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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

関西夫夫

杏仁豆腐

作者: 篠義

ぶらりと休日に買い物に出かけた。年末だからというわけでもないし、クリスマスだから、というわけでもない。知り合いに送る荷物があって、それのおまけに入れておくお菓子を用意したかったからだ。


「あのおっさんやったら、酒やろ? 」


 荷物は、嫁がオークションで手に入れたDVD五巻で、それを、中部地方に転勤している知り合いに送る。そのおっさんは、俺の嫁の保護者みたいなもので、俺と嫁が纏まる時に試練まで与えた迷惑なおっさんだ。


「酒? 割れるがな。酒のアテでええねん。そのほうがええ。」


 で、まあ、それだけを送るのも素っ気無いから、おまけを入れるらしい。


「ほな、俺も、日ごろのご愛顧に感謝して送ったろやないか。」


 もちろん、その性格の悪いおっさんに送るなら甘ったるい菓子だ。辛党には辛いものがよいのだ。


「・・・・あのな、花月・・・・」


 俺が放り込んだものを見て、俺の嫁は苦笑する。あまりにもなお菓子だったからだろうと思ったら、違っていた。


「あのおっさんな、甘いもんもいけるからな。」


「え? 」


「俺は甘いもんがあかんから、おっさんは俺の前で食べへんだけや。」


 それでも送るのか? と、笑われたが、まあ、よかろうと俺も頷いた。なんだかんだとおっさんは邪魔をするが、それは、概ね、俺の嫁に対する気遣いでもあるからだ。たまには、旦那らしいことをしても罰は当たらない。


 買い物を済ませると、小腹が空いたからと、飲茶の店に入った。そこで、嫁がメニューを見て、「ん? 」 と、目を開いた。


「なあ、これ、食おう。」


 そこに書かれていたのは、『地上最強の杏仁豆腐』という文字。甘い物が苦手な俺の嫁だが、こういうものは食べる。プリンとかゼリーとか、それでも甘すぎたら、俺に押し付ける。


「ほおう、話のタネにはなるな。」


 注文したものは、すぐにやってきた。シロップも果物もないただの白い塊だ。はあ? と、俺の嫁は、一口スプーンですくった。


「ん? 」


「なんよ? その反応は。」


「えーっと・・・・・牛乳かんに、杏仁の粉? 」


 その言葉に、俺も一口。


・・・・あー、これは、もみないのー・・・・・


 牛乳の寒天に、杏仁の粉を少し混ぜたもので、おいしいというほどではなかった。これなら、俺が作るほうがうまいし、コンビニのやつのほうがええくらいやと思われる。


「もしかしてな。これ、地上最強にま・・・」


「待て、水都。みなまでに言うな。わかったから。」


「帰ったら作ってくれ。おまえのんほうがうまいわ。」


 食べ残すことはせずに、もぐもぐと口に放り込み、うちの嫁は、ジャスミン茶を啜った。そりゃそうやろう。おまえの好みに調整してあるんやから、俺が作るもんのほうがうまいに決まっている。


「作ったるで、これぐらい。ああ、ほんなら、寒天買わなないな。それに、杏仁の粉もな。」


「ほんなら、晩ごはんは中華にしよか? 俺、エビチリするわ。」


 ふたりで、晩ごはんの献立を組み立てて、店を後にした。俺の嫁のエビチリは、辛いものが、あまり得意ではない俺でもうまい辛さのものだ。たぶん、どっちもが相手の好みを知っているから作れる。そう考えたら、俺らにとって地上最強と名付くものは、ふたりが作るものであるということらしい。



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