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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第一章:ボーイ ミーツ ?

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4.再接近

 土手の上からこっちへ向かって階段をトコトコと降りてくるミクの姿は、まるでUFOのタラップを降りてきているように感じた。現実的に考えれば宇宙人が同い年くらいの女子の姿で、平凡な僕のところへ現れるはずがない。


 かと言って、宇宙人でない見知らぬ女子がこうして近づいてくる理由もないんだけど、そこはまあ偶然ってこともあるだろう。そもそもミクのおかしな言動に対し、まともに相手をしたのがここいらで僕だけだった可能性もあるだろう。


 なんにせよ、こうして夏休み中でただ四十分の一だった一日が、彼女が現れたことで特別な日に変わることが確定した。どうやらあの後前髪はきちんとそろえたらしく、眉毛の辺りでパッツリ揃えられていて表情がはっきり分かるようになっている。


 それでも僕は嬉しい気持ちを顔に出さないよう気を引き締めて、あえてぶっきらぼうに返事をした。


「なんでもないよ、なんでもいいからゴミじゃないものってことさ。まあバラの花束でもいいだろうけどポケットには入らないだろうね」


「まだ若いのに随分と現実的な考え方なのね。ポケットの中が必ずしも有限とは限らないでしょ? 物質には質量が存在するのが当然だと思い込んでいるんでしょうね」


 ミクがなにを言っているのか僕にはさっぱりわからない。でも理解できるかどうかは問題じゃない。またこうして会って話ができることを喜びたい気分だ。ただしそのためには乗り越えないといけない話題があった。


「昨日あんなに大きな鯉を釣り上げたのに元気がないのね。それに機嫌も悪いみたいだし、私が余計なことしたのが気に入らなかったなら謝るわよ?」


「違うよ、昨日のアレって鯉じゃなかったんだ。ニゴイって言う別の種類だったんだよ。今朝それを知ってガッカリしてるってわけさ」僕は肩をすくめながら顛末を簡単に語った。


「せっかく初めて鯉を釣ったと思ったのに違ったんだ。しかも一人で大喜びしてなんか情けないよ。しかもそれだってキミに手伝ってもらったおかげじゃないか」


 ミクはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。


「でも、すごいじゃない」


「え?」


「だって釣りあげた瞬間にニゴイだってわからなかったんでしょ? つまり始めて釣った魚ってこと。それが鯉じゃなくても、君は自分の力であの大きな魚を釣り上げた。それだけで十分すごいと思えない?」


 ミクの言葉に僕はハッとして顔を上げた。なんて前向きな考え方なんだ。確かに鯉ではなかったけど初めて釣った魚であることは間違いない。そう考えてみれば十分な成果だったと思えてくるから不思議だ。


「それに失敗や勘違いも悪いことじゃない。そのことを知ったら次はもっと上手くできるでしょ?」


「―― そうかもしれない? いや、そうであるべきだね。今まで百点どころか八十点も取ったことがなかったのに九十点取れたなら喜んでいいはず!」僕は胸の奥から少しずつ自信が湧いて出てくるのを感じていた。


「それに、次は本物の鯉が釣れるよう頑張るんでしょう? 私も手伝ってあげるわよ?」


「キミはホントに釣りが好きなんだね。宇宙にも釣りがあるとは知らなかったよ」


「宇宙人だもの、地球の生態系や文化に興味があるのよ」


 そう言って笑うミクの顔を見て僕もつられて笑った。地球の生態系や文化に興味があるなんて真顔で言い放つ女子を見たら普通はおかしいと考えるだろうが、僕にはその発言が知的な物に感じていたのだ。


「キミは僕よりも大分頭が良さそうに思えるけどもしかしてもう中学生? 僕は六年生の十二歳だけど同じくらいなのかな?」年上でも構いはしないのだが、念のため恐る恐る聞いてみることにした。


「女性へ年齢を尋ねるのはマナー違反だと聞いていたけど、堂々と聞くんだからそんなことないみたいね。ええと、地球の(こよみ)に換算すると私も十二歳と言うことになるから同い年でいいんじゃないかしら」


「そっか、なら気を使わなくていいから助かるよ。随分大人っぽいから正直言って少し緊張してたんだ。キミはいつまでいるの? えっと、地球に」


「キミじゃなくてミクよ? そうね、調査の進行状況によるけど、今月いっぱいくらいはいるつもり。それよりもキミの――」


「それよりも? えっとなにか疑問でも?」


「名前を聞いていなかったから何と呼べばいいのかわからないの。自分のことをキミと呼ばないでと言っておきながら、キミのことをキミと呼んでいたら締まらないでしょ?」


「あれ? そうだったっけ? 僕は田口(こよみ)って言うんだ。こよみでも田口でもレキでも好きに呼んでいいよ。友達からの呼び方もあんまり決まってないんだよね」


「それじゃ公平に名前呼びにするわね。こよみ、か。とっても素敵な名前だわ」


「ありがとう、ミクもいい名前だと思うよ。日本語だと未来をイメージする言葉だからね」僕はミクにならって精一杯ポジティブな台詞をひねり出した。


 すると彼女は思いがけず、頬を染めて視線をそらしたのである、その仕草で僕の心はまたひとかけら、ミクへ奪われていった。

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