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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:夏の終わり

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40/50

40.父親との対面

 とうとうその時が来てしまった。はっきり言って、この日ほど台風でも来て車が動けなくなればいいと感じたことは無い。たとえ不謹慎だと言われようが、今の僕にとって大切なのは自分とミクに関わることだけなのだから。


 そうは言っても連日の快晴が急に崩れるはずもなく、昼前にはミクの親父さんがやって来てしまった。初めて会ったこともあって緊張してしまったが、向こうが僕のことを知ってるはずもなく、ましてミクと将来を約束しただとかキスまでしてしまったなんて想像もしていないだろう。


「キミが田口君か。ミクが随分とお世話になったそうで感謝するよ。本人からいろいろ聞いているとは思うが、これほど明るい表情を見たのは久し振りなんだ」サングラスで表情がわかりにくいがちょっと怖そうな雰囲気を感じる。


「パパ、サングラスは外して? 人と話するのにそのままは失礼だよ? ほら、こっちの日陰に来れば平気でしょ」ミクの言い方が少し気になるが、眩しいのが苦手なのは間違いなさそうだ。


「確かにそうだな。運転してきてそのままだったから気にもしてなかったよ、田口君には申し訳ないことをしたかもしれないね。大人ってやつは子供を下に見がちだから困る」いや、それって自分のことじゃんと突っ込みたくてうずうずしてしまう。


 娘に叱られてサングラスを取ると言うのもどうかと思うが、素直に従うところに人の好さは感じた。確かミクには結構甘いようなことも言ってたし、見た目と性格が違うなんてのはよくあることだ。


 こうして素顔を晒したミクの親父さんの目を見て僕は驚いてしまった。ハーフと言うことで顔立ちが欧米風なのは一目でわかるが、瞳の色がミクともおばあさんとも違ってごく薄い緑色だったのである。


「驚いたかい? 僕の瞳は祖父譲りでね。どうにも色が薄すぎるらしく、強い光が苦手なんだよ。だから普段はサングラスが欠かせない、悪気はなかったんで許してもらいたい」


「いいえ、そんなかしこまられても…… でもちょっと驚きました。緑色の瞳は初めて見たので。あっすいません、なんか興味本位みたいなこと言ってしまって……」


「全然問題ないよ。それにしても随分としっかりした子なんだな。ご両親の教育がしっかりしているのがよくわかるよ。我が家はあまり出来ていないので恥ずかしい限りだね」


 きっとミクの不登校をどうにもできないことを言っているのだろう。だがその責任は親にあるわけじゃなく、相手である同級生にあるはずだ。僕は生意気にも、親父さんが責任を感じる必要なんてないと言いたくなっていた。


 さすがに初対面でアレコレ意見できるほど僕も肝が据わっているわけじゃない。微妙な面持ちで微妙な相槌を打つのが精一杯である。


「こよみにそんなこと言ったって困らせるだけでしょ? パパが心配してくれるのは嬉しいけど、これは私の問題なんだから自分で何とかしないといけないのよ。だからもうママと一緒に悩みすぎたりしないで見守っていて欲しい」


「ひと夏で随分と変わった、いや、成長したと言わないと失礼だな。これも田口君の影響なのだろうね」好意的に思ってくれるのは嬉しいが、なんでもかんでも僕の成果にされても気まずさが募るだけだ。


「僕がなにかしたわけじゃありません。ミクが自分で取り組んで現状を打破しようとしているんです。僕はあくまでそれを支えて行きたいと思います。遠いけど……」そう言って車のナンバーを見ると、当たり前だが日本国内のナンバーであることがわかってホッとした。


 とは言っても僕にとって未知の場所であることは間違いない。それどころか東京の中でも行ったことのある場所のほうが少ないし、東の端に近い足立区からだとどれくらいかかるのか想像もつかない。


「それにしても随分と早く来たのね。ちょっと早すぎで文句言いたいくらい。てっきり夕方くらいに来ると思ってたんだけどなあ」ミクは久しぶりに会った父親を冷たくあしらってみせるが本当は嬉しいようで、そのことは表情から明白だった。


「まあミクを迎えに来ると言ってもとんぼ返りはさすがに疲れるからね。どこかパーキングへ入れた後、親孝行でもしながらしばし休息させてもらうよ。帰りの出発は十五時頃でいいだろう?」


「わかったわ、それじゃ十七時頃でもいいでしょ? チャイムが鳴ったら帰ってくるからそれまで遊びに行ってもいいわね。荷物はもうまとめてあるから後は積み込むだけだし、最後にこよみとデートしてくるからお小遣いちょうだい!」


「まったく成長したと褒めたばかりなのにこれか。甘えん坊はそうそう変わらないもんだな。ママには内緒だぞ?」そう言ってミクへお札を一枚渡すところを見ると、普段から同じようなことをしているのだろう。


「パパ大好きよ。ねえこよみ、またあそこへ行きましょ。ちゃんとした写真も撮りたいしね」


「あそこってまさか――」どこへ行こうと言うのかはすぐに分かったが、あの時あの場所で起きたことを思い出すと顔が紅潮してしまいそうだ。


「ところで健二と涼太はどうしてるの? 最後に顔見せるかと思ってたんだけど来てくれないのね」


「それじゃ昼過ぎにいつもの場所へ行こうか。僕らはあんまり厳密に約束したりしないんだよ。暇なときに集まってそれから考えるだけだね。さすがにもう塾はないだろうから涼太はいそうだ。健二は美咲と遊びに行ってるかもしれないなあ」


「じゃあまずはお昼を食べてからね。そうだ、こよみの家で私が作ってあげる。彼女の手料理なんて男子が憧れるものでしょ? グランマみたいに上手じゃないけど私だってそれなりには作れるんだからね」


「誰も疑ってないし何も言ってないよ。でも楽しみだ、めっちゃうれしい!」まさかの展開にテンションが上がる。


 まだ少しだけミクと一緒に過ごせることがわかり上機嫌になった僕は、ミクと一緒にあの場所へと向かった。



「いい? 今度こそ失敗しないように写すわよ? 確か四回だったから一回くらいは変顔を混ぜてもいいわね。一回目は普通に、二回目はこんな感じでポーズ取ってよ? 三回目は適当に、四回目は変顔すること!」


「オッケー、そうそう邪魔が入ることもないだろうけど、事前に断った方がいいのかな?」僕たちは証明写真機の前でそんな相談をした。


「うーん、わざわざ言うのもおかしな話だけどね。でも五百円玉持ってないのは好都合かもしれないわ。写真撮るために両替してって言えば不審には思われないんじゃないかと思うの」


 ミクのいう通り、写真を撮ることを知られたくないわけじゃないから確かに好都合だろう。僕たちは意気揚々と店内へと入り、両替してもらってからまた証明写真機へと戻っていった。


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