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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:夏の終わり

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43/50

43.昼下がりの劇場

 決して約束を忘れたわけじゃない。なんといっても交わしたのは数分前のこと、これで忘れているなんてヤツは鶏並みの脳みそだと言われても仕方ない。


 だがそれとこれとは話が別だ。


「黙ってたらわかんないじゃないか。なんでこんなとこに来てるんだよ。しかも一人でさ。いつもの取り巻き置いて来ちゃったのか?」


 僕はつい、声を荒げてしまった。すると横からミクが突っついて来てなにか言いたそうに口をもごもごさせる。


 きっと約束したばかりなのにもう守れていないと言いたいのだろう。しかしそう言われてもこれは例外中の例外なのだ。


 コイツとは、もう数年は一緒に遊んでなんかいなかっただけじゃなく、普段から悪態ばかり言い合ってケンカばかりになっている仲だ。いまさらすり寄ってくるような真似されても気分が悪いに決まってる。


「だから暦、そんなに責めることないだろ? たまたま一人で暇してたから来てみただけなんだよな? ほら、櫻子も黙ってないで何とか言えってば」涼太が余計な助け舟を出しているのがまた腹立たしい。


「涼太、そんな奴の肩を持たないでくれよ。いいからどっか別の場所へ行こう。夕方までもうそんなに時間が無いんだしさ。最後は気分よくしめたいんだよ」僕がそう言うと涼太は肩をすくめ引きさがってくれた。


 まさか今日これからミクが帰るから嫌がらせに来たなんてことは無いだろうが、結果としてそうなっているのは間違いない。なんでこんなやつに貴重な時間を削られないといけないんだ。


「わかったら今日はもう帰れよ。僕らがここで集まったのだって櫻子には関係ないことなんだし、これ以上構ってられないんだからな」だが櫻子は帰るそぶりを見せず動かない。それどころか――


「アタシ、別になにか邪魔しに来たんじゃないのに…… くやしい……」そう言って突然ぼろぼろ大粒の涙をこぼしながら泣きだしてしまった。


 今まで泣かしたこともあるし、泣かされたこともあるけど、こんな風に声を押し殺して嗚咽する姿なんて初めて見た。一体何が起きているのか戸惑うばかりである。


 しかし戸惑っている場合ではなくなった。


『パチーン!』

「なによ! だからこよみのそう言うとこって嫌いなの! どうせ無理だと思ってたけど、約束したのはほんの十分かそこら前のことじゃないの? 私だって悔しいって言ったでしょ!」


 そう言いながら興奮したミクは再び僕に向かって手を振り上げた。そのまま胸元へと平手を振り下ろすと泣きながら僕の胸へ飛び込んでくる。コッチはコッチで大声を上げてワンワンと泣きだしてしまい、感情むき出しという差があるが面白がる余裕はなかった。


「これが修羅場ってやつか…… 想像よりもはるかに恐ろしくて、全然うらやましくねえな。涼太も気を付けねえとこうなっちまうぜ?」健二の気楽な他人事が耳に入るが、僕はそれどころじゃない。


「そうだよなあ、痴情のもつれで殺人事件にまで発展することだって昼メロでよく見るからな。それにしても実際に見ると迫力が違うねえ」涼太も調子に乗って一緒に茶化すが、ついさっき口出して来た責任もあるし少しは何とかしようと思って欲しいものだ。


 泣き叫ぶミクに釣られたのか、いつの間にか櫻子も声を上げて泣いている。もうこうなったら収まるのを待つしかないが、その前に僕の鼓膜がどうにかなっちまわないかが心配になる。



 いったい何分くらいこうしていたんだろう。櫻子はいい加減泣き疲れたと見え、地べたにへたり込んでのしゃくり泣きへと変わっていた。嗚咽から号泣、最後にしゃくり泣きとは泣き虫のフルコースで、こんな櫻子は保育園か一年生くらいから長らく見ていない気がする。


 対するミクは僕のシャツを涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながらまだ涙が止まらないようだ。いったい何でこんなに泣くことがあるのかと思って帰って冷静に考えているところだが、そう言えば櫻子に冷たくするのを見ると嫉妬するとか言っていた。


 かと言ってこれはやり過ぎだと思うんだけど? そう思いつつミクの顔を見下ろすように覗き込むと、一瞬目があった後にまた鳴き声を大きくした。どうやらこれは嘘泣きらしいとようやく気が付いた僕は、苺をあやすときのようにミクの背中をトントンと叩いた。


「ばれちゃった? 実はもう泣き止んでたんだけど、彼女より先に気分が納まるのは悔しくて。でも最初は本気で泣いてたんだよ?」ミクは甘えたような声で僕へ弁明を始める。


「全部を疑ったりなんてしないよ。そんな嘘泣きのためにビンタされたなんて思いたくないしさ」そう言いながら自分の頬をさすると今さら実感がわいて来たのか、結構ひりひりする痛みを感じ始めた。


「ごめんね、痛かったでしょ? つい興奮しちゃって…… でもこよみが約束守ってくれないんだもん。私悔しいって言ったよね? あれ本当なんだから」そこまで言うと、ミクはようやく僕から離れて照れくさそうに距離を取る。


 それから櫻子の元へと近寄って行く。まさか取っ組み合いでも始めるんじゃないかとドキドキしてしまうが、すでに気分が晴れたらしいミクは笑顔だし、きっとダイジョブ―― だろう。


 どうやらミクは激情型らしいことはわかって今後の参考にはなりそうだ。しかし今の僕にとって一番重要なのは、このよくわからない状況が一刻も早く片付いてくれることだった。


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