24.また二人きり
僕がミクの家へ行った翌日、夏休み一番の事件と言える出来事が起こった。なんと涼太が盲腸で入院したと、朝一番に健二から電話があったのだ。
その健二は健二で、四葉のクローバーを指し出しながら美咲へ思いのたけをぶつけた結果、二人は付き合うことになったのだとか。とは言ってもそれが意味するところはよくわかっておらず、とりあえずは二人で遊ぶ回数を増やす程度の意味しかなさそうである。
そう言う意味では僕とミクだって付き合ってると言えるわけだし、相思相愛度なら誰にも負けない自信がある。と、僕だけじゃなくミクだって思ってるはずだ。
とまあ、そんな衝撃的な朝だったのだが、おかげで鯉釣りに行くつもりだった僕のやる気は見る見るうちにしぼんでいった。
「まあそんなわけでさ、今日の釣りは中止になっちゃったんだ。せっかく来てもらったのにごめんよ。代わりと言うわけじゃないけど、ちょっと連れて行きたいところがあるんだけどこれからどうかな?」
「今日はこよみと遊ぶつもりで来たんだもん。もちろんどこへだってついていくわよ? でも涼太のとこへお見舞いに行かなくていいの?」
「今頃手術してるかもう終わったかってとこだよ。だから明後日くらいでいいんじゃないかな。父ちゃんが盲腸の時は一週間くらいで退院したから、なんてことないと思うよ?」
「そっか、今朝入院したばかりだもんね。それにしても貴重な夏休みのうち、一週間も無駄にしてしまうなんてついてないわねえ。夏の全国学力テストも受けられないだろうし、きっと悔しがってるんじゃない?」
「どうだろなー、僕らにはあんまり勉強の話はしないし成績のいいのをひけらかしたりもしないんだよ」そうやって気を使われるくらいに差があるってことだと僕と健二は認識しており、それはおそらく正解のはず。
涼太の容体は心配だけど、入院しているならちゃんと面倒を見て貰えているはずだし問題ないだろう。父ちゃんは看護婦さんに声をかけまくって、いつ病院から追い出されるかとヒヤヒヤしたけど、涼太に限ってそんなことをするはずがない。
それよりも今はミクと二人の時間を有意義に使うことが最優先なのだ。
「それでどこへ連れて行こうって言うの? 遠いなら自転車でもいいわよ? 家に戻ればグランマのがあるから私は大丈夫。普通の自転車だけどね」
「なんだ、自転車乗れるのか。てっきり本当に乗ったことないと思ってたよ。遠いってわけじゃないけど近くもないから自転車で行くのもいいかもしれないな。じゃあそれぞれ帰ってから自転車で待ち合わせしよう。図書館の前でいいかい?」
「ええ大丈夫。もしこよみの家より先へ行くなら、私がこよみんちまで行ってもいいわよ? あまり気を使ったり遠慮したりはしないでほしいの。別に私ってかわいそうな子じゃないんだからね?」
「いやいやそんなつもりはないよ。図書館の先にある郵便局の近くから路地を入っていくところだからうちの先ってわけじゃないしね。他に待ち合わせしやすそうなところが思いつかなかったってのもあるし」
「私の考えすぎってことね。実はこよみが優しすぎて、気を使わせ過ぎてるんじゃないかと不安なの。テレビドラマの台詞の真似じゃないけど、私は重荷になりたくないのよ」
「そりゃ確かに考えすぎだよ。僕は誰にでも優しくすべきだとは思ってるけど、しようしようとか意識してないし、もっとミクに特別なことをしたいと思ってるくらいさ。でも思い浮かばないから大したこと出来なくてごめんよ? でも交換するプレゼントはもうちゃんと考えてあるからダイジョブさ」強気で答えた僕にはこんなときに使えそうなとっておきがあるのだ。
「私もちゃんと考えてあるわよ? まだ用意出来てないけどあと十日ちょっとあるんだもん。きっと間に合うわ」
「まだ用意出来てないけど間に合うってことは、ミクの手作りってことじゃん!? そんなスゴイもの貰っちゃっていいのかな?」
「そんな凄くはないから期待しすぎないでよね? 私って意外にプレッシャーに弱いタイプなんだから…… そんなことより時間がもったいないわ。自転車取りに行ってくるからまた後でね」
「うん、僕も急ぐけどくれぐれも車とかには気を付けてね。慣れない道で事故にでもあわれたら申し訳が立たないからさ」
「心配してくれてありがとう。浮かれてないでちゃんと交通ルールを守って安全運転を心がけるわね」
「えっ!? ミクってば浮かれてんの? なんで? もしかして僕と二人きりで遊びに行くから? ってことは僕と同じじゃん!」
「もう! そういうことを簡単に口にしないでよ! まったく…… 恥ずかしいんだから大声も出さないの、わかった?」
「あはは、ゴメンゴメン。涼太には悪いけど僕は大分浮かれてるから、ミクも同じだってことが嬉しかったんだよ」
「だからいちいち口に出されたら余計に恥ずかしくなるのよ!」ミクの顔は濃いオレンジ色に染まり、恥ずかしいのか怒ってるのかわからないくらいだ。だがそれがまたとってもカワイイ。
そんなことを口にするといつまでも堂々巡りで先へ進めないので、僕はもう一度謝って終わりにした。




