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ACT.2 Chap.1




 八月の田畑は青々と茂り、目に眩しく映った。電車の外の景色は、めまぐるしく巡っていく。

 サイプリスの衝撃的な告白を受けてから数日の間は、サイプリスの冗談かと思った。けれどどうやら、冗談ではないらしい。彼はある新聞記事を見て欲しい、と同封してきた。言われるがままに記事に目を通した流惟は、はて、と首を傾げた。


『T県春日町で女性の痛いが発見された。死因は自宅のベランダからの転落によるものとみられている』


 亡くなった女性には悪いが、これといって大事件と言うわけではない。実際、記事もそれだけであり、深く追及はされていない。この記事とサイプリスがヴァンパイアであることとの間に何かしらの関係があるとは思えない。けれどサイプリス曰く、その女性の死因は転落死はなく、失血死―――サイプリスに血を吸われたせいだという。

 サイプリスは流惟に自分の屋敷にきてほしいと頼んだ。

危険なことは容易に想像できる(それはサイプリスがヴァンパイアであるなしにかかわらずだ)。けれどあえて、彼女はサイプリスの屋敷に行くことにした。丁度夏休みだし、何よりサイプリスを助けなければならない。ここまで関わった以上、死ぬかもしれないサイプリスを見捨てるわけにはいかなかった。


「流惟、あまり身を乗り出すなよ」

「大丈夫、那由多せんせ。風が気持ちいいよ」

「あぁ。ここまで吹き込んできてる」

 叶那由多(かのうなゆた)はふぅと溜め息を吐きながら、流惟に笑みを見せた。

 流惟ははじめ一人でサイプリスの屋敷に行こうとしていた。それをうっかり那由多に漏らしてしまうまでは。那由多は当然のことながら猛反対したが、流惟の意思が揺らがないと分かると、自分も付いていくと言い出したのだ。流惟も一人でヴァンパイアの屋敷に行くのはあまりに不安だったので今に至る。

 流惟は、昔から自分に甘い彼の向かいに座りなおした。

「せんせ、病院の方は大丈夫なの?」

「親父に任せてきたからな。まだ若いんだし、平気だろ」

 那由多は煙草吸うぞ、と断りを入れてから胸ポケットの煙草箱を取り出した。

 確かに、那由多の父はまだ50代にもなっていない人で、病院を早々に那由多に譲って以来は『ご隠居』としてあちこちを旅したり、たまに病院で那由多の代わりに診察をしたりしているようだった。気楽なもんだよな、と父親以上にしっかりした息子は溜め息をつく。


「何度も言うが、流惟」

 那由多は紫煙を吐きながら真面目な顔をつくった。お医者さんなのに体に悪いことをしているなんて矛盾してるなぁ、などと考えていた流惟は短く返事をして彼の顔を見返す。

「危ないことは絶対にするな。必ず俺を頼れ」

「あいっ」

 大きく頷くと、那由多は満足そうに表情を崩して流惟の頭を撫でた。

「…………那由多せんせ。サイプリスさんは、本当に吸血鬼だと思う?」

「さぁな。そんなものはいないと思いたいね、俺は」

「せんせ、怖い?」

「怖がっているのはお前だろう」

 流惟が笑みを含んだ表情で訊くと、嘲笑で返されてしまう。あながち間違ってもないので、流惟は笑って誤魔化した。




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