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ACT.2 Chap.4




Chap.4




「さて、いろいろ質問があることでしょう」

 何なりと訊いてください、と笑むサイプリスに流惟は頬張ったクロワッサンを飲み込んだ。

 ダイニングルームには大きなテーブルがあり、今は使われていない暖炉と、いかにも高級そうな食器棚が壁沿いに据えられている。那由多と二人、隣同士に座る流惟の前にはパンと、サラダと、メインディッシュ、スープ、デザート、紅茶がずらりと並べられていた。すっかり空腹をもてあましていた彼女には、目もくらむようなご馳走である。

 対しサイプリスの前には、紅茶しかない。先ほど、大きな振り子時計がちょうど十三回鳴ったばかりだから、もう先に昼食は食べているのかもしれなかった。


「あの、わたしの家に―――部屋に、手紙はどうやって届いていたんですか?」

 流惟はぼんやりとそんなことを考えながら質問をする。

流惟とサイプリスの文通は、間に郵便局も電話回線もインターネット回線さえも介さなかった。流惟はサイプリスの手紙に返事をかいて机の上に置いておくだけで、少し目を離したすきにその返事の手紙がまた届いていたのだ。この不思議なやりとりがなければ流惟は彼をヴァンパイアだと信じることは決してなかったに違いない。

「ヴァンパイアは、姿を変えることが出来ます。手紙は主に、鳥になって届けに行っていました」

「コウモリじゃなくて、か?」

 サイプリスの答えに那由多が口を挟む。どうも彼は、サイプリスのことが気に入らないようだ、と流惟は思わず苦笑した。

「あの姿は、意外に目立ちますからね」

 サイプリスは気にした様子もなく穏やかな口調で微笑み、続ける。

「見知らぬ人間を警戒するのは賢明なことです。しかし、それには毒なんて入っていませんよ」

 那由多は、先ほどから一口も食事を口にしていなかったのだ。早くも不穏な空気に、流惟は慌てて言葉を探した。

「せんせ、本当だよ? このパン、すごく美味しいです!」

「……気を遣うな、ばか」

「ルイのお口に合ったのなら、よかったです」

 かえってフォローされる形になってしまった。頭を那由多に小突かれた流惟ははにかむと、再びサイプリスの顔を見る。

 年の頃は流惟っ同じくらいの美少年だが、言動は妙に大人びていた。先ほど彼が言っていたように、サイプリスの容貌は、仮の姿なのかもしれない。









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