ACT.4 Chap.3-2
「ルイは私にとっての希望だ」
「―――それほど大切に思っている子に、殺しをさせるってのか。流惟にはあんたを殺すなんて無理だ。そもそも、まだ流惟は中学生だぞ? そんな子供に人殺しをさせたら、一生罪の意識を抱えて生きることになる」
サイプリスの胸倉を掴まんとばかりに怒りを露わにした那由多は、流惟を起こしてしまわないように、あくまで押し殺した声で続けた。
「あんたは流惟に、自分と同じ思いをさせるつもりか?」
「同じではない。―――私は、化け物だ。ルイは殺人を犯すのではない。化け物退治をするだけだ」
「詭弁だ。そうやって割り切れるほど、流惟は大人じゃない」
那由多の言葉に、サイプリスは目を伏せた。それはよく分かっている、と眉根を絞る様には、彼の流惟を大切に思う気持ちが十分すぎるほどよく現れていた。けれども那由多の口調は険しいままだ。
「どうしても死にたいのなら俺が殺してやる」
「いや―――君に私は殺せないよ」
「何だと?」
那由多の瞳が物騒にぎらつく。サイプリスは話を聞いてくれ、と彼の手を握った。―――あまりに冷たいその感触に、那由多が僅かに身じろぐ。
「ルイは私にとって希望だ。―――それと同時に、銀の弾丸なのだよ。血の呪いというのかな、ヴァンパイアはヴァンパイア、もしくは己の血を与えた者にしか殺すことが出来ない。君はリョウの―――限りなく銀の弾丸に近づいた男の曾孫だけれど、きっと殺せないよ」
「だから流惟なのか? 他にあんたが血を与えた人間は、」
「後にも先にも、ルイひとりだろうね」
「曾祖父さんが、あんたの銀の弾丸に限りなく近づいたと言ったな」
確認するように詰問した那由多は、しかし何か確信を抱いているようだ。サイプリスは少し怪訝そうに首肯する。
「だが、それは私が彼に心を開いたという意味であって―――」
「それだけじゃあねえだろ。……いや、あんたは知らないのかもしれないな。曾祖父さんはあんたの病気及び、吸血鬼になってからの体質を研究していたようだ。―――その研究を紐解けば、何かしら分かるかもしれねえな」
「え……、」
いよいよ目を見開いたサイプリスに握られたままだった手を払って、那由多は先程まで読んでいた和綴じの冊子を手に取った。
「―――流惟に何かあったら、あんたの血を無理矢理飲んででも殺すからな」
そう言い置くと、那由多は忌々しげに舌打ちをして部屋を出る。取り残されたサイプリスは、呆然と、閉じられた扉を見つめた。
.




