3.初鯉(仮)と本当の鯉
翌日になっても、僕は釣り上げた『鯉』について健二と涼太へ力強く語っていた。やり取り中の引きの強さや水から引き上げた時の重さなど、細かく伝えることに夢中になりすぎていたくらいだ。
それはなぜなのか。もしかしたら自分の上げた成果が大したものだったと賛同して欲しかったのかもしれない。その裏には秘めた不安があったからだ。
「いやー、僕もついにやったよ! 初めて鯉を釣り上げたんだもん、少しくらい誇っても罰は当たらないと思うんだ」
実は昨日の帰り道、僕は一人で考え込んでいた。ミクという不思議な少女。確かに鯉を釣り上げたのは僕の道具で僕がやったことで間違いない。かと言って完全に自力のみかと言われると胸を張って言いきれない気もする。
あの時ミクが手を加えた仕掛けには何も特別なことは無かった。見よう見まねでもっともらしいことをして見せただけに決まってる。そもそも彼女は本当に宇宙人なのか? それともやっぱりただおかしな女子なのか?
ただいくつか確信しているのは、彼女ともう一度会いたいと言うことと、一緒にいると何か特別な時間を過ごしているような気がするということだった。
「よし、次は自分だけの力でもっと大きな鯉を釣ってみせる!」
そんな僕の不安を感じ取ったのか、健二は腕組みをして渋い顔を見せていた。涼太は「すごいじゃん!」と調子を合わせてくれているが、健二は賛同出来ない風である。
そしてそれをとうとう口に出した。
「でもレキさ、昨日釣った鯉ってなんか違和感なかった?」
「え、どういうことだよ?」
健二の突然の言葉に、僕は釣り上げた魚を思い出そうとする。鈍い銀色の鱗が輝く大きな魚体をくねらせていたあの魚は確かに鯉だったはずだ――
「俺、家に帰ってから調べてみたんだけど、あれニゴイじゃないかなと。兄ちゃんは海釣りしかやらないからわかんないって言ってたけどさ」
「ニゴイってなに? 鯉とは違うのか?」
聞きなれない名前に僕は思わず首をかしげた。すると健二はその反応は想定内だと言わんばかりに、しっかりと用意してきたポケット図鑑を取り出して、しおりの挟んであったページを開いた。
「これだよ。ほら、形も色もほぼ鯉だろ? でも鯉と違って口のヒゲが少ないんだ。それに体高も低くて細長いみたいだな」
健二が指差したページには、昨日釣り上げた魚にそっくりな絵が描かれていた。確かに鯉には四本のヒゲがあるが、昨日の『鯉』にはなかったような……
「うそだろ? ニゴイ? ってやつで鯉じゃなかったのか……」
僕は顔を真っ赤にして今の今まで自慢していた自分を恥じた。しかも抱えていた不安はミクの手を借りたかどうかであり、まさか鯉が鯉じゃなかっただなんて考えてもいないことだった。
「まあまあ、そんなに落ち込むなよ。四十センチはあったし、大物を釣ったのがすごいことには変わりないんだからさ」
涼太がフォローを入れてくれるが、僕は両肩を情けなく垂らしたまま顔を上げることもできない。今日はこれから何しようと言う話になったころには、返事すらする気がせず一人で家に引き上げてしまった。
昼ご飯の後、いつもの集合場所である首都高高架下に行ってみたが二人はいなかった。きっとすでに行き先を決めて行動に移してしまったんだろう。
これは成果を独り占めしようとした僕への報いに違いない。恥はかいたしぬか喜びでガッカリもした。あげく遊びに行くのにも置いてかれてしまうなんて、ツイてない日はとことんツイてないもんだ。
それでも家に戻ってもすることがないし、母ちゃんに見つかったら宿題やれとうるさく言われるか家の手伝いをやらされるに決まっている。こうなったら何でもいいから夕方まで時間を潰すことを考えよう。
とりあえずポケットを探るがロクなものが入ってない。小石に王冠が数個ずつ、蝋石のかけらにセミの抜け殻の残骸、ギザ十が一枚と伸ばしたクリップが二本ってとこだ。
「ちくしょう! 僕はバカか!? なんでもっと気の利いたもんが入ってないんだよ。こんなゴミばっかあったって仕方ないってのに」
「気の利いたものって例えばどんなもの? まさかバラの花束じゃないわよね?」
背後から聞き覚えのある声がして慌てて振り向くと、ミクが頭上で手を振りながら笑っていた。




