表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:夏の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/50

45.不毛な諍い

 男子ならとっくの昔に取っ組み合いの殴り合いになってそうなくらいに延々と続くこの言い争い。いったいいつになったら終わるんだろうか。そう思っているのは僕だけじゃなく、健二も涼太もすっかり飽き飽きしている様子を隠そうともしない。


 それにしたって次から次へとよくもまあ言葉が出てくるもんだと感心する。つまりミクも櫻子も同じくらい頭の回転が速くボキャブラリも豊富なんだろう。その点では勉強バッカしても意味がないなんてとても言えなそうだ。


 だがいい加減疲れたのか、それとも夏の暑さにやられたのか、どちらも言葉少なになってきた。もしかしたらこのまま熱中症にでもなってしまうかもしれない。さすがに心配になった僕は、肩に下げた麦茶の水筒を持ちかえて二人の真ん中へと差し出した。


「ミクも櫻子もこのままじゃ危ないよ? まだ続けるんなら付き合うけど、ひとまずこれでも飲んで一息入れなって。こんなとこで倒れたら大変だし、理由を聞かれてもみっともなくて説明できないだろ?」


「なに言ってんのよ! 麦茶くらいで誤魔化されないんだから! まったく一体誰のせいでこんなことになってると思ってるわけ!?」櫻子は激怒している。


「いいこと? これは私たちの問題じゃなくてこよみのことなんだからね? そんな他人事では困るわ」ミクの顔も決して笑っておらず僕を責めるように言い放った。


「レキってホントバカだけど空気読まない強さだけは立派だよなあ。ホントマジでバカすぎる」健二が後ろでののしっているが、今は我ながら確かにバカだと思っているので言い返すことができそうにない。


 それでも麦茶を回し飲みしたところで少しは落ち着いてくれたようだ。特に櫻子は顔が真っ赤になっていて熱中症一歩手前って感じに見える。それに引き替えミクは言葉使いは冷静だったが、水筒を高々と掲げているところを見るとやはり同じように興奮していたのだろう。


「ふぅ、生き返ったわ。こよみ、ありがと。でも自分だって飲まないとダメ。ちゃんと水分取らないと体壊しちゃうからね」そう言って水筒の蓋を締めないまま僕へ戻してきた。


「う、うん、まだダイジョブだと思ってるんだけど、ミクがそういうなら飲んでおこうかな。櫻子はもう平気かい?」僕は親切心もあるが、誰にでも分け隔てなく優しくするようにとの約束にもとづいて声をかけた。


 しかしここでなぜか、ミクが怒りをあらわにしながら水筒をグイグイと押し付けてくる。一体何がそうさせるのかわからず、僕は戸惑うばかりである。


「いいからこよみが先に飲みなさいよ! 私がそう言ってるんだからちゃんと言うこと聞きなさい!」あまりの剣幕に思わずたじろいでしまった。


 すると今度は櫻子が声を荒げて水筒を奪いに近づいてくる。そのまま水筒をひったくるとすごい勢いで飲み始めた。このままでは僕の分が無くなりそうだ。


 その心配は的中し、櫻子は喉を鳴らしながら全て飲み干してしまった。今までなら悪態や嫌味の一つでも言ってやるところだが、ミクとの約束もあるのでなにも言わずに傍観していたのだが――


「ちょっと櫻子! なんで全部飲んじゃうのよ! それはこよみの分だって言ったじゃないの! ちょっと! あーあぁ、もう空っぽになっちゃった……」ミクが慌てて取り返したが時すでに遅し、完全に飲み干されて水筒はすっからかんのようだ。


「まあいいよ、そんなに喉は乾いてないし、いざとなったら水道で飲むさ。なんかめっちゃ心配してくれてありがとう」


「違うんだってば、いや、違わないけど…… もう……」ミクは大分不満そうに地団駄を踏んでいる。


「ふん、残念でした。アンタ下心なんてお見通しなんだからね。そうそう思い通りになんかさせるわけないじゃん。まったくザマアミロだわ」櫻子はまたミクへ暴言を吐いているが、ザマアされたのは僕じゃないのかと言いたくなりつつも、二人を刺激しないためには無言が一番だろう。


 だいたいなんでこの二人は意味不明に張りあってるのだろう。僕を取り合ってると言いたげだったがなんてばかばかしいことなんだ。櫻子がいくら態度を改めたとしても、僕はもうミクと将来を共にすると誓ったんだからそれがくつがえることは無い。


 ミクだってそんなことわかってるはずなのに、ここまでムキになって櫻子と張りあう必要があるとは思えない。まさか僕の気持ちを疑ってる? いやきっとそんなことは無く、ただ単にもうすぐ帰らなきゃいけないから気を紛らわしたいのだろう。


 それでもこんなことしてる間に時間はどんどん過ぎて行き、そろそろ陽が傾き始めてきた。僕はどうすることもできず女子の戦いを見守っているが、健二と涼太はいつの間にかどこからかダンボールを拾ってきて土手滑りを始めていた。


 それを見ていると、僕も最後に悔いが残らないくらいミクと遊びたくなり、この場を収めるために声をかけた。決して焦ったわけじゃないのだが、どうやらその言葉でハズレを引いたらしい。


「なあ、いくらなんでもそろそろ気が済んだんじゃないの? なんで二人ともそんなムキになってアレコレやりあってるわけ? 僕のせいだと言っても度が過ぎてると思うんだけど……」


「そうやってなんで他人事で傍観者なのさ。ついさっきアタシが告白したのなんてもう忘れてるでしょ。だからレキってムカつくんだよ。年中の時に始めてバレンタインチョコ上げたのに虫歯治療中だからいらないって断るし、一年生のときだっていきもの係一緒にやるって約束したのに裏切ってやらなかったしさ! ホント扱いがひどすぎるよ」


「あれは裕美がどうしてもやりたいって言ったから譲ったんじゃないか。櫻子と仲いいから良かれと思ったんだよ。そんなこと言ったら三年の時に犬にほえられてたから助けてやったのに、飼い主のおっさんをハゲ呼ばわりして巻き添えで僕まで職員室へ呼び出されたし、去年の大雨の時に自分が傘忘れたくせに僕の傘奪って走り去ったじゃないか。いったいどっちがひどいってんだよ」


「アンタがアタシに冷たくするからいけないんでしょ! アタシ以外の女子にはめっちゃ優しくするくせに、アタシにだけ態度変えるなんて普通じゃないよ。そんなだから―― だから勘違いしちゃったんじゃないの! レキってばおかしいよ……」


 結局いつものように言い合いになってしまい、櫻子の声は先細りになりながら声が詰まってきてまた泣き出しそうだ―― と言ってる側から鳴き声が聞こえてきたのだが、泣きだしたのはなぜかミクだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