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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:夏の終わり

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41.嫁姑関係

 結果から言うと変顔を撮って一回分無駄にするなんてことはしなかった。だって僕たちは外界から遮断された狭い写真機内でガマンしきれなかったのだ。


「またやっちゃったね…… でも今度はアクシデントじゃないから幸せよ? それにしてもこうしてまじまじと見ると恥ずかしくなってくるわね……」


「そんなこと言ってさ、ミクがこっち向いて目を閉じたから思わず…… 嬉しかったけど罪悪感もあるよ。親父さんと会ったばっかだしさあ」


「親父さんって…… こよみたちの話し方って時代劇の人に近いよね。それって江戸弁ってやつなの?」思ってもみない指摘に僕はポカンとしてしまった。


「まさか、ごく普通の標準語だと思うよ? なんかおかしいことあるかなあ、自分では全く分からないけど?」


「うん、たまにちょっとだけね。でもカッコいいわ。健二はちょっと口が悪すぎる気もするけど、涼太みたいに理屈っぽくもなくてちょうどいいバランスよ? まああばた(・・・)もえくぼなのかもしれないけどねっ! それじゃ買いものして家に行きましょ」


 買い物を済ませて家に戻ると、いいタイミングで母ちゃんが昼食の支度を始めるところだった。もちろん苺がうろちょろして邪魔をしている真っ最中だ。


「いいとこに帰って来たよ。今からそうめん茹でるから苺見ててちょうだい。ってミクちゃんまだこっちにいたんだね。一緒に食べて行くだろ?」


「夕方には帰らなきゃいけないので、こよみに手料理作ってあげたくて買い物行ってきました! そうめんなら合わせられると思うのでお手伝いさせてください」そう言ってミクはたった今買って来たばかりの食材を並べ始めた。


「じゃあ僕は向こうで苺の面倒見てるからね。何が出来るのか楽しみにしてるよ」そういって僕は苺の手を引き居間へ行った。苺はせっかくおねえちゃんが来たのに遊べないのかと文句を言っているが、ご飯を作ってくれると説明したら大人しくなった。



 適当に苺をあしらいながら待つこと二、三十分、どうやら準備ができたらしくおかって(台所)から母ちゃんが顔を出して台布巾を投げつけてきた。僕がそれを平然とキャッチしてちゃぶ台を拭いていると、ミクは驚いたらしく呆気にとられている。


「布巾を投げたのも驚いたけど、それを平然と受け取って粛々と用意を進めるこよみにも驚いたわ。田口家では普通のこと、なのよね? 頑張らなくっちゃ」ミクは一体何を頑張ろうとしているのか……


「ちょっと母ちゃん、ミクに悪影響だから少しは猫被ってくれよ。やっぱ普通の家は布巾投げたりしないんだってば」


「悪い悪い、ついくせでやっちゃったよ。でもミクちゃん、わざわざアタシの真似なんてしなくていいんだよ? うちの姑はおとなしい人だしね。じゃあなんで父ちゃんがあんななのかは知らないけどさ」


「はい! でも何が起きても驚かないように心構えだけはしておきますね。うちのママはなんでも厳しくて口うるさいから参考にしたくないんです。優秀な人がいい母親になるわけじゃないって意味では貴重な見本ですけどね」毒舌極まれりと言ったところか、ミクは遠慮なしに母親の悪口を言っている。


「そっか、ミクちゃんはお母ちゃんのことが好きなんだな。いいとこ悪いとこをサッとあげられるなんて、その人を良く見て理解してないとなかなか言えるもんじゃないからね」


「そうですね、嫌いなわけじゃないし尊敬もしてます。でもこよみのお母さんのことも尊敬してますよ? こよみって凄くしっかりしてて大人びてるじゃないですか。同年代の男子とは全然違うって感じ。きっとおかあさんの教育がいいんだろうってうちのパパも言ってました」


「あー、ちゃらさでは大人顔負けだからねえ。将来はヒモかホストかスカウトにでもなるんじゃないかって、それだけが心配さ」まったく母ちゃんは、ホントに余計なことばかりペラペラと口が回る。


「ほら、喋ってばかりだとそうめんがくっついちゃうだろ。早く準備しようよ。まったくもう――」僕は手伝うつもりで台所へ向かおうとしたが、ミクはそれを静止して座っていろと留め置かれてしまった。


「今運んでくるからちゃんと待っててね、旦那さま」ミクは完全に僕をからかうつもりで科を作っている。


「そうやってすぐ茶化すんだから。母ちゃんも笑いすぎだってば!」


 仕方なく待っているとどこから引っ張り出して来たのか、ガラスの器に入ったそうめんが運ばれてきた。しかし人数分は無かったようで、四つとも別の器なのが締まらない。


「なんか凄い豪華な感じじゃん。彩りも良くて、これじゃまるで料亭にでも行った気分になっちゃうなあ」料亭でそうめんが出てくるハズもないが、そんなのこの際どうでもよく、とにかくミクの料理を褒めたかった。


 きれいに盛りつけられたそうめんは、ボウルのままで出てくる母ちゃんの適当でガサツな料理とは全く違っている。敷かれたレタスにそうめんと茹でた肉と小エビ、それにミニトマトときゅうり、あとは錦糸卵が盛りつけられて色鮮やかである。


「食べる前にこれをかけるか、付けながらでもいいわよ? あと別で厚焼き卵も作ったから食べてみてね。こっちはトマトのマリネよ。一応ゴマだれも用意してみたからお好みでどうぞ」


「これはなんだか冷やし中華っぽい感じでウマソーだね。ミクの手料理だからウマイに決まってるけどさっ! でも苺はトマト食えるんだっけ? まだ赤ちゃんだから無理かもしれないな」


「苺だってトマト食べられるもん! ばかにしないでよね!」随分と大見栄を切ったもんだが、せっかく大好きなミクが作ってくれた料理だから無理をしてでも食べてみたいのだろう。


「なんだ苺ちゃんはトマト嫌いだったのね。それならおねえちゃんの卵と取り換えてあげるから大丈夫だよ? 私トマト大好きなの」


「苺もと、トマト、だいすき…… だから食べるもん……」そう言って四つ切のミニトマトを手づかみにして口へと放り込んだ。


「こらっ! まだ手を洗ってきてないだろ! こよみも苺連れて洗っておいで。それといただきますもしてないじゃないか。そんなんじゃ苺はまだ保育園生になれないぞ?」母ちゃんは意外とそう言うところに厳しく、泣き虫の苺は半べそで僕のシャツを掴んでいる。



 それでもなんとか苺は泣かずに我慢でき、みんなで楽しい昼食のひと時を過ごした後、苺が昼寝をするところまで見届けてから僕ら二人はまた外へ遊びに出かけた。


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