ACT.2 Chap.3
Chap.3
間近で見ると、サイプリスの館はより迫力があった。威圧感のような重々しい空気が、圧し迫ってくる。流惟が思わずかばんの紐を持つ手に力を込めると、後ろから肩を抱きかかえられた。那由多である。
彼は少年が言っていた通りに、右側の門柱に流惟を抱いていない方の手を触れさせた。高さは彼の目線よりも2、30cmほどもある門が、微かに音を立てる。
ギィ―――………
鉄が軋むような鈍い音が響き、ひとりでに開いたそれに、流惟は心臓が早鐘を打ち始めたのを感じた。
「吸血鬼……屋敷」
呟いた途端、足がすくんだ。自分がやろうとしていることは、とんでもないことなのではないか。今会おうとしているのは、限りなく『危険』な人物なのではないか。―――そんな考えが、今になって込み上げてくる。
―――わたしを、殺してください。
サイプリスを死なせてはならない。わたしは、彼と話をしなければならない。
どうしてそう思うのかは分からないけれど、不思議と恐怖が吹き飛んでしまった。
「……流惟、」
気遣わしげに顔を覗きこんでくる那由多に微笑んで、流惟は足を踏み出した。
視界の端に赤いものが入り込む。ふわりと鼻をつく甘い香り。
流惟は玄関の扉のすぐ横にあるそれを見て、歓声をあげた。
大きく、立派な薔薇。優雅に咲き誇るそれは、風が吹いても揺れることなくそこにいた。
「きれーい……」
流惟は那由多から離れてそれにかけより、顔を近付けて呟いた。
「お気に召していただけましたか」
背後からの声。流惟は聞き覚えのあるその声に、振り返った。
「……わたし、道間違えました?」
目を丸くして問う。―――声の主は、先程道案内をしてくれた金髪の少年だったからだ。彼は艶然と微笑んで首を振る。
「いいえ。―――我が緋薔館へようこそ。わたしが主のサイプリスです」
「…………え?」
流惟はますます目を大きく見開いた。愉快そうにサイプリスが笑む。
「こんな田舎まで、はるばるありがとう。君なら来てくれると信じていました」
サイプリスは言いながら、玄関の扉を開けて館へと流惟と那由多を促す。那由多は警戒するようにサイプリスを見据えたまま、流惟の後に続いた。
館の中は薄暗く静かだった。物はあまり多い方ではなく、家具も必要最低限度のものしかないが、少ない調度品はどこか上品な雰囲気をかもしだしている。
玄関のフロアだけでも、流惟の家半分の広さがあった。
「お腹はすいていませんか? 昼食を用意させましょう」
サイプリスはきょろきょろと館内を見回す流惟を振り返った。那由多に微笑を与えてやり、すぐに視線を流惟へと戻す。
流惟ははにかみながら言葉を濁した。
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