25.自転車に乗って
小学生男子が乗るのにふさわしいとは言えない、巨大な子供乗せかご付きの電動ママチャリを飛ばして、僕は急ぎ図書館前へとやってきた。さすがに家までの距離が違いすぎたため、ミクは先に来て待っていてくれた。のだが――
「おい、まさか因縁つけてるわけじゃないだろうな。ミクはこれから僕と出掛けるんだから変なちょっかい出すんじゃないぞ?」
「開口一番なによ、私がそんなことするはずないでしょ! 大体因縁って…… 人のことチンピラみたいな扱いするの酷過ぎない?」
「すぐ暴力に訴えるんだから似たようなもんさ。それにしても珍しく一人なのか。いつもの取り巻きはどうしたんだよ」僕は待ち合わせ場所が被ったらしい櫻子へ向かって吐き捨てるように言った。
「取り巻きってさあ。レキってば私にだけは口汚いし優しくないよね? だから―― まあそんなのどうでもいいか。今は香澄たちを待ってるとこよ。アンタこそいつもの三人組じゃないのね。彼女が出来たからって友達を捨てるようなやつだったなんて見損なったわ」
「なんだ知らないのかよ。健二が美咲へコクってオッケー貰ったんだよ? だからしばらくは二人で遊ぶんだってさ。で、涼太は盲腸で入院してる」
「ええっ!? 涼ちゃん入院したの? 明後日の土曜日に全国学力テストあるのにどうするんだろ。さすがに受けられないだろうなあ。それにしても美咲ちゃんに告白するとかさあ…… 健ちゃんって誰でもいいって感じだから女子から評判良くないんだけどね」
「そんなかわいそうなこと言うなよ。アイツなりにいつも真剣なんだからさ。惚れっぽいのと切り替えが早すぎるだけで悪気はないんだ。涼太の見舞いは明後日に行く予定だから櫻子は無理だな」
「どっちみち一緒に行こうなんて思ってないくせによくそんなこと言うよね。じゃあ今日は彼女と二人きりってことなんだ? 合流したならさっさとどこでも行っちゃいなよ」
「言われなくたってそうするさ。オマエも熱出して盲腸にでもならないように注意するんだな。涼太のやつは熱中症で熱出したのが最初だったし、帽子もかぶらないでフラフラしてたら危ないぞ」
「そうやって急に優しくしないで! バカレキ! さっさと行っちゃえ!」櫻子は今にも殴りかかって来そうな勢いで僕を責めたてている。まったく暴力的な女子は困ったもんだ。
ひと騒動あったものの図書館前で無事に合流出来た僕とミクは、目的地へ向かって走りはじめた。ミクが乗ってきた自転車は、おばあちゃんとかが乗っているのを良く見かけるタイプの、ママチャリを小さくしたようなやつだ。
「なんかごめんね、櫻子がいるとうるさくて仕方ないよ。言ってることもめちゃくちゃだし、ホント人の迷惑になるやつだよ」
「そんな言い方って感心しないわね。彼女ったら明らかにこよみのことが好きで好きでたまらないって、思い切り態度に出てるじゃないの。本当にわかってないの?」
「いやあ、僕もそうかなって思った時もあったよ? でも本人が違うって言ったんだから違うんだろうと思うけどなあ。確か三年生のときのバレンタインで聞いたんだっけか」
「念のため聞いてみるんだけど、それって教室とか大勢人がいるところだったりしないわよね?」
「登校してすぐの教室だったから他の奴らも結構いたかなあ。他にもチョコくれた女子がすぐそばにいてそいつらも聞いてたから聞き間違いってこともないはずだよ」
僕が正直に答えると、ミクは大きく頭を振るような草をしながらため息をついている。やっぱり他の女子にチョコを貰ったことなんて話すべきじゃなかったと僕は後悔し始めていた。
「なんかもうどうでも良くなってきたわ。所詮他人事どころか肩を持ってもライバルになるだけだしね。こよみの中では櫻子はただの幼馴染で決定ってことでいいのよね? 本当に?」
「な、なんでそんなに念押しするんだよ…… それが事実だし、今更好きになったとか言われても困るしねえ。ミクだって僕が他の女子を気にするなんていやだろ? 少なくとも僕は裏切ってるみたいでイヤさ」
今日だけじゃなく、こう言ったやり取りでわかるのは皆が皆、櫻子が僕を好きだと感じていることと、ミクは案外嫉妬するタイプだと言うことだった。一見するとクールな印象を受けるのに実際はそうでもないところは、いわゆるギャップ萌えってやつになるのかもしれない。
「だからもうその話は止めよう。ミクもイヤそうじゃん? おっと、次の道を左に曲がるからね。あそこに塾が見える角だよ」僕はタイミングよくやってきたチェックポイントを使って話を無理やり終わらせることにした。
その後は二人とも無言のままで住宅街をくねくねと進んでいく。そして、ほどなくして現れた小さなスーパーが目的地だ。目的のアレも自動販売機に並んで建物に沿って設置されているのが見える。
「ほら、ここだよ。母ちゃんに教えてもらったんだ。このスーパーなら僕とミクの希望を同時に叶えることが出来るってね」
「なにかのお買いもの? まさかお使いってことは無いだろうし、なにがなんだかさっぱりだわ。ねえちゃんと教えてよ、もやもやするじゃないの」
「そんな難しい話じゃないし勿体付けてもないってば。これだよ、コレ」僕は自販機の横にあるカーテンの付いた機械を指差した。
自転車を停めながらちょっとだけ考えていたミクは、どうやら意図に気付いたようでハッとした顔を見せるとニコニコと笑顔を作る。どうやらコレでも大丈夫のようで一安心だ。
「普段は僕らには縁のないコイツだけど、まあこんな使い方もいいんじゃない? フィルムがもう無いからって母ちゃんが小遣い持たせてくれたのは意外すぎて驚いたけど助かったよ」僕はそう言ってポケットの中の五百円玉を確認した。




