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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:夏の終わり

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42/50

42.特別扱い

 いつもの場所へ行くと健二と涼太はすでにいなかった。十三時半を回った辺りでようやく家を出たのだから仕方ないと言えば仕方ない。


「もうどこかへ行っちゃったのかしら? 帰る前に会えなくて残念だなあ」ミクは本気で寂しそうにし、僕はその姿を見てちょっとだけ嫉妬心が芽生えた。


「どうだろうな、えっと―― きっと土手にいると思うよ」僕が地面を眺めてからそういうとミクは不思議そうな顔で尋ねてきた。


「なんでそんなことわかるの? 書置きでもあった?」


「書置きって言えばそうだね。ここに土手へ向かって矢印が書いてあるだろ? だから河川敷へ向かったってことさ。家に帰ったなら涼太は四角を残していくし、健二はなにも書かないか遊べない合図のバツが多いかな」


「へえ、それでポケットにいつもロウセキ入れてるんだね。なんだか面白いけど便利でいいわね。仲のよい証拠って感じもするし」


「よし、それじゃ僕のロウセキをミクにあげるよ。向こうへ帰ってからどうしても僕の力が必要な時は地面になにか合図を書いて呼んでほしいんだ。まあ見えもしないし行かれもしないだろうけど、気分的に楽になるかもしれないだろ? もちろん電話してくれて構わないけど、昼間は学校行ってるだろうしなあ」


「確かにすぐ来てもらうなんて出来ないのはわかるよ。でもそうしたらこよみがそばにいてくれる気になれるかもしれないね。こよみってホントにロマンチストでステキだけど、それを他の女子にも言っちゃうところが珠に傷よ」


「痛いとこ突くのはやめてくれ。でもこれからは極力他の子に優しくするのはやめるからさ。優しくするのが誰にでもいいこととは限らないってわかったんだ」


「そんなことないよ。いいことに決まってるじゃないの。目の前でやられるとどうしても嫉妬しちゃう私の心が狭いだけ。だから気にしないでいいよ。好かれちゃうのもしかたないし、もしそれで誰かにとられちゃったなら諦め――」


「とられるもんか! 僕は他の誰にもなびきはしないよ。まさか、僕がそんな軽い男に見えるのかい?」


「その言い方は止めた方がいいよ? だって傍目からは軽薄男子に見えるもん。実際に女子なら誰にでも声かけるし……」ミクは容赦なく痛いところをついてくるが僕はそれくらいじゃへこたれない。


「誰にでも声をかけるって言い方はあんまりだ。僕にしてみれば困ってそうだから手を差し伸べてるとか、苺と同じような感覚であやしてやってるくらいのつもりなんだけどなあ。だからそういう気持ちじゃなく関わりたくなるのはミクが初めてなんだってこと、信じて欲しいんだよね」


 ミクは神妙な顔つきで考え込んでいる。いったいなにを? と思いながら眺めていたが、意を決したように顔を上げて真剣な目でこちらをにらんだ。


「じゃあね? 櫻子ちゃんにも優しくしてほしいの。他の女子と全く同じ(・・・・)ようにね。いい? 完全に同じってことよ? 特別扱いしてあんな風に冷たくあしらったりしないでほしい。だって私、こよみのあの態度見ると嫉妬で胸が張り裂けそうになるんだもん」


 僕はミクが何を言ってるのかわからなくて混乱してしまった。冷たくするのが特別扱いだって!? そりゃ他の女子にはしないような態度ではあるけど、それは幼馴染ってこともあって遠慮がないだけだ。第一、優しくする方が嫉妬するはずじゃないのかと疑問が頭の中を埋めて行く。


「わかるよ、何言ってるかわかんないって顔してるもん。そうだよね、意味不明だよねえ。でも私にとってはとっても重要なことなの。だってこよみとの関係でいくら頑張っても敵わないものがあるんだよ? それが今まで関わってきた年月なの」


「でもそんなこと言ったら親兄弟だって嫉妬の対象になっちゃうよ? ちょっと考えすぎなんじゃないかって思うんだけどなあ」


「なに言ってんのよ。だから嫁姑問題とかマザコンの旦那さんとかが存在するんじゃないの。まさかそんなのテレビドラマの中だけの話だと思ってる? 身近な人への嫉妬ってごく当たり前にあるのよ?」


「でもそれと櫻子になんの関係が……」僕は正直言ってミクの考えがまったくもって理解できていない。


「関係はおおあり! つまり現時点でこよみに近いのは、私よりも櫻子ちゃんって印象を持っちゃってるからだってば! もちろんそれは苺ちゃんも同じだけど、さすがに妹だし私もかわいいと思うから平気かな。でも櫻子ちゃんは違うよ…… ちょっとだけだけど不安も感じてるんだからね」


「そう言われてもミクや健二たちの思い込みだからなあ。でもわかったよ。これからは櫻子にも他の女子にもむやみに優しくしないようにするし、良し悪しどっちだとしても誰かを特別扱いすることもやめる。してたつもりはないけどそう見えるってことだもんね」


「うん…… なんか変なこと言ってごめんね。でもまたしばらく会えないと思うと不安で不安で…… だから何回も電話しちゃうと思うけど平気?」


「もちろん! 僕からもかけるけどどうしても夜になっちゃうだろうし、ゆっくり話せるのは週末くらいかもしれないな。それでもいいかい?」


「そんなのイイに決まってるよ。でも重荷になったらすぐに教えてよね? 依存し過ぎは良くないと思うけど、今の私にはこよみの支えが必要なの」この言葉は、ミクに頼りにされているとはっきりわかって、僕は最高に嬉しかった。


 場所が高速道路の下にあるやかましい幹線道路沿いで、さらに言ってしまえば公衆トイレの横じゃなけりゃ、もっといい雰囲気だったのかもしれない。


 それでも僕はミクの手をしっかりと握って河川敷へ向かう坂を上って行った。土手の向こう側にはきっと、この夏休み一緒にミクと出会い日々を堪能した友達が待っている。


 最後にそいつらも含めて大はしゃぎしてこの特別な夏を終えよう。そして今度は特別な平日や冬休みや春休みが待っているはずだ。


 だが土手の向こう側で待っていたのは健二と涼太だけではなかった。


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