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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第一章:ボーイ ミーツ ?

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2.宇宙人の釣り講座

 土手へと座り込む三人。ミクと名乗る少女も一緒になってしゃがみこんだ。切り落としたばかりの前髪はすでに風に飛ばされて跡形もない。今はっきりと見えるようになった顔つきはどこか一般人とは違うように感じる。


 まず目立つのが異常なほどふさふさとして長いまつげ、そしてそばかすのあるオレンジ色がかった頬にぷっくりとした小さな唇だ。それは同級生にいないタイプで僕の目には非現実的に映った。もしかして本当に宇宙人なのかもしれない。


 ミクはそんな僕の視線を気にも留めず、釣竿をひったくって行く。目の前で繰り広げられる光景、されるがままになっている僕を見ながら、健二と涼太は半分呆れているようにニヤニヤしているのがなんだか悔しかった。


「まずこれがいけないわね」


 ミクはリールを操作すると糸を伸ばし仕掛けを手元へと引き寄せた。さらには僕の仕掛けをじっくりと観察している。どうせ適当にそれっぽいことをして見せてるだけだろうけど、一見するとわかってる風なのが面白い。


「ちょっと待て。お前、釣りしたことあるのか?」だが笑いをこらえきれなくなった健二がツッコミを入れてしまった。それでもミクは構わず作業を続けていく。


「あるわよ。だって宇宙人だもの。地球の文化なんて基本的なことは予習済みよ」


「宇宙人? 文化? 予習? 釣りだぞ?」涼太が首を傾げながら断片を復唱してみたが、まったく合点がいかないようだ。


 そのまま僕へこっそりと耳打ちしてきた。


「やっぱり頭おかしいんじゃないのか?」涼太に言われなくても似たようなことは考えている。でもさすがに女子相手に口に出すのは良くないと、僕は涼太に肩を押し当てて苦笑いをした。


 そんなことをしている間にもミクの『手直し』は進められていく。言葉の真偽はともかく、その手さばきは僕たち小学生レベルのつたない技術よりはるかにまともに見える。


「ほら、良くなったでしょう? これでやってみなさいよ」ミクは手を止めると、手慣れた手つきで竿を差し出してきた。


「ああ、ありがとう?」僕は礼を言って受け取っては見たものの、正直言ってそれほど大きな違いは無いように見える。そんなことから思わず失言が口をつく。

「これで本当に釣れるのか?」


「そんなの試して結果が出ないと信用できないでしょ?」


 もっともすぎる答えに返す言葉もない。僕は受け取ったばかりの釣竿を構えて軽くしならせてから仕掛けを水面へ投げ込んだ。川の流れが乱れ不規則な波紋を作ってからまた何もなかったように流れて行く。


 ミクが僕の隣にしゃがみ込んできた。こんな至近距離から覗き込まれたら心臓が口から飛び出しそうだ。自ら切り落とした前髪のお蔭で、今やはっきりと見えるようになった整った顔立ちに澄んだ瞳が妙に大人びて見えてくる。


「焦らないで…… じっと待つのよ?」


「わ、わかあってるって!」


 僕が返事をする際に声が裏返ってしまうと、健二と涼太は再びクスクスと笑い出している。トンだところで冷やかされるネタを提供してしまった僕は、恥ずかしさを誤魔化すように一旦立ち上がって背伸びをした。


 数分よりもっと長く、十数分くらい経っただろうか。健二と涼太は一度餌を交換してまた待っている。僕の仕掛けはまだそのままでいいだろう。だがいつまでものんびり待ってはいられなかった。


『チリンチリン』「来たっ!」


 竿先が小刻みに震え鈴の音が聞こえた瞬間、僕は思わず歓喜の声を上げる。でも釣りあげるまでは何が起こるかわからない。それに釣れたとしてもそれが鯉であるかどうかはまた別の話である。


 だがホルダーから引き抜いた大きくしなる竿の重みは、手にずっしりとして小物でないことだけはすぐに分かった。これで興奮せずにいられるほど経験豊富な僕じゃない。


「落ち着いて。慌てると逃げられるわよ」ミクが冷静な声で指示を出す。


「わかってる、大丈夫だから任せときなって」僕は冷静を装いつつ、竿を腰へ引き寄せた体勢でリールをゆっくりと巻き始めた。


「すごい! 本当に釣れたぞ!」健二が立ち上がり涼太も歓声を上げる。


 応援はありがたいがこっちも必死なので手を振る余裕はない。チラリと目をやっただけですぐに水面へと視線を戻した。額に浮かんで流れて行く大粒の汗、リールを巻く手にもにじんで今にも滑りそうだ。


 やがて水面が流れとは別のざわつきを見せ始めると魚影が見えてきた。そしてとうとう――


「鯉だ! 間違いないぞ! レキが鯉を釣りやがった!」

「スゴイよ、ウチのクラスでは初めてじゃないか!?」


 無事に鯉を釣り上げると健二も涼太も大興奮だ。もちろん僕も大はしゃぎしたかったが、完全に自分の力とは認めづらく心から喜べるかというとそうでもない。


 だが岸へと引き上げた鈍い銀にきらめく鱗を持つ鯉を見ていると、釣りあげただけで十分だと言う気にもなってくる。それに小学生にとっては充分大物と言えるサイズだ。僕はようやく喜びが湧きあがってきて思わずガッツポーズをした。


「やった! 初めて鯉を釣ったぞ!」


 別にテレビの釣り番組のような激しいファイトやカッコいいドラマは無く、リールを巻いて引き上げただけではあるけど、僕ら小学生にとっては十分に刺激の強い冒険譚である。


「おめでとう」ミクが小さく拍手をする。だがその表情はどこか寂しげだった。


「どうしたんだ?」


「――なんでもないわ。地球の研究が少し進んで目的に近づいたことに安堵しただけよ?」ミクの意味深な言葉に僕は首をかしげるしかなかったが、かといってそれ以上追及することもできなかった。


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