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ACT.1 Chap.2



Chap.2



翌朝、恐る恐るポストの中を覗いた流惟は、ほっと胸を撫で下ろした。あの変な手紙は入っていないようだ。


昨晩は手紙が気になってあまり眠れなかった。―――誰があんな手紙を書いたのだろう。いたずらだとは思うが、もし本気だとしたら。

差出人は、自分の知り合いなのかもしれない、思う。全くの他人に、殺してほしいと頼まれるいわれはない。


流惟は、頭の中が混乱するのを感じた。推理小説などといったものについぞ縁のない生活を送ってきた彼女である。手紙の差出人を推理して見つけ出すなんて、到底無理な話だ。


流惟はリビングのテーブルの上に新聞を置くと、そのまま自分の部屋へ引き上げた。午前六時。朝食にはまだ早い。起きるのが早すぎたようだ。


ベッドに寝転がり、せっかくの春休みだし、もう一眠りするのも悪くないかもしれない、などと思う。―――そうだ、そうしよう。思い付いたら即行動、が流惟の信条だ。

布団を被って目を閉じたちょうどその時、背後で何かが落ちるような音がした。動くのも億劫だったが気になり、ゴロリとそちらに寝返りを打つ。


目に飛込んできたのは、フローリングの床の上の白い封筒。


流惟は背筋が寒くなるのを感じた。部屋の窓は少し開いているが、人が入ってきた気配はないし、そもそも入って来れる訳がない。流惟の部屋は二階なのだ。わざわざ手紙を届けに壁をよじ登ってくる人がいたらお目にかかりたいものだ。


――でも、じゃあ手紙はどこから?


流惟は高鳴る心臓を押さえて封筒の中の紙を取り出した。昨日と全く同じ真っ白な横罫の便箋。震える手でそれを開き、目を落とした。


『わたしを殺してください』


昨日と同じ言葉が、流麗な文字で綴られている。流惟はシャツの胸元をぎゅうっと掴んだ。


いったい、誰なんだろう。こんな君の悪いいたずらをするのは。


ふと、もう一枚あることに気が付く。流惟はそれをゆっくりと読み始めた。



『いきなりこのような手紙を送りつけて、申し訳ありません。

けれどどうか、お願いいたします。

わたしを殺してください。

わたしはサイプリスと申します。あなたは憶えていないかもしれませんが、わたしはあなたと以前お会いしたことがあります。

わたしを殺してください。

あなたからの良い返事を、心よりお待ちしております』


流惟は手紙から目がはなせなくなる。君が悪く、悪質ないたずらだ。サイプリスなどといういかにも仮名じみた名前を使っていることにも信用がいかない。

けれど流惟は、このサイプリスが、ふざけているようには、どうしても思えなかった。何故かはわからない。手紙の、『あなたは憶えていないかもしれませんが、わたしあなたと以前にお会いしたことがあります』という一文が気にかかるからかもしれない。……これだって、口先だけの嘘であるだろうに。

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