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Countdown5  作者: 三澤賢司
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第27章 Countdown5

第27章:株式という名の「動く資本」――政策投資とプール論の幻想

財務省・主計局、特別審議室。

主席主計官の鋭い問いかけに対し、若手官僚はこれまでの議論を立て直すべく、国家が保有し得る具体的な資産の代表格として「株式」の可能性を切り出した。

「主計官……デリバティブがダメだと言うのなら、王道を行くべきです。例えば、政府系金融機関が民間企業の株式を大量に保有・運用する形であれば、確実な資産担保に基づく『蓄財プール』として機能し得るのではないでしょうか?

現実として、株式会社化された政府系金融機関や官民ファンドでは、特定企業の株式を保有することが認められています。これをインフレ抑制のための資金隔離スキームに転用できないかと考えました」

主席主計官は冷ややかに鼻を鳴らし、ホワイトボードに「株式保有」と大きく書き記した。

「結論から申し上げよう。政府系金融機関が『株式を保有すること』自体は法律上可能であり、実際に行われている。しかし、それがインフレ抑制のための『蓄財プール(マネーの隔離・凍結)』として機能するかというと、答えは『ノー』だ。

なぜ株式の保有が『蓄財プール』になり得ないのか、その構造的な理由と、政府系機関における株式保有の本当の目的を整理しておこう」

一、なぜ株式保有は「インフレ抑制のプール」にならないのか?

主計官はホワイトボードに三つの致命的な矛盾点を描き出した。

① 株を買うことは「マネーの移動」であって「消滅(不胎化)」ではない

「政府系機関が市場から株を購入するとき、手元の現金を売り手である民間投資家や企業に支払う。このとき、現金は政府系機関の口座から民間へ移動しただけであり、市中のマネー総量(マネーストック)は一ミリも減っていない。インフレを抑えるための『マネーの回収・引き締め』としては、完全に機能を欠いているのだ」

② 株式は価値が激しく変動する「リスク性資産」である

「インフレ抑制のために現金をプールしておきたい、あるいは価値を安定させたいという目的なら、価格が乱高下する株式は最悪の選択肢だ。ひとたび金融市場で株価が暴落すれば、政府系機関が保有する『蓄財』の価値も一瞬で目減りし、国家の財政基盤を揺るがす。安全な貯金箱として機能するはずがない」

③ 株式保有の目的は「蓄財」ではなく「政策投資」である

「そもそも、政府系機関が株式を持つ目的は、お金を金庫に溜め込んで増やすことではない。『成長分野の企業を支援する』『インフラや産業の基盤を支える』という、極めて能動的な政策的資金供給(リスクマネーの供給)にある。株式とは、長期間じっと動かさずにプールしておくものではなく、企業の成長に合わせて動かすための『資本』なのだ」

二、制度の目的を取り違えることの危険性

「若手……お前が目指している『還付付きインフレ抑制プール』の思想は美しい。だが、マクロ経済のインフレ抑制(マネーの不胎化)と、ミクロ・メゾ経済の産業支援(株式投資)を混同してはならない。

マネーの不胎化に必要なのは、『流動性を完全にフリーズさせ、市場から物理的・制度的に隔離すること』だ。企業を応援するための株式投資とは、ベクトルが真逆なのだよ」

審議室の空気は再び張り詰めた。

経済の安定と流動性のコントロールを両立させるための「正しい金庫」は一体どこにあるのか――。

若手官僚は己の甘さを噛み締めながら、次なる一手へとと思考を巡らせ始めた。

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