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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:夏の終わり

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38/50

38.誤解のプレゼント

 それぞれの思いをこめたプレゼントを交換を終えた僕らは、最後の時を惜しむように大汗をかいて走り回ってたっぷりと遊んだ。だけどいつもと少し違った今年の夏も間もなく終わりを迎える。


 それにしてもなんとも衝撃的で刺激的な夏休みになったもんだ。一目惚れとか運命だなんて想像もしてなかったし信じてもいない。それでも確かになにかを感じ通じ合ったからこそ、こうしてほぼ毎日一緒に過ごしてきたんだと思う。


 その大切な時間が終わりを告げる。こういう時は教会の鐘の音なんてのがフィクションでは定番だけど、残念ながらここでは夕焼け小焼けの防災無線がその合図だ。


「時間…… だね。もう帰らないと……」放送が鳴り終わるのを待ってからミクがぼそっとつぶやいた。


「そうだね、今日が終わっちゃうね…… ちくしょう、僕はなんて無力なんだ」思いがけない言葉が口からこぼれてしまう。


「無力ってなにがだ? さすがにどんな偉い奴でも時間は戻せねえだろ。まあでもなんだかんだ言って今年の夏は楽しかったよ。オマエラだっていつもと違う感じがしてただろ?」健二の気楽さが羨ましいと思いつつ、先に言いたいことを言われてしまった悔しさも湧き上がってきた。


「まあ楽しかったのは確かだな。次は来年の夏か? 次に会う時にはお互い中学生だからな。暦は心配で仕方ないんじゃないか? 離れてる間に彼氏ができちゃったりしたらどうしようなんて言い出すなよ?」涼太の余計なひと言は、僕の心をざわつかせるに十分だ。


「二人とも気楽なこと言うなよ。こっちにも色々と―― 誓いと言うか約束があるんだからなんてことないさ」


 事情があると言いそうになったが『何の事情だ?』って話になってしまうだろうから一瞬考えた後言葉を変えた。なんと言ってもミクの現状について僕がここで言うもんじゃないはずだ。


 しかし僕が考えていたよりもミクの心は強かった。


「私ね、不登校なの。イジメられて学校行けなくなっちゃったんだ」始めて僕へ伝えた時のような苦しさは感じさせず、拍子抜けするくらいあっけらかんとした態度である。


 それはきっと、これから踏み出そうとする先を見据えたからこそ出てくる言葉と態度なのだろうと思わせる。そのままさらに言葉を続けた。


「あのね、健二と涼太、そしてもちろんこよみとの出会いは、私にとってかけがえのない出来事だったとおもうのよね。なんでかはわからないけど、もしかしたら地元じゃない解放感とか、日常とは別の環境にいたからそう感じたのかもしれない。だからこそ知っておいて欲しいって思ったの」


「まあ薄々は感じてたよ。小六の夏休みなんて普通に考えたら小学生最後の夏で一大イベント期間だろ? それなのに家を離れて一人になるなんて違和感あったもんなあ。宇宙はともかくさ」さすがに涼太は頭の回転が早く、鋭い考察を聞かせてきやがった。


「イジメなんてどこにでもあるからある程度は仕方ねえよ。我慢するのもぶっ飛ばすのもイジメ返すのもどれもパワーいるだろうしな。子供の力だけでどうにかできりゃそれに越したことは無いんだろうけどさ。まあ頭いいんだし私立の中学でも行きゃいいんじゃないか?」健二のいうことももっともなのだが、それよりもコイツの口からこんなまともな意見が出てくることに驚いて、僕は少々出し抜かれたような気持ちを持ってしまった。


「二人がいいことを言いすぎたから僕の出番は無さそうだけど、たかが小学生の数年分だし、今までの辛いことなんて僕が全部上書きしてやるさ。だからミクは細かいことなんて気にしないで自分のやりたいようにすればいい。近々宇宙飛行士になって助けに行くから待っててくれよ」


