46.オンナの荒っぽい友情
どうやらまた約束を破ってしまったようだ。この短時間にすでに三度は櫻子と言いあいをしていて弁解の余地はない。しかもさっきのように号泣されるよりも、今みたいにしくしくと泣かれる方が心が痛むのはなぜだろう。
ミクの泣き方は本当に心から悲しそうで見てる方も辛くなる。それなのに、泣きだすタイミングを失った櫻子は腹いせなのか何なのか、ミクへ向かってまた感情をぶつけはじめた。
「ちょっとなんでアンタが泣きだしてんのよ! 泣きたいのは好きな男子に滅茶苦茶言われたコッチだっての。そうやって泣いてればレキが優しくしてくれるのわかってるからなんだろうけどあざとすぎるよ、まったく」
「えっく、ぃひっく…… 違うの。ホントに違うんだから…… 私はこよみが櫻子と喧嘩できる関係なのが羨ましいんだよ。嫉妬で気が狂いそうになるくらいうらやましいんだからね? 自分たちばっか付き合い長くてずるいよ……」
「そ、そんなこと言われても同情しないから。アタシが好きで近所に生まれたわけじゃないし、ただの偶然なんだから責められる筋合もないっての」櫻子の言い分はもっともと言うか、ごく当たり前のことだ。
「でも結果的に好きになってるんだから得してるじゃないの。私は二人の関係が羨ましくて仕方ないんだもん。でもこれから先どうあがいても追いつけないし、得られないでしょ? そう考えると胸が苦しいよ……」
「はあ? ついさっき自分で言ったばっかじゃん。年月なんて関係ない、これから取り返すとか何とかさ。あれは結局強がりだったってこと? だったら素直に引き下がればいいのに」
「それとこれとは話が別でしょ? 多分この先何年経ってもこよみは私に向かって本気で怒ってなんてくれない。まあ将来仲が悪くなったら夫婦喧嘩はするかもしれないけどそう言う意味じゃないの」
「なにそれ、ノロケのつもり? ミクってばいちいち気に障ること言うわよね。絶対に自分の勝ちを疑わないってとこが腹立たしいんだよねえ。アタシなんて勝負を挑む前に負けちゃって、それがわかってんのに告白させられたんだからね?」
「させられたって何よ。櫻子がだらしないから背中を押してあげたんでしょ? 感謝してもらいたくらいだわ? そりゃ恋の勝負は私の勝ちかもしれないけど、一人の人間として見てもらえたことは無いんだよ?」
「言いたいことはわからなくもないけどね。アタシもレキがあんな態度だからきっとアタシのこと好きなんだってずっと思ってたし…… それが違ったってわかったのはアンタが現れたからなんだよ? 逆にミクにその悔しさがわかる?」
「まあそのことに関しては同情しなくもないかな。はっきり言って女子全員に優しい男子が自分にだけ違う態度ってのは勘違いの元よね? だからこよみには、今後一切櫻子に特別な態度を取らないようにって言ったんだもん」
「まったく余計なことしてくれるわよ。アタシは別に構わなかったのにさ……」
「アナタが良くても私が嫌なの! なんでそれくらいわかってるのに意地悪言うのかしらねえ。性格悪すぎなんじゃないの? だからモテないのよ」ミクがまたとてつもなく攻撃的になってきて正直ビビっている僕だ。
「そうね、アンタみたいにかわいい態度で甘い声出して甘える女子の方が男子受けはいいからね。でもそう言うのなんて言うか知ってる? 尻軽って言うんだよ!」櫻子の口の悪さもも大概だが、こちらは聞きなれているせいかなんとも思わない。
「うふふ、悔しくてそんな根拠のないことしか言えないんでしょ。私はこよみに対してが初恋だもん。そしてこれが最後の恋になるの。もうキスだってしたし婚姻届だって二人で書いたんだからね!」
「ちょっ、ちょっとミク!? 言いすぎだってば!」僕は大慌てで割って入ろうとしたが、二人とも僕を見て睨みつけてきたので思わず足を止めた。
