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ACT.3 Chap.1




Chap.1



「いいか、流惟。俺が呼びにいくまで部屋から出るんじゃないぞ」

 那由多はサイプリスの、館内を自由に物色してもかまわないとの言葉を受けて、彼の素性について調べに出たのだ。流惟がどんなに一緒についていくと主張しても、

「危険だから」の一点張りで頑として同行を許さない。結局根負けした流惟は部屋で留守番をする羽目になった。ご丁寧にも内側からの施錠も義務付けられている。

 どうにも那由多せんせは、昔から過保護なところがある。そう溜め息をついた彼女は、ごろりと豪華な装飾の施されたベッドに寝転がった。

 部屋の中は落ち着いたベージュの家具で統一されていて、下手に安いホテルよりも高級感があふれている。広さも十分すぎるほどあり、西側の壁にはベッド、東側の壁にはデスクが据付で置かれていた。

「つまんなーい!」

 しばらく大きなベッドの上を転がっていたがそれは暇つぶしにもならない。仕方なく流惟はベッドから跳ね起きると、南に面した大窓にぱたぱたと歩み寄った。窓を開けるとすぐに円形のバルコニーに出られるようになっている。

 窓を開け放った流惟の鼻腔を甘い香が掠める。見れば、窓の下には見渡す限りのバラ園が広がっていた。

「うわぁ……すごい……!」

「気に入っていただけましたか、ルイ」

「はい! とてもきれいですっ!」

 声をかけられてバルコニーの下を覗くと、相変わらず穏やかな微笑をたたえたサイプリスが立っていて、流惟を見上げていた。流惟は大きく頷いて笑顔を見せる。

「よろしければ、降りてきて一緒に見ませんか? バラのアーチがあるんですよ」

 サイプリスはバラ園の方を指差して首を傾げる。流惟はわずかに逡巡したが、すぐに首を縦に振ると、部屋を飛び出した。那由多の言いつけを思い出さなかったわけではないが、退屈を紛らす事の方が最優先であったし、サイプリスのことをもっとよく知るためには、いい機会だと思ったのだ。







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