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運の良いアシュレイ

 次の日、放牧地でアシュレイを待ち伏せしていたアンガス達は、いつまでたっても現れないので困っていた。


「なぁ、もう俺も家の牛を連れて帰るよ」


 昨日も遅くなって父親から叱られた男の子達は、今日は放牧地から家畜を連れて帰るなら良いかと待ち伏せに参加したのだが、どうもアシュレイは現れないので嫌気がしてきた。


「アシュレイの家の家畜はまだいるんだろう。なら、すぐに現れるさ。今日は家に帰ってからここに来るんだろう」


 アンガスとその手下扱いの子たちが放牧地でごたごたしている頃、アシュレイは祖母の手伝いをしていた。


 まだ幼いアシュレイを祖父は畑仕事はさせなかったが、祖母が作っている菜園ぐらいならと手伝わせていたのだ。


 トマトの支柱を立てながら、アシュレイは祖母に大好きなトマトソースをねだっていた。


「トマトを収穫したら、美味しいソースを作るんだね」


「そうだよ。一年中、食べれる様にいっぱいトマトを収穫しなきゃね」


 町育ちのアシュレイは、農作業には慣れてはいなかったが、とても性に合ったようだ。


 父親や母親が流行病で亡くなったのは悲しくて、時々、枕を濡らす日もあるが、港町の生活より祖父母との農業生活の方がアシュレイには向いていたのかもしれない。


 トマトの支柱を立てていたアシュレイに祖母は「そろそろ牛を放牧地から連れて帰っておくれ」と言った。


「うん、でも、もう少しで終わるから……」


 アシュレイは、何となくトマトの支柱を立てるのをやめたくない気がしたのだ。


「おやまぁ、じゃあ私が牛を連れて帰るよ。そうそう、ジェーンの家に型紙を貸す約束もあったんだよ」


 ジムの母親に借りていた子ども服の型紙を返そうと、祖母は出かけた。


 こうして、アンガスの待ち伏せを二日続けて回避したのだ。


 ジムはさっさとアンガスの誘いを振り切って牛を家に連れて帰っていたので、アシュレイの祖母のアメリアが型紙を返しに来た時は、台所でおやつを食べていた。


「まぁ、アメリア。こんな型紙、返してくれなくても良かったのよ。だって、うちにはもう小さい子はいないからね」


 アシュレイより一つ年上のジムが末っ子なので、小さな子ども用の型紙はジェーンには不要な物だった。

 律儀に返しに来たアメリアをお茶に誘う。


「いや、折角のお誘いだけど、これから牛を連れに行くんだよ。アシュレイはトマトの支柱を立ててくれているんだから」


 ジムは母親とアシュレイの祖母の会話をこっそり聞きつつ、バターの付いたパンをかじっていた。


……アシュレイはどうやらアンガスの待ち伏せには引っかからなかったようだな。それにしても運が良い……


 その後も、アンガスの待ち伏せを回避し続けたアシュレイだった。


 アンガスも何日も家の手伝いをさぼって父親に拳骨をもらい、待ち伏せに付き合ってくれる子分もいなくなったので諦めた。


「アシュレイ、この宿題なんだけど……」


 その上、年下のアシュレイに宿題を聞く男の子が出てきた。


 アンガスにとっては腹立たしかったが、アシュレイはナンツの遊びも知っていて、それには弱かった。


「アシュレイ、まぁ、お前は俺の子分の一人にしてやるよ。で、ナンツじゃあどんな遊びが流行っているんだ?」


 アシュレイは、アンガスの子分になんかなりたくもなかったが、お隣のジムや同じ年の男の子達も全員なっているので仕方ないと諦めた。


 それに、アシュレイは自分の秘密を隠していたので、これ以上目立つのはまずい気がしたのだ。


 とは言え、まだ幼いアシュレイは無自覚に能力を使っていた。


 空に筋を付ける妖精のことなどを言わなければ良いのだと思っていた。


 幸いな事に、村の学校にいる生徒達も幼く、それが異常な事だとわからなかった。


「明日は雨が降るから、外では遊べない。だから、何か教室で遊べる物を用意しなきゃ」


 ナンツと違い田舎ではゲームなど売っていない。


 でも、木のかけらとかは納屋などに各家庭に転がっている。


 それに男の子は小さなナイフをたいがい持っていた。


「アシュレイ、何しているの?」


 昼休みなのに雨だから外で遊べない。女の子達はおしゃべりしているが、男の子達は退屈を持て余していた。


 教室の隅で、家から持ってきた木のかけらを小さなナイフで削っているアシュレイにジムは声をかけた。


「雨の日に遊べるゲームを作っていたんだ。ジムも暇なら手伝って」


 アシュレイは木の板に双六の道を書いていたし、サイコロは祖父に作ってもらったが、コマを何人か分作ろうとしていたのだ。


「へぇ、これがコマになるんだね。なら、自分の名前を削ったら良いかも」


 ジムの提案にアシュレイも笑って同意する。

 それで男の子達は自分のコマを作り出したのだが、女の子も雨の日に遊べるなら参加したいと言い出した。


「なら、自分のコマを作れば良いよ」


 アシュレイがにこやかに家から持ってきた木屑を差し出したが、女の子はナイフなんか持ち歩いてない。


「アシュレイ、馬鹿だなぁ。サリー、俺がお前のコマを作ってやるよ」


 学校一番の可愛い子ちゃんのサリーにいい顔をするアンガスだった。

 ジムは、見え見えだと内心で笑ったが、自分も好きなマーガレットの為にコマを作ってあげる事にした。


 こうして、雨の日は双六をして遊んだりしながら、アシュレイは村の学校に馴染んでいった。


……それにしてもアシュレイの天気予報はよく当たるんだよね……


 ジムは家が近いので学校が休みの時も遊んだりするのだが、「明日は雨だから魚釣りはやめておこう」とか、アシュレイの言うとおりにしたら上手くいくのだ。


「そっか、アシュレイは運が良いんだ!」


 まだ村の人はアシュレイの隠された能力に気づいていない。


 それどころか、アシュレイ本人すら知らなかった。


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