なっ」


――ひとまず今はこれでいい。

私達はそうして今日も王立図書館へ向かったのだった。


リミッター(笑)

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