26.証明写真のハプニング
僕は自転車のかごへ入れてきたレジャーシートとガムテープを取り出した。ミクはなんだか不思議そうにこちらを見ているが、僕も自分の行動に疑問を持っているので苦笑いを返すことしかできない。
「どう、かな? 本当はゲーセンへ連れて行くべきなんだとは分かってるよ? 僕だってミクがどうしてもって言うなら少しくらいやかましくたって我慢できるさ。だから遠慮なく言ってくれていいからね」
「ううん、こうやって工夫してくれたことも含めてとっても嬉しいわ。でも考えたのはこよみじゃなくてママだったわね。確かにここなら二人ともハッピーだもん、こよみママに感謝しなくちゃ」
こんなの希望と違うと言われることも想定していた僕にとって、ミクが機嫌良く受け入れてくれたので一安心だ。こうして僕とミクはカーテンをめくって証明写真機の中へと入った。
次に持ってきたレジャーシートを背中の壁へと貼り付ける。空と雲のかかれたシンプルなやつだが真っ白な背景よりはマシかと思って持って来たものである。
「センスが無くてゴメンだけど、こんなのしかなかったから我慢してね。もし真っ白が良ければそうするけど?」
「ううん、こういうのは想い出作りなんだから背景なんてなんでもいいのよ。隣にこよみがいるのが一番大切なこと。そうじゃない?」
「その通りだね。僕も隣にミクがいることが一番だって思ってるさ。考えてることが同じだと嬉しくなっちゃう」
僕が子供らしくはしゃいでいると、その隙にミクは女らしく跳ねた髪を整えていた。自転車で走って来たからではなく帽子をかぶっていたから乱れてしまっているのだろうか。僕にはそんな風には見えないし、何なら被ったままでもいい。
それでもミクは写真を撮るんだから自分をカワイク残したいと懸命になっているようだし、その様子を眺めながらのんびり待つのは至福の時間と言える。男らしく女らしくなんてのは時代遅れと言われても、そんなところに魅かれる気持ちがあるから恋愛が成立するわけだ。
なんてのは母ちゃんからの受け売りだけど、ヤツは恋愛に関して大先輩で頼りになる存在、言うことは素直に聞くべきだろう。今回は僕がリードできなくて恥をかかないようにと、特別に小遣いまで出してくれたんだから、感謝だけではなく労働でも返さなければならない。
そんなことを考えているうちにミクの準備が整ったようである。いよいよ僕とミク、初めてのツーショット写真を撮る時がやってきたのだった。
ついさっきまではたかが証明写真と余裕だったはずなのに、今は心臓がドコドコと激しく動いているのが自分でもわかるくらいだ。しかも本家とは違って撮り直し機能とかは無いはずなので一発勝負である。
「準備出来た? じゃあお金入れちゃうからね。ダイジョブ? もういい?」準備ができてないのは僕だと白状するかのごとく、何度も繰り返し確認してしまう。
「どうしたの? もしかして緊張してるんだ。ふふ、かわいいところもあるんじゃないの。いつも余裕で女子をリードするナンパ男子だと思ってたから、そうでもないところが見られてちょっと嬉しいわね」ミクの笑顔は勝ち誇っているように見える。
「そりゃ緊張くらいするさ。だってやり直しできないんだよ? 変な顔とか目をつぶっちゃったとかになっちゃったら悔しいじゃん。こんな事なら普通のプリを撮りに行った方がマシだったかもなあ」
「もうここまで来ちゃったんだから覚悟決めるしかないってば。私も変な顔で写ったら嫌だから、シャッターの瞬間に笑わせたりしないでよ?」狭い機械の中でミクが肩を寄せて身体をぶつけてきた。そう言う態度をしたくなる気もわかるが、いくらなんでもここは狭すぎる。
「ちょっと危ないってば。外へ転げ落ちちゃうよ」僕はカーテンをはためかせながらミクを奥へと留めるように肩で押し返した。
そんなじゃれ合いをしていたおかげで緊張がすっかり解けた二人は、いよいよ証明写真を写すべく丸い回転いすに半分ずつ座る。僕はミクへ目配せをしながら五百円玉を投入し、機械からは案内のアナウンスが流れ始めた。
なにせ本来は一人の顔を映すだけのカメラだ。二人で映るためにと、お互いの頬がくっつくくらいに近寄って真っ直ぐに正面を見つめた。
『シャッターは四回キラレマス。ジュンビはヨロシイデショウカ。それではゴ、ヨン、サン、ピッ、ピッ』
だがカシャっと一度目のシャッターが切られた瞬間、予想外の事態が起こった。
「ちょっと君たち? そこは遊び場じゃないんだから出て来なさい?」
「えっ!?」唐突にミクが表へと顔を向けた。
「どうしたの?」意味が分からなかった僕は、ミクが動いたことに驚いて思わず右を向いてしまった。
二人ともが顔をそらしてしまった間にもシャッターは切られ続け、四回のうちでまともに正面を向いていたのは最初の一枚だけという結果になったのは言うまでもなく、つまり撮影は失敗と言うことだ。
そんな失敗自体も問題だったのだが、実はそんなことよりももっと大変なことが起こっており、僕とミクは機械の中から出るに出られず、カーテンの向こう側に見えている大人の足元を見つめるのだった。




