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荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~  作者: 釈 余白(しやく)
第一章:ボーイ ミーツ ?

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1.鯉釣りと出会い

 夏の空はどこまでも高く青く入道雲は真っ白だ。そんな快晴の荒川土手には軽く風が吹いていた。僕はサドルの後ろに釣竿を立てて積みこみ、前かごへ載せたタックルボックスをガシャガシャさせながらいつもの釣り場に向かってペダルをこいでいた。


「今日は絶対に釣ってやる!」


 まずは気持ちが大切なので声に出して自分を鼓舞する。決して飛ばし過ぎて疲れたわけじゃない。小学六年生の夏休みも半分ほど過ぎてしまったが、僕にとってこの夏は特別なものにしなければならないのだ。


 小学生最後の夏休みの間に一度でいいから大きな鯉を釣り上げる。それが僕の掲げた小さな目標だった。つまりその期限はあとひと月もない。


 いつもの釣り場に到着すると健二と涼太はすでに先に来て待っていた。


「まったくレキは行動が遅いんだよ! 早くしないといいポイント取られるぞ!」


「わかってるけど買い物行かされてたから仕方ないんだってば!」


 せかす割りには先に始めていないところが親友って感じだ。僕らは釣り竿に仕掛けをセットし川面に向けて餌を投げ込んだ。水面を通ってくる風は冷たくはないが、さっきまで走っていた道路上の熱風よりは大分涼しく感じる。


 僕はスポーツドリンクの入った水筒をグイッとあおり、父ちゃんの真似をしてぷはあっと声を出してみた。


「何してるの?」その時、突然背後から声がかけられた。しかも女子!?


 ビックリして三人一斉に振り向くと、そこには奇妙な格好をした少女が立っていた。足首の上まで紐がぐるぐる巻きついたような真っ赤なサンダル、ひざがわずかに覗く生成りのスカート、そして鼻まで届くくらいに長すぎる前髪のせいで顔がほとんど見えない。


「お前、誰?」健二がぶっきらぼうに尋ねた。


「私はミク、宇宙から来たの」そう言って首を真上に曲げながら指さした。しかし真上は橋の裏側だ。


 微妙な空気に一瞬で全員が黙り込んでしまった。男子三人が目で意思疎通を図ると恐らく考えていることは同じ、『あ、これヤバい奴だ』である。


 だが、僕にはそれと別の感情も湧きあがりつつあるのを理解していた。ヤバいのは間違いないけど、同時に「なんか面白いヤツっぽい、カワイイし」なんてことを頭に浮かべていたのだ。


「えっと…… つまり宇宙人?」僕が返答すると健二が肘で突っついてくる。これは『ヤバい奴に関わるな』のサインだろう。


「そうよ。地球のことを研究しにやって来たのよ? あなた達はこの辺りの現地人かしら?」


「なんだそれ! 冗談きついって!」その言葉に涼太が笑い出した。続いて健二も笑い出した。僕はあっけにとられて反応できないままだ。


 ミクと名乗った女子はそんな僕たちの態度に構う様子もなく、ずかずかと近づいてきて鯉がかかるのを待っている竿をじっと見つめた。まさか女子や宇宙人が鯉釣りに興味があるとでも言うのだろうか。


「これで鯉を釣ろうとしてるの? そんなの無理に決まってるわ」ミクは涼太が家から持って来た芋ようかんを見てから非情な一言を言い放つ。


「なんだと! なんでそんなこと言うんだよ! 涼太のひいじいちゃんは鯉釣り名人だぞ!? こうやって僕たちのために餌を用意してくれるんだ。絶対釣れるに決まってるさ」


 僕の反論にうつむく素振りを見せたので、ミクはたじろいだのかと思ったのだがどうやら違ったらしい。僕のタックルボックスを値踏みするように眺めるとそこからハサミを選び無断で手にした。


「ちょ、勝手に何すんだよ。危ないから戻し――」

『ジャキジャキ――』ミクは僕が言い終わらないうちに自分の長い前髪を掴み、ハサミで勢いよく切り落としたのだ。もちろんザクザク不揃いで見栄えは悪いし、行動も突発的で僕らはかなりの衝撃を受けてしまった。


「これでよく見えるわね。じゃあ、私が釣り方を教えてあげる」


 突然告げられたミクからの提案だったが、僕はとても逆らえず戸惑いながらもうなずいてしまった。


 そしてこれが、彼女との特別な夏の始まりだった。


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