「キスって…… レキ、それホントなの? まだ小学生の分際で? アタシとは保育園あがる前にしたっきりのくせに? ずるいよ! ズルズルズルズルだあ!」
「なんで私とが初めてじゃないの!? そんなのズルいじゃないの! 出会う前にされたことはもう追いつけないんだってわかってる? ずるいズルいズルいズルい!」
ダブルで大騒ぎされたらさすがに逃げたくなってきた。僕はそっと後ずさりをしながら二人から距離を取ろうとするのだが、向こうもじりじりと近寄ってくるため距離はかわらない。
それどころか我先にと駆け寄ってきたミクと櫻子に挟まれてしまった。すぐに両方の腕をガッチリと掴まれて、逃げることは叶わなそうである。
「あのさ、二人ともちょっと興奮しすぎじゃないか? もっと冷静にさ、冷静に話し合おうじゃない。しかももう時間があまりないよ?」
「そうね、この子のお蔭ですっかり時間を無駄にしたわ。今何時くらいかな。日が傾いて来てるから十六時ごろかもね。あと一時間くらいしかないのかあ」
「なんだ、アンタ今日帰るの? じゃあもうレキとは会えないんじゃん。ザマアないわ。せいぜい文通でもしてみればいいけど、コイツがマメに手紙書くなんて続けられるはずないでしょ」
「なに言ってるの? 普通に電話するし。櫻子なんて中学入ったらもう二度と会わないかもしれないでしょ? 私立なんて勉強大変だし、入ってすぐ高校や大学のこと考え始めるんだから楽じゃないのよ?」
「で、でも土日とか連休とかあるから…… いつでも会えるくらい近いし、何なら朝寄ってから学校行ったっていいんだからなんてことないってば」
「いやいや、毎日朝早くから来られたらたまんないっての。寄り道なんてしてないで真っ直ぐ学校行けよな。せっかくなにか目標があって私立へ行くんだろ? 頑張らないでどうすんだよ」
「―― ないもん…… 別になにかやりたいわけじゃないんだもん…… アタシだって私立なんて行きたくないよ! 今までずっと一緒だったんだから中学だって高校だってレキと一緒がいいに決まってるじゃん!」
「じゃあなんで塾通いまでして私立なんて受けるのよ。行きたくないなら親へ正直に言えばいいじゃない。お金だってかかるんだし」僕もミクと同じことを言おうとしたが、このタイミングで言うと、まるで僕まで櫻子と一緒に通いたいと思われそうでとても言えなかった。
「おばあちゃんもおかあちゃんも通ってた女子校だからアタシもそこ行けって言われてるだけなんだよね。学力的には問題なく行けるだろうし。塾に行ってるのは半分趣味みたいなもんだけど、できれば特待生になりたいからってのも大きいの」
「アナタもいろいろ大変なのねえ。私は親に過大な期待をされてないから状況は全然違うけど、今のままじゃ悪いからなんとか頑張ろうかなって考えてるとこ。その気持ちをくれたのがこよみなの」
「なんだ、じゃあ純粋に恋愛感情だけじゃないってことじゃん。きっとそんなの長続きしないよ。やっぱり親を説得して公立行こうかなあ」
「なに言ってるの? そんなのダメに決まってるわよ。ここまで頑張ったんだからちゃんと私立の女子校へ行きなさいよ!」
和解の雰囲気が流れたと感じた直後、再び不穏な空気になってきた。再開されてはたまらないと考えた僕は、間に挟まれながら両サイドの二人をいさめようとした。
「二人とも落ち着きなよ。櫻子は受験がんばる、ミクは現状打破を頑張るってことなんだから似たもの同士じゃないか。きっと仲良くできると思うよ? だからこれ以上いがみ合うのはやめとけって」
「元凶のアンタがっ!」
「言うセリフなわけ!?」
そして僕は二人から同時にほっぺたへ手痛い一発を喰らった。




