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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第二章:初めてのコイ

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6.ずれた見立て

 ほうっておいて作戦会議をしていた割りには特に不機嫌にもならず、行儀よく待っててくれたミクだったが、それでも僕と健二の相談が終わったことにホッとした様子を見せた。


「もう内緒の相談は終わったの? 図書館へ行くなら早く行きましょうよ。地球の昼間は暑くて仕方ないわ」聞きなおすまでも無く誘いを受けてくれる気のようだ。


 彼女は折りたたんだままのタオルハンカチを両手で持って、額へ押し付けるように汗を吸い取っている。それは同級生には見られない仕草のためか、やけに大人びて見えた。


 片や僕たちはと言えば、手のひらで汗をぬぐった後は空中で手を振って勢いよく飛ばしたり、いいとこズボンの尻ポケの辺りで拭うのが関の山である。


「別に内緒ってわけじゃなかったんだけどさ。ダラダラしに行くのに誘ってどうするって気もしたからね。それでもよければ一緒に行こう。少なくとも表よりは涼しいからさ」


 ミクは僕の言葉にうなずいて後ろから歩いて付いてきた。健二と涼太は自転車をのろのろとこいでいるが、僕の自転車は夏休み直前に父ちゃんの車に轢かれて壊れたままで、今は母ちゃんと共用になっていて自由に使えない。


「ミクは自転車持ってるの? そもそも乗ったことある?」並んで歩きながら何かしら話がしたくて、また失礼と取られかねないことを言ってしまった。


「自分の自転車は持ってないわね。でもあれくらいならきっとすぐに乗りこなせるわ。車輪の回転によるジャイロ効果とハンドル操作による重心移動を意識するだけでしょ? 簡単そうね」


「う、うん? そうなのかな? ジャイロとかよくわかんないけど重心移動は合ってると思うし、そんなに難しくないのも確かだね。僕は乗れるようになるまで父ちゃんが土手で教えてくれたけど、そりゃもう厳しいのなんのって」


 そんなたわいもない会話をしていると、いつの間にか図書館まで目と鼻の先までやってきた。今来たバス通りからこの角を右へ入ると図書館のある区の施設がすぐそこに見えてくる。


 どうやら似たようなことを考えてたやつらが他にもいたらしく、見知った顔が数人たむろしていた。その中の一人は僕を見てあからさまに嫌な顔をしている。夏休みに入ってから初めて会ったってのに随分な扱いだ。


「どうせ三バカは宿題も持たずにただ涼みに来ただけなんでしょ。ああ、三バカは言い過ぎたわね。涼太はバカじゃないから二バカだった」


「だから図書館はいまいち乗り気じゃなかったんだよ…… こうして突っかられんのはレキのせいだからな」健二がこの一方的な侮辱を僕のせいだと文句を言ってきた。


 だがそれを否定しきれないくらいに、僕はこの五色(ごしき)櫻子(さくらこ)に嫌われているのだ。しかも健二や涼太たちと同じく幼馴染と言うことで遠慮が無くて困る。


「この暑いのにくだらないことで腹立ててさ、相変わらず櫻子はエネルギーが有り余ってるなあ。僕なんてここまで歩いて来たからもうヘロヘロだってのに」


「うるさい! 櫻子って名前を呼び捨てにすんな! バカッ!」軽く茶化しただけなのに、櫻子は本気で怒ってしまい、僕へ追加の罵倒をぶつけると数人の女子と共に自転車で走り去って行った。


「今日は短く済んで良かったぜ」健二が苦笑いしながら涼太へ同意を求める。


「アイツらはきっとゲーセン行ったんだよ。同じ塾の女子に聞いたけど、最近またプリが流行ってるらしい。中学受験するヤツがいると流行りがちなんだってさ」この三人の中では唯一塾通いしていて外部との接点がある涼太は、僕や健二よりは大分情報通である。


「女子ってプリ好きだよなあ。うちの母ちゃんも昔めちゃハマってたらしくて、こんなシール帳を何冊も持ってるよ。もう色抜けちゃって何が写ってるかわからないのばっかなのに捨てないんだぜ? 俺にはなんでも捨てろって言うくせにさ」


「いや、健二は色々捨てた方がいいと思うけどな。一学期にも五年生の教科書持ってきてたじゃんか。ウケ狙いって言われた方がまだイジリがいがあったっての」


「そうだよ、こないだ遊びに行ったときだって三年生の遠足のしおりが机の上にあっただろ? いくらなんでも物持ちいいってレベルじゃないよ」僕も涼太と一緒になってからかった。


「残してても困ってないからいいんだよ。教科書はまあ持っていくの間違えることもあるけど…… そんなことはどうでもいいから、とにかく中へ入ろうぜ、暑くてもう無理だ」


 もっともな意見に全員が賛同し、僕ら四人はぞろぞろと図書館へ入って行った。中にもクラスメートが何人かいて無言であいさつを交わす。しかしその直後、男子は決まってミクのほうへと視線を移していた。


『やっぱりミクってかわいいからみんな気になるみたいだな』僕はこそっとミクへ耳打ちした。


『随分簡単に女性を褒めるのね。小学生男子ってもっと恥ずかしがり屋だと思っていたから少し驚いちゃう。でもありがと』ミクも僕へと耳打ちをしてきた。


『思ったことは口にして伝えるようにしないと良い男にはなれないんだってさ。うちの父ちゃんってそう言うとこうるさいんだよ。お陰で母ちゃんにしょっちゅう怒られてるのに全く懲りる気配がない困ったオッサンさ』


『だからなのかしらね。さっきの櫻子って女子の前でも同じなんでしょ? そりゃ好きな男子が誰にでもいい顔してるの見れば、彼女が機嫌悪くして当然だわ』ミクが勝手な考察を始めたので僕は完全に否定した。


『違うんだよ、あいつは保育園の頃からすぐ僕に突っかかって来てたんだって。最近はそうでもないけど、低学年のころまでなんてしょっちゅう殴られてたからね』


『あはは、それはそれは凄く嫉妬深い性格だわ。それとも保育園の頃からこよみに口説き癖があったからいけないのかどっちでしょうね』


 僕は改めて完全否定しながら、机の上に釣魚図鑑を広げてパラパラとめくっていた。


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