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ACT.2 Chap.2



Chap.2



 何本か電車を乗り継いで降り立った春日町は、世辞にも都会的とは言えないところだった。けれど廃れた感は全くなく、広がる緑の向こうに見える家も、どこか優雅だ。

「うわぁ……」

 流惟はまるで絵本の中に出てくるような森の小道の中を歩きながら歓声をあげた。鬱蒼と茂った木々の間から差し込む木漏れ陽があたたかい。確かに、こんな場所にならヴァンパイアが住んでいても不思議はない気がする。


―――……ヴァンパイアっていうよりも、妖精(フェアリー)さんがでてきそう


 流惟はくすりと肩をすくめた。那由多に話したら、中学生にもなって、と笑われそうだけれど、彼女は『天使』や『妖精』などというものの存在を信じている。だからサイプリスに自分がヴァンパイアだ、と告げられても、さして驚きはしなかった。サイプリスを完全に信じたわけではないが、会ってみる価値があるように思えた。

「先生、すごいね!」

「何が。主語が入ってないぞ」

 那由多は意地悪く笑って、振り返る流惟に答える。その言葉とは裏腹に、彼は目を細めて小道を見渡す。流惟が言わずとも彼女の感動が大きいことは一目でそうと知れたし、サイプリスに会うことを楽しみにしていることも、那由多にはお見通しだ。


 小道を抜けると、そこは広場のようになっていた。ベンチがあって、そこに金髪の少年が腰かけて読書をする姿が見える。

 流惟は少年に近付いて声をかけた。

「あの…………サイプリスって人の館は、どこにあるか分かりますか?」

「……君は?」

「あ、あの……サイプリスさんの知人っていうか……彼の招待を受けてきたんですけど、詳しい道を聞いてなくって……。分かりますか?」

 流惟が困ったように問うと、少年は本を閉じて立ち上がった。

「案内します。……付いてきてください」



 少年は広場を横切って住宅街のような場所へ流惟と那由多を案内した。そこに立ち並ぶ家々はどれも大きく、流惟の家の1,5倍は悠にありそうだ。けれどこの高級住宅地の中に、人影はない。

 何故か少年に会ってから無言になってしまった那由多と、どうやら無口らしい少年の間を行く流惟は、流れる沈黙を打破するように、声をあげた。

「サイプリスさんも、こんな家に住んでいるんですか?」

「えぇ、まぁ。この街の外れに住んでいます」

 少年はそっけなく答える。流惟は素直に感心した。

「すごーい。こんなに大きな家に住んでるなんて。先生の病院と同じくらいの大きさだね!」

「あぁ、そうだな」

 那由多の返答もやはり、そっけない。彼は少年を凝視したまま何事か考えごとをしているように見えた。

 思わず、溜め息がこぼれ落ちる。

「―――あぁ、あそこです。あの、高台の上」

 少年が指差す先に目をやった流惟は、唖然とした。

 まるで中世のヨーロッパにでも建っていそうな建造物。家と呼ぶのにはあまりに大きすぎる、それこそ豪奢なドレスを纏った人々が舞踏会でも催していそうな、―――城。

「あの、サイプリスさんの家ってあれ……ですか?」

 流惟は活動が急停止した思考を必死に動かそうとしながら少年に問う。視界に入った那由多も、少なからず驚きをその顔に滲ませていた。

 少年が二人の様子に笑いを堪えるように頷く。透けるような金髪が、それにあわせて小さく揺れた。


―――本当に、何者……?


「それでは、ルイさん、……ナユタさん」

 怪訝な顔をして建物を見つめた二人に少年が声をかけた。

「この道をまっすぐに行くと、白い門がありますからそこから入ってください。右側の門柱に触れれば、門は開きます」

 少年はほぼ無表情に言うと、僅かに目礼してきびすを返した。

「あの……?」

「僕は用事があるので、失礼します」

「そうですか。……ありがとうございました!」

 流惟は頭を下げた。少年はその姿に口元を歪め、那由多を一瞥すると、先程きた道を引き返していった。










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