「あは、その設定続いてたのね。でも三人ともありがとう。とっても心強い言葉で勇気を貰えたと思う。ぶっ飛ばしはしないけど、今のままでなんて終わらせない。修学旅行へ行くかはわからないけど、なにか想い出を作るか、イジメてくる子たちにトラウマでも植えつけてやるわ!」ミクが健二に感化されたように思えて心配になる。


 それよりも心配なのは、無理をした結果取り返しのつかない事態になってしまうことだ。それだけは避けてもらいたいと以前にも伝えているのであえてここで言うつもりはない。こればかりはミクの決意を尊重しつつ、こまめに連絡をとって支えて行くしかないと考えていた。


 もちろんミクには立派な両親がいるんだから、僕がそんな心配をするまでも無いだろう。だがこれは単純に僕自身がしたいと思ってするだけのことだ。もしかしたら押し付けや自己満足かも知れないけど、こればっかりは想いが湧き出てくるんだから仕方ない。



 それから僕はミクを送っていくため健二たちと別れ、反対方向へ向かって二人で歩き出す。そんな僕らはいつの間にか手を繋いでいた。夕方になってもまだまだ暑くて汗がにじみ出てくるってのに、わざわざくっついているんだから当然手の平も同じようなもんだ。


「あのね、こよみ? みんな一緒のプレゼントだけじゃ不服だろうから、こよみだけのをもう一つ用意してるのよ? 喜んで貰えるか自信ないけど受け取ってくれる?」ミクが珍しく弱気につぶやく。


「なに言ってんだよ。ミクがくれるものならなんだって嬉しいに決まってる。例え駄菓子の包みだとしたって宝物さ」ちょっと表現が貧困だけど、しんみりとした雰囲気になるのが嫌でわざとバカなことを言ってみた。


「でも…… 決めた後から考え直したらやっぱりこれはないなあって思っちゃってるのよね。思いついた時はきっと喜んでもらえるって感じてた私が、その時なにを考えてたのかわからなくなっちゃった」


「そこまで言われると逆に気になるね。きっとなにかスゴイ意表をついたものなんじゃない? それに僕だってもう一つ持ってきてるんだ。みんなの前で出すのがちょっと照れくさくて明日にでも渡そうと思ってたんだけどね」そう言って僕はポケットから追加のプレゼントを取り出した。


 その際、四つ折りにした用紙がガサガサと音を立ててから地面へ落ちた。これはプレゼントでもなんでもないけど一緒に持ってきてしまったんだ、と慌てて拾い上げようとしたが、それが何なのかをはっきりと見られてしまい、僕は動揺を隠せない。


「ちょっと! 踏みつけるなんてひどいよ。もう見えちゃったから諦めなさい。まさかこんなプレゼントを用意してたなんてビックリ。随分大胆な事するのね。さすがこよみと言うほかないわ!」ミクはやや興奮気味になり元気を取り戻している。


「違うよ! これは父ちゃんが押し付けて来ただけで、僕が用意したプレゼントじゃないんだってば。ダメとかそう言う気持ちが無いとかじゃないけど、かと言って今これを渡してもなにも出来ないじゃん?」僕は慌てて弁明したがミクはニコニコして地面から拾い上げてしまった。


 僕の尻にもみくちゃにされていたその用紙を広げると、いかにもお役所書類って感じにアレコレの記入欄がいっぱいである。


「そうだ、せっかくだからうちに寄って行って夕飯食べて行きなよ。どうせこのまま帰っても私一人で食べるんだもん。こよみと一緒がいいし、そうしたらもう少し一緒にいられるでしょ?」


「急に押しかけたら迷惑じゃないの? 夕飯の用意が足りなかったら困るし…… でもまだ一緒にいたいのは確かなんだけどさ」


「ダイジョブダイジョブ、グランマは買い置きいっぱいする人だから急でもすぐ用意してくれるよ。さ、行こ!」そう言ってミクは手を繋ぎ直し僕を引っ張った。


 そしてもう片方の手には先ほど拾い上げた『婚姻届』をしっかりと持って。


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