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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第二章:初めてのコイ

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15/50

15.誰が我慢すべきなのか

 他人が辛そうなところは見ていて胸が苦しくなる。それが男子なら力づくで励ましたりして何とかなったりするけど、女子の場合はそうもいかない。どちらかと言えば女子の方が繊細で感情豊かな気がするからだ。


 しかしミクは声を震わせることもなく、表情を少しゆがめたくらいで話を続けようとしている。芯の強さを感じて僕は尊敬に近い感情を持ち始めていた。


 それでもただ聞いているだけと言うのは無理がある。


「無理はしなくていいからね。ホントだよ? 話してくれるならちゃんと聞くけど、言わなきゃいけないって気にはならなくていいんだ」僕は精一杯気遣ったつもりだけど、それでもミクは首を振ってから続きに取り掛かる。


「大丈夫、私を知ってほしいんだもん。なんでかは聞かないでね? 私の本名は卯中(うなか)ミクって言うの。だから顔立ちを大げさにした落書きに『うちゅう人』って書いて貼り出されたりとかされちゃってね。しまいには卯中の卯が卵に似てるからだと思うけど、卵から産まれた宇宙人って陰口言われてるのよ」


「ひどい…… ひどすぎるよ! 僕がそこにいたら絶対守ってあげるのに! やっぱり陰湿なイジメって本当にあるんだなあ。いやもちろん嘘だって意味じゃないよ? 母ちゃんの話だとこの辺りの小中学校はイジメが少ないらしい。もちろん無いわけじゃないだろうけど、東京の中でも相当田舎というか前時代的な地区だから、僕らは普通に殴り合ってケンカしてるからね」


「そっちのが珍しいわよね。今時なんて先生が指一本触れただけで体罰だとかセクハラだとか言われるから見て見ぬ振りばかりなのに。もしかして体罰も残ってるとか?」


「どっから体罰なのか知らないけど、うちの父ちゃんは僕が悪いことしたら遠慮なく殴れって先生に言ってるよ。もちろん僕は悪いことなんてしないけどさ。うちの父ちゃんは自分が相当の悪ガキだったから、子供は全員同じだと思ってるのさ」


 僕の言ったことがよほどおかしなことだと感じたのだろう、ミクは肩を揺らして笑っている。当たり前だが、辛そうにしているよりも笑っているほうがずっといい。


「そんな風にサバサバした環境なら違ったかもしれないね。でもうちのクラスは女子がこそこそ結託して一人をイジメるって言うのが多かったかな。私が虐められるようになったのはクラス替えで、今までイジメてた子たちとイジメられてた子が別のクラスになったからだと思う。それで私が目立ってたから標的にされたのよ、四年生までのクラスでは仲が良くないグループみたいなのはあったけど、イジメるほどではなかったんだけどね」


「でも五年生からだともう一年以上やられっぱなしってこと? 親はなにもしてくれないのかい? さすがに怒鳴りこんだりとかはしないだろうけど、担任に相談くらいはするよね」僕が疑問をぶつけると、ミクは呆れたように肩をすぼめて言った。


「それが、担任はクラスにイジメはありませんって答えたらしいのよ。私も面と向かって言われてるわけじゃないし、落書きも名前が書いてあるわけじゃないから、宇宙人を想像して描いただけって言われてそれきりだわ。結局私は五年生の夏休み明けから学校へ行けなくなってしまってるのよ。いわゆる不登校ってやつ」


「うーん、そう言う話を聞くといつも思うんだけどさ。なんで被害者側が我慢しないといけないんだろう。学校や担任もどうにもできないんじゃなくてどうにかする気が無いわけじゃん。そんなの本当ならイジメる側が学校へ来られなくならないとダメだろ? 頭に来るよ」


「そうだよね、そうやって怒ってくれることは嬉しいな。地元にいると、夏休みに家から出るのも怖くなってきちゃったから祖父の家に来てるってわけ。祖母に英語を教われるから悪くない選択だと思ったけど、それ以上にいいことがあって、今は毎日が楽しくて嬉しいの」


「それって…… 自分で言うのはアレだけど、僕たちと遊ぶようになったから?」


「うふふ、どうかしらね。そんなこと普通は恥ずかしくて堂々と言えないわよ。ホントにこよみは色々な意味でスゴイ男子よね」


「褒められてる気があんまりしないのは気のせいか? まあミクが笑ってくれるなら僕はいくらバカにされようが構わないけどね。なんだっけな、こういうとき道具になるみたいなこと言うような――」


「道化にでもなるってことかしらね。でもそれは考えすぎ、私は純粋に感謝してるわよ? 都会の方が人が冷たいって聞いてたけど全然そんなことないって感じてるの」


「まあそれはたまたまかも知れないね。どこ行ったって同じような人が住んでるんだから、後はどんな人と出会うのかは運次第じゃない? 僕は最高に幸運な夏休みになったと思ってるんだよ」


「それならおあいこってことでいいわね。夏休みはまだあと少し残ってるし、二人で最高の夏にしようね」そう言い残して、ミクは小ギレイなマンションの中へ吸い込まれていった。


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