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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第三章:特別な夏休み

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34/50

34.祝杯と

 これが舞い上がらずにいられるかってくらいに僕は上機嫌だった。はっきり言って調子に乗っていると言っても否定できない。なんと言っても本物の鯉を釣り上げたのだから。


「いやあマジですげえわ。今度こそニゴイじゃなくて鯉だったからな。しかも六十六センチなんてそうそう釣れるもんじゃねえぞ? きっと学校で一番じゃねえかな」健二はずっとこの調子で興奮しっぱなしである。


「いやあ、あそこで帰っちゃわないで良かったよな。あのタイミングで鈴が鳴った時には絶対に鯉がかかったって確信したよ。あんなドラマチックなことってそうそうないぞ? 暦はマジで持ってるよ」普段から知的な発言が多い涼太は、いつもよりさらに小難しい言い回しで大げさな物言いが止まらない。


「でも涼太のせいで帰ろうかって話になってたんだからなあ。無事に釣れたから良かったけど、少しは反省してくれよな」僕はここぞとばかりに話を蒸し返した。


「もうその話はいいじゃないの。涼太がちゃんとあの子の面倒を見てたらこよみは川へ落ちなかったけど、代わりに鯉は釣れなかったもしれないでしょ? こういうのは時の運、巡りあわせなのよね」きっとミクは話を蒸し返して三重の話題が出るのがいやなのだろう。


 もうすっかり暗くなっているが、川に落ちた僕の様子を見に来た母ちゃんが、釣りあげたばかりの鯉を持って帰ると聞かずに押し問答しているうちにすっかり遅くなってしまったのだ。


 おかげで今日もまたうちの庭でバーベキューを始めていた。時間が遅くなったのが功を奏して、みんなの両親もやってきて大人数どころじゃない。


 残念ながらミクのおばあちゃんたちは来なかったが、帰りに寄った際にはゆっくり楽しんでおいでと送り出してくれた。おじいちゃんはもうそろそろ寝る時間らしくすでにベッドへ入っていたらしい。


 そんなことを話していてふと気が付いたことがあって、僕はミクが普段どんな夜を過ごしているのか遠慮がちに尋ねてみたのだが――


「じゃあミクはいつも一人で夕飯食べてるの? おばあちゃんが見ていてくれるとは言えさ? ならこうやって大人数も悪くないって思ってもらえたら嬉しいよ」僕は気を使うつもりで言ったわけじゃない。でもミクの表情を見れば楽しいひと時となっているのは明らかだった。


「別に寂しいわけじゃないし不満はないのよ? おばあちゃんはずっとそばにいて今日は何があったの、とか楽しいことがあって良かったね、とか聞いてくれるしね。自宅にいてもママは帰りが遅いことが多いし、パパは料理が下手だから夕食はあまり楽しいってイメージが無いの」


「それならいくらなんでもうるさすぎかもしれないな。今日はホントに珍しく、涼太の父ちゃんが来てるからまだマシなんだけどさ。いなかったら大変なんだよ」


「暦は余計なこと言わなくていいんだよ。母ちゃんが大人しくしてるんだからそれでいいだろ? 正月の時はマジで酷い目にあったからなあ……」涼太が横から割り込んできた。


「でも涼太んちは毎日じゃないからまだいいんじゃない? うちなんて父ちゃんが酔っぱらうと苺を構いたがってうるさいんだよなあ。すぐ泣かすしさ」


 そう言ってる側から苺が飛んできてミクへと抱きついた。女友達は比較的多い僕でも家にはあまり連れてきたことが無いし、こうしてバーベキューに誘うなんてことは今までそう多くなかった。


 しかも呼ぶ相手は決まって櫻子だったけど、最後に来たのは確か三年生の頃だったはず。それからすれば久しぶりのおねえちゃんだから、苺もテンションが上がっているのかもしれない。


「おにいちゃん、お肉やけたから取りにきなってさ。あとパパがしつこいからたおしちゃってよー」どうやらまた父ちゃんが苺に髭を押し付けたようで、苺は文句を言いながら頬をさすっている。


 それを見て笑うミクは最高にかわいくてきれいでキュートで愛おしい。なんで僕はこんなに彼女に魅かれてしまうんだろう。一目惚れってのはホントに起こることだったっのかと驚くばかりだ。


「どうしたの? そんなにじっと見つめられたら照れるじゃないの。でもこんなに人が多いところではダメだからね?」ミクがイジワル顔でとんでもないことを言う。


「じゃあ二人っきりならいいってことになっちゃうじゃん。そりゃうれしいけどホントはまだ早いと思うんだよね。でも嬉しいしまたしたいけどさ」僕も負けじと言い返した。


「もう、一体どっちがいいの? でも確かに背伸びしすぎな気もするよね。ママに知られたら大変なことになりそう……」


「お母さんは厳しい人なの? その…… 男子と遊ぶとかそういうのも?」僕は今まで聞いたことの無かった家庭事情へ踏み込んでいいものか悩みつつ、それでも気になてしまいミクへ尋ねてしまった。


「うーん、過剰に厳しいってことは無いけど、ママは教育委員会で働いてる人だからある程度は仕方ないと思う。今時は子供だからって油断してられないってよく言ってるもん」ミクは苦笑いしながらとんでもないことを口にした。


「きょ、教育委員会って学校よりも上の会社、じゃなくて役所? じゃないか。そりゃ厳しくて当たり前だなあ。その、不登校を許してくれるだけでも優しい方なのかもしれないけどさ」


「そうね、甘い面はあるかもしれないわ。でも中学になっても変わらなければフリースクールってとこへ行くように言われてるよ? 不登校とか病気だとかそういう事情がある子が通う学校なんだって」


「なるほどね、いろいろ考えてくれてるんだね。うちみたいにノリと勢いで生きてきた両親とはえらい違いだよ。まあ子供としては気楽でいいけど、いつ仕事へさらわれるか不安になることもあるんだよね」


「ふふふ、どっちもどっち、良し悪しあるってことね。昔から隣の芝は青く見えるものって言うくらいだもん。きっと最高の環境なんて存在しないんでしょうね」


「最高の環境ねえ。本当にないのかな? 僕にはミクと一緒にいる今この時が最高なんだけど、それももうすぐ終わっちゃうんだよなあ」


「そうだったわね…… あと三日でパパが迎えに来ちゃう。あーあー帰りたくない、ずっとこよみと一緒にいたいよ」


 大騒ぎしている声が響いてる中、僕とミクは急に寂しく切なくなっていくのだった。


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