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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第二章:初めてのコイ

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8.自由研究

 誰がどう見ても犬の散歩中なミクは、いつものような清楚な雰囲気のスカート姿ではなく、Tシャツにショートパンツとスパッツを組み合わせたランニング女子スタイル、つまり土手で良く見かけるファッションだった。


 だがそれが同じ小学六年生とは思えない雰囲気だったため、僕はドキドキしてしまっている。どうかこの胸の高鳴りが誰にもばれませんようにと願いながら、自分の意識をそらすために別の話題を持ち出した。


「すごいぺちゃんこだね、この犬の顔。ミクの飼ってる犬なの? ブルドックじゃないよね?」はっきり言って犬の種類に興味があるわけじゃないけど、ミクのことなら何でも知りたい気持ちからの質問なのは間違いない。


「私の犬ではないわよ? これは地球の犬だし。ブルドックじゃなくてパグって言うの。ブサ可愛いわよね」ミクは意外にも宇宙犬だとは言いださなかった。いや、意外と言うか当たり前のことか?


「この時間に散歩してたら暑すぎないか? 近所の人たちは夕方に行ってるみたいだけどなあ。それに明日は昼過ぎにここへ集合なんだけどミクも来られるかい? 散歩が日課なら難しいかもしれないけどさ」


「ええ、もちろん大丈夫、でもまた私が混ざってもいいのかしら? 健二はあまり面白そうな顔をしていないけど?」


「ちぇ、呼び捨てにすんなよな…… 別にオレは構わないさ。その代り、オレが先に釣り上げても泣くなよ?」健二は前回ミクが手を加えて釣れたことが悔しかったのだろう。僕は自分の竿で釣ったから自分の手柄だと思いこんだため、悔しさを感じることが無かったのだと気が付いた。


「そんなことでいちいち泣いたりしないわ。誰かが釣りあげたら友達みんなの成果だと思わない? それが友情だと考えているけどキミたちは違った?」ミクの言うことはまさに青臭い友情論で口にするのは恥ずかしい。でも実際に頭の中ではそう考えていておかしくない。


 僕は全員の顔を見回してからうんうんとうなずいてミクに同意した。だが、そう言いだしたはずのミクの顔は何となく影が差したように見え、今言ったことは必ずしも彼女と友達の関係性ではなく、願望や理想を述べただけな気がした。


 かと言ってそんなことをいつまでも引きずる僕らじゃない。明日の予定は決まったことだし、今日はこれからどうしようと言うことに話は移っていった。


「そういや健二と暦は自由研究決めたのか? 今年も一緒にやるか?」涼太は毎年こうして誘ってくれるのだが、それは自分が楽をするためじゃなく、僕らが楽できるように協力してくれているのだ。


「毎年悪いなあ。でもそうしてもらえると助かるよ。んで今年は何かもうアイデアあるのか?」健二が涼太へと確認すると、涼太はもちろん、と胸を張った。


「せっかくだからさ、この夏休みで釣った魚図鑑ってのはどうかなって。夏休みに入ってからボソにハヤだろ、ギンブナにこないだのニゴイでもう四種類だぜ? あんまり数が多くなると暦は大変かもだけど、まあ多少は分業できるだろ」


「なんでこよみが大変なの? 三人で協力して取り組むんでしょ?」何も知らないミクにとっては当然の疑問だろう。


「去年は身近な野鳥の観察、一昨年はハクビシン目撃情報マップってのをやったんだけどさ。そのレポートの絵を僕が描いたんだよ。絵はまあまあ得意なんだ。健二は図鑑で特徴とか生態系とかを調べてまとめる係、それを最後にまとめるのが涼太総監督って感じさ」


「へえ、それぞれの得意を活かすってわけなのね。私から見ると君たちの仲の良さを観察する方が研究になりそうに思えるわ。それと――」ミクは何か言いたそうに言葉を溜めてから続きを口にした「私も混ぜてもらおうかな。実はテナガエビ釣りに興味があるから釣り方を教えてもらいたいの」


「おっ! いいねえ、なら明日はテナガエビ釣りにしようぜ。そしたら週末のおやつも決まりだし」


「それも悪くないけど鯉はどうするんだよ」僕は乗り気の健二へ抗議するように横槍を入れた。


「別に同時にやればいいじゃん。鯉のエサは用意してくるから暦と俺は鯉を狙いつつ待ってる間にテナガエビもやるってことでさ。でもそうするとミクちゃんに教える適任者がいないかもしれないなあ」涼太は何か言いたそうに僕をチラ見してからミクを見た。


「大丈夫よ、仕掛けと餌だけ教えてくれれば付っきりである必要はないわ。でも道具は貸してもらえる? 地球へはなにも持ってきてないの」その言葉を聞いた涼太は僕に目配せをしている。


「わかったよ、僕がミクの分も用意してくるから安心して。餌はどうしよう。今からサシを買いに行ってもいいけど魚肉ソーセージ(ギョニソ)でいいか。昨日父ちゃんがつまみにしてたからまだ残ってると思う」


「念のためオレもカマボコかなんか用意するぜ。まあアイツらはそれっぽい餌なら何でもいいんだから楽でいいよな」テナガエビ釣りと言えば健二の得意分野である。去年の夏休みには山ほど釣って飽きるほど食べたもんだ。


「こんな都会の川で釣ったエビを食べるなんて想像もしてなかったから刺激的ね。この辺りでは普通のことなのかしら?」


「普通だと思うけどどうだろう。他にも春にはつくしを獲ったり、イナゴを獲ったりして食べるしなあ。うちの父ちゃんは鯉釣ってきたら捌いてやるって意気込んでたから食べる気満々だと思うよ?」


「本当はウナギが釣りたいけど、基本的には夜釣りだから本気なら夕方からなんだ。だから小学生だけじゃダメって言われちゃうんだよね。なのに誰の親も一緒に来てくれないんだから参っちゃうよ」


 健二の父親はアウトドアが好きじゃないと聞いたことがある。涼太の親は家業の和菓子屋が忙しいから絶対に無理だろう。なので頼りになるのはうちの父ちゃんだけなのだが、基本的にものぐさで酒飲みなので泊まり以外ではどこへも連れて行ってくれない。


「大人は仕事をしてるからって言われてしまうと言い返せないんでしょ? 子供の自由は行動範囲の狭さがあるからこそ許される自由なんだと思うわ」


 ミクにしてはやけに現実的な発言だと思ったが、あえて突っ込みはしない。僕はちょっとぶっ飛んだミクに魅力を感じているから、その良さが無くなってしまうようなきっかけは作りたくなかった。


 だが今日のやり取りでミクは地元出身じゃないことと、こんな東京の端っこを都会呼ばわりする地方の出身らしいと言うことがわかった。宇宙の田舎からやってきたのでなければ、何らかの事情でこの近所へやってきているのだろう。


 しかもそれは夏休みの間だけの期間限定だとすでに聞いているので、僕は一緒に遊ぶ約束ができたことを単純に喜んでいた。


